表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
庇護欲をそそる王子様と庇護欲をそそらないお姫様  作者: まくのゆうき


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

493/975

見えない成果

ケインはエレナの努力を少し離れた場所からとはいえ見守ってきた。

情報はクリスからもたらされていたし、学校内でエレナのアイデアが流行したのも目の当たりしにしている。

けれどエレナはそれを自分の目で見た訳ではない。

母親主催のお茶会で、彼女達がそう伝えたようだったが、エレナはそれを彼女達が自分に使うおべっかだと思ったのだろう。

エレナには腕力ではない力があり、それこそ社交で必要とされるもので、エレナはそれを持ち合わせているのだから周囲はかなりの期待を持っている。

おそらく人との関わりを最小限に抑えられてしまったが故に、その力があることを自覚しないまま来てしまったがことで実感が持てず、成果が目に見える腕力で成果を出したいと考えるようになったのだろう。


「エレナはどうしたら自分に自信が持てるようになる?」


ケインが試にそう尋ねると、エレナは少し考えてから言った。


「ケインはできることが多いじゃない。だから私は、その一つでも自分が超えることができたらって思っているわ」


エレナが自信を持つためにはケインに騎士の持つ技術の何かで勝つことが必要らしい。

でもそれはおそらく唯一勝るであろう足の速さの事ではない。

幼いころも騎士たちから逃れて駆け抜けたそうだし、孤児院でも一歩遅れたら置いていかれてしまった。

本当に敵が現れた時はその逃げ足を使えば充分にエレナは自分の身を守ることができるだろう。

本当は緊急時にその力をいかんなく発揮してくれたら充分なのだが、エレナはきっとそれでは納得しない。

けれどケインにも譲れないものがある。


「騎士としての技術でというのなら、体の大きさも、力の差もある。それに俺は生涯絶対にエレナには抜かれないし、手を抜いたりはしない。それは俺の矜持が許さない」


エレナの騎士になるために努力してきたのだ。

別に自分は守られたいわけではない。

他の騎士もそうだろうが、幼いころから鍛えてようやく本職とした騎士が、思いつきで鍛え始めた姫に負けるなどあってはならない。

それにここで手を抜いて自信をつけさせてエレナが勘違いをしては意味がない。

自信は持ってほしいが、勘違いをさせてはいけない。

でもそこに固執する原因になったのが自分だと言われてしまったら、これをどうにかするのも自分の仕事だろう。



「じゃあ、私がもしケインに挑んで勝つことができたら、この先、自由な外出を認めてもらえるよう一緒に進言してちょうだい。それができるようになったら外で働いてみたいと思っているわ。いっそ一人で暮らしてもいいわね。自分を磨くためには実戦経験が必要だと思うの。そのためにはその環境に身を置くのが一番だわ」


孤児院の女性たちは自分の作ったものを売ることでお金を得て、皆の生活を助けていた。

確かに男性とは違う仕事をしているけれど、彼女たちは自立しているように見える。

それなら、その危険込みで生活できるようになれば、自立に一歩近付けるのではないか。

幸い料理を作ることもできるし、一度街に出かけたことがあるので買い物の方法は分かる。

一人で買い物をしたのは、ブレンダに見守られてだけだけれど、理屈はわかるのだから、後は繰り返しやって覚えればいい。

それに掃除洗濯も一応自分でできる。

けれど今、その中で活かせているのは料理のように思えるが、それも材料は孤児院が用意してくれているので、全てを一人でできているわけではない。

けれど一人で暮らしたら、その全てを自分でする必要がある。

もちろん一人で生活をしていればトラブルに巻き込まれることもあるだろう。

でも大人ならそれにだって対処できなければならないはずだ。

そしてそれができたのなら、自立した大人の女性になったと、一人前になったと周囲に認めてもらえるのではないか。

エレナがそう主張すると、あまりに非現実的な発想に、ケインはため息をついた。


「エレナ、街はそんなに安全じゃない。集団生活をしている孤児院ですらあの状態なんだ。それを一人で暮らすとか、それは俺も許容できない。エレナは俺に勝てたらって言ったけど、今のエレナじゃ街を歩いているたちの悪い男にだって勝てない。そもそも男女でどのくらい力の差があるかわかってるのか?」


エレナはそのような被害に合った女性たちの事をきっと知らない。

そもそもそのような被害に合った女性が、自らそれを口にすることはかなり稀である。

そしてエレナの見てきた悪い男、まずバザーの男は酒に酔っていた。

力ずくで女性をどこかに連れて行こうとしていたけれど、言葉も支離滅裂、足元もおぼつかない、ただ酒の勢いに任せた行動だった。

つまり男本来の力も発揮されていないし、彼からすればちょっと声をかけた程度、感覚としてはからかったくらいなのだ。

そしてもう一人、孤児院に来た男は貴族で、確かに女性に嫌がるようなことを言っていたが、あれもされている女性には申し訳ないがたいしたことではない。

男が本気で力で事を起こすつもりだったなら、殴ったり抱えたり、手段はいくらでもあるのだ。

だからあれも本気ではなかった、もしくは本気ではあったけれど本人の意思を確認する意識があったと言えるので、無理矢理事を起こす予定はなかったはずだ。

本当に進めるなら、それこそさっさと力任せに誘拐した方が人目につかなくて足がつきにくい。

それをあえてしないのは、捜索させないため本人の同意を待つという、比較的穏やかな方法をとっていたからで、いざという時に身の潔白を証明できるように言質を取ろうとするあたりは何とも貴族らしいと思う。

自分が知る限りだとエレナが触れた悪い男というのはこの二人だが、彼らを参考にされては困る。

実際はそんなに生ぬるいものではないのだ。


「それはわからないわ。でも、そういう人たちのいる中で生きていくのも自立の一つになるのでしょう?それにトラブルを起こすことが前提なんておかしいわ。それじゃあ、街は常に荒れた状態ということになってしまうけれど、ブレンダと歩いた限りではそんな様子は見られなかったもの。女性だって一人で行動していたし。それは普段から騎士たちが治安を維持しているからでしょう?」


もちろん街歩きの際は比較的安全な場所を案内している。

それに見えない所で多くの騎士たちがエレナを護衛していたはずなので、トラブルなどあるわけがない。

むしろそこでエレナがトラブルに巻き込まれようものなら、騎士のクビが飛ぶだろう。

それに今でこそ皇太子妃が内定しているブレンダは、騎士になった当初からずいぶんと町の人間と気さくに接していた。

それを長年続けていたことによって、皆に覚えてもらっていたし慕われていた。

ちなみに夜会と似たような振る舞いをしていた事もあり、特に店で売り子をしている女性たちには人気がある。

そんな彼女が、妹として連れて歩いている子を周囲が悪いように扱う訳がない。

自分はその時立ち会っていなかったけれど、きっと街の皆が温かい目で見守っていたことだろう。

確かにそれも現実だ。

けれどエレナが一人となれば話は変わってくる。

いくら騎士が見回りをしていても、たとえエレナの一人暮らしを外で見守る騎士が姿を見せずに張り付いていても、やはり隣や後ろにいなければすぐに対処できないし、周囲から見える位置に騎士がついているだけでかなりの抑止になっているのだから、離れるのは違う。

こうして考えると、ブレンダも街に一人で出かけていたようだが、彼女はそれができるだけのものを事前に築いていたのだなと、彼女の残したものに驚かされる。

それもエレナを説得するために口にするまで気付かなかったことだ。

時々クリスはブレンダとエレナは似ているというけれど、もしかしたら、本人が見えない部分で大きな成果を残しているという部分も含まれているのかもしれない。

そんなことがケインの頭をよぎったが、今は目の前のエレナをどうにかすることが先だ。

ケインはブレンダに対する考えを頭の隅に追いやると、エレナに再び向かい合うのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ