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庇護欲をそそる王子様と庇護欲をそそらないお姫様  作者: まくのゆうき


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小部屋の異変

クリスが二人にも知っておいてほしかったんだとエレナの件を伝え終えると、急に隣の部屋からバタバタとした音が聞こえ始め、三人は思わず顔を見合わせた。


「大丈夫でしょうか?」


最初にそう切り出したのはケインの同僚の騎士だった。

やはり彼が一番、この中で常識人のようだ。

もしかしたら二人の関係について話せるほど観察していても、どこかで男女二人というところに抵抗があったのかもしれない。

クリスとブレンダは何もないとケインを全面的に信じているけれど、彼の中ではなにかあるかもしれないという疑念を拭い去るところには至っていないということだろう。


「まあ、ちょっと様子を見てもいいかな。本当に大変なことが起こっているならもっと騒がしいはずだし、多少争ってもいいって言ってしまったから、少し待つしかないかな」

「クリス様がそう仰るのなら……」


彼はドアの向こうを気にしながらも、クリスがそういうのならとドアに近づくことはしなかった。

ここはクリスの執務室で、この場所における絶対権力者はクリスなのだ。

だからこの判断で間違いはないだろう。



しかし騒がしくなってから数分もしないうちに、今度は部屋の中から悲鳴が聞こえた。


「悲鳴?」


大声で言い合いをしているくらいならまだいい。

そしてその結果、机や物を叩いたりするくらいはあるだうと思っていた。

けれど、部屋の中から聞こえたのは小さいながらも悲鳴だ。

その前に大きな音がしていたのなら、その音に驚いた声と捉えることもできるだろうが、直前にそのような音はしなかった。


「中で何が起こったのでしょうか?」

「たぶん大したことではないと思うな」


ブレンダがさすがにそれとなく見に行ったほうがいいのではと促すが、クリスは小首をかしげるだけだ。


「ですが、悲鳴の上がる前は何かドタバタとしていましたよね」


ドタバタの末の悲鳴。

何もないという方が信じがたい状況だ。

そしてブレンダの言う通り、心配なのはエレナの御身だ。


「今度は静かすぎませんか?エレナ様が怪我をしたりは……」


ケインがエレナに怪我をさせられるとは考えにくい。

なので怪我をするとしたらエレナの方だ。

もしエレナがケインになにかされそうになって抵抗した末の悲鳴だったとしたら。

長い付き合いの相棒とも言える存在が何かをしでかしていたらというのは、あまり考えたくないけれど、二人にしたのは失敗だったかもしれない。

いかんせん証人がいない状況なのだ。

もしケインがエレナに怪我をさせて呆然としているような状況だったら、実際に見ていないこともあり、考えが悪い方へと向かっていく。

けれどクリスはクスクスと笑うだけだ。


「それは多分大丈夫だよ。もしそんな事になっていたらケインがすぐにドアを開けると思うし。でも、ノックくらいしてみてもいいかもしれない。返事がなければ、鍵を使って開けることにするよ。さすがに悲鳴が聞こえたのに何もしないってわけにはいかないからね。何より君に心労を与えるのは本意じゃないしね」


クリスはそう行って立ち上がると、ドアをノックした。

しかし、何を行っているかわからない返事のようなものは聞こえるけれど、ドアが開く様子も、ノックで返ってくる様子もない。

しばらく待っても聞き取れる返事らしいものが聞こえなかったため、クリスはため息を付いて鍵を開けるとそのドアを開いた。



「先程悲鳴が聞こえましたが、どうされましたか?」


ドアが開いたのでブレンダが様子を見に行くと、そこにはベッドの上で抑え込まれているエレナの姿があった。


「エレナ様!」


ブレンダがエレナに駆け寄ろうとすると、何故かクリスはブレンダの腕を掴んでそれを静止した。

その状況にただならぬ事が起きていると悟った彼もさすがに立ち上がって様子を見に行く。

そしてその光景を目にした彼は、さすがに顔をひきつらせる。

ここにクリスがいて、ブレンダを活かせないようにしている状況じゃなければ、飛び込んでいって殴り倒していたかもしれない。

ドアの前で、それとなく立ちはだかるようにしているクリスのおかげで頭が冷えただけだ。

でもいいたいことはある。

これは散々言ってきたことだ。

このくらいは許されるだろう。


「ケイン……流石にそれはどうなんだよ。変な気起こすなって言ったよな?」


この状況はどう見てもケインがエレナを襲っているようにしか見えない。

しかしエレナは、少し体を上げるようにしてこちらを見ているが、驚いた表情をしているだけで何も言わない。


「これは違う……そういうんじゃない」


彼の言葉で我に返ったケインはエレナを抑えたままそう言うが、その体制がすでに説得力を軽減させている。


「エレナ、大丈夫?」


クリスがエレナに声をかけると、エレナは首だけを傾げて言った。


「ええ。力比べをしていたら倒れてしまっただけだから」


いつもの調子で離すエレナに、ブレンダは思わず安堵のため息が出た。


「何をなさっているんですか……」

「だって……」


エレナはそう言うと、首を動かしてケインを見た。

エレナが説明したほうが説得力があるけれど、確かにこの体制なら自分のうほうが説明しやすいだろう。

ケインはこの状況について自分が説明するのかとため息をつく。


「エレナ様が自分と戦って実力を試したいと言うので、こうなりました。最初は武器を使って戦いたいとおっしゃったのですが、狭い部屋の中で武器を振り回すなど危険ですし、そもそもこのような場所に持ち込むものではありません。なので、力比べという提案をいたしました」

「なるほどね」

「一応ハンデもつけてます。この通り、私はエレナ様を抑えるのに片手を使わないという条件です」


ケインがそう言ってエレナを抑えたまま開いている手をひらひらとさせると、クリスは少し困ったと言った表情で小首を傾げた。


「まあ、問題ないかな。私じゃ力が足りないからね。もし同じように力比べをしようなんて提案されたら負けちゃってたかもしれないな。状況は理解したよ」

「ありがとうございます」


少なくともクリスの疑いは晴れた。

そう感じたケインは少し落ち着きを取り戻した。

この状況で疑うなというのは無理だ。

普通に考えてもこの状況を見れば疑いをかけた同僚の方が正しい。

だからさすがのクリスでも自分の言い分を信じてくれないのではないかと思ったのだ。


「それでケイン、エレナは負けを認めたんだね」


クリスに言われたケインがエレナを見ると、エレナは首を縦に振る。


「はい、先程……」

「それならそろそろ離してあげてくれる?」

「かしこまりました」


クリスに促されて、押さえていた手を離しエレナを開放したケインは、そのまま体を起こすとベッドから降りた。

そして無言で小部屋を出ていく。

さすがにこれならエレナが勝ったとは誰も言わない。

だからエレナの出した条件を自分が飲む必要はないはずだ。

とりあえずエレナの無謀な要求はこれで一旦抑えられた。

この先、同じような要望を出してくるのは間違いないけれど、少し時間ができたのだから、その間にどうにかクリスにどう対処するのかを考えてもらえればとケインは考えていた。


「もう少し近しくなっているかと思ったけど、予定外だったな」


クリスが横を通るケインに既成事実でも狙っていたようなことを言うと、ケインはさすがにむっとしたように言い返した。


「クリス様が思っているようなことはしませんよ……。無理強いする趣味はありませんから」

「まあ、いずれ、エレナは誰かと結ばれることになるけど、それで後悔しないなら別に構わないよ。僕はそれがケインであってほしいと思っているだけだよ」


ケインがエレナに何かを強要することはないと分かっている。

けれど合意の上なら何があっても構わなかった。

それがまさか力比べになろうとは。

クリスはベッドに仰向けに転がっているエレナを見てため息をつくのだった。

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