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庇護欲をそそる王子様と庇護欲をそそらないお姫様  作者: まくのゆうき


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避難と誘拐

彼らは混乱に乗じ、避難誘導をすると見せかけて、女性と子供だけのグループを避難と称して誘導し次々馬車に乗せていった。

無理に連れて行こうとすれば騒がれる可能性もあるが、安全に避難しよう、親子一緒にと説明し、一人がその話に乗ると、後は芋づる式に彼らはついてきた。


「面白いくらい釣れるな」

「まさか入れ食い状態になるとは思わなかったな」


こっちに来れば避難ができると多くの人に声をかけていれば、同じような立場の人がいるなら大丈夫という集団心理を利用した大胆な作戦だが、これが功を奏した形である。


「いやあ、あの領主様、頭いいんだなぁ」

「でもその頭をこんなことに使うなんて、世も末だろう」

「まったくだ」


後のない領主が考えた作戦、他に案がないため、とりあえず言われた通りに動いた彼らだが、これだけの数を集めることができれば、かなりの金になるため、半信半疑だった気持ちは感謝に変わった。

これならば報酬がかなり期待できるため、だんだん気分も上がっていく。

だから、馬車の近くで案内している人も、よりにこやかに馬車への乗車を促すのだ。


「あの、まだ動かないんですか?」


時折、中の大人が不安そうに質問してくるが、それに対しても余裕で接することができる。


「できるだけ多くの人を乗せてあげたいと思わないか?そうすれば一度に多くの人が避難できるんだ。それにここにいれば、矢に直接当たることはない。だから奥に詰めて手前を開けておいてくれ」

「わかりました……」


話をするために手前に出てきた人に、質問が終わったなら奥へ詰めるよう言えば、とりあえず彼らは言う事を聞いた。



そうこうしているうちに馬車は人でいっぱいになった。

もう乗せられないと判断した馬車は、国境に向けて出発することになる。

だが彼らは動くことは伝えても、あえて行き先は言わない。


「馬車を動かすんで危ないからここを閉めます。暗いですけど我慢してください」


馬車は人でいっぱいになると、男の一人は中にいる人たちにそう案内した。

そして中の人たちの返事を待つことなく扉が閉められると、少しして外で馬の嘶く声がして、馬車は静かに走り出したのだった。



どこまで逃げていくのか分からない。

しかし襲撃現場から遠ざかっているのは間違いない。

もちろん、中にいる誰もこの馬車の行き先は知らないが、とりあえず安全だと判断し安堵した彼女たちは、黙って馬車に揺られていた。

しばらく馬車は走ると、やがてスピードが落ちて止まった。

窓もないのでやはりどこなのかは分からない。

しかし馬車が止まってほどなく、外から何やら言い合いをするような声が聞こえてきた。

当然扉は中から開けられないので、外に出ることはできないし、中にいるのは女子供ばかりなので、彼らは外を気にしながら身を寄せ合ってじっとしていることしかできない。

それに争う声がしているのなら、外の出た方が危険な可能性もある。

そうしてしばらく内容の分からない声を聞きながら、暗い中でじっとしていると、突然馬車の扉が開いた。


「あなた方は……」


開けた騎士は、荷物のようにぎっしりと詰め込まれた人間の多さに思わずそうつぶやいた。


「騎士様?」


開けられた方も、扉を開けたのが案内をしてくれていた彼らではなく、騎士団の人間であったことに驚いていた。


「どうしてこのような事になっているのですか」


中からの声に我に返った騎士が尋ねると、乗せられた女性たちは顔を見合わせたが、やがて入口近くにいた一人が話し始めた。


「今日は皇太子殿下即位のパレードがあったんですけど、それを見ていたら急にそのパレードが襲撃されて……。それで逃げようとしていたら親切な男性がこの馬車に案内してくれたのです。矢がたくさん飛んでいるし、周囲に囲いのある馬車があるから安全のために隠れているようにと。それで多くの人を一度に避難させたいから、詰めて乗るようにと」


パレードが襲撃されたという話はすでに国境まで届いていた。

そしてその情報と共に、人身売買組織に寄る誘拐が発生する可能性があるため、警備を強化するようにと通達されていたのだ。

話をしている女性たちは、あくまでパレードの襲撃から避難するためにこの馬車に乗ったという。

まさかこんなところまで連れて来られているとは思っていないだろう。


「それで?」


事件性が高いものだと警戒を強めた結果、口調が強くなった騎士に怯えながらも、どうにか同じ女性が話を続けた。


「あ、えっと……それで、襲撃場所から離れるために馬車を動かすからって扉を閉められて、中が暗くなると馬車は動き出しました。そして今ここに……」


確かに目の前に騎士はいて、襲撃が続いている様子はない。

だからこの場所が男の言った通り、襲撃場所から離れていることは分かる。

それに自国の騎士がいるのだから安全に違いない。

なのになぜ彼は自分たちを警戒しているのか。

女性が不思議そうにしていると、それを見た騎士はため息をついた。


「あなた方、自分たちが誘拐されていたという意識はありますか?」

「誘拐ですか?」


ここにいる人間が馬車に乗ったのは本人の意思だ。

でもそれは男の案内を信じてのことで、彼らの本当の目的など考えてもいなかった。

たくさんの人が同じように避難していたし、粗雑な感じはしたものの、男らの対応も悪くはなかった。

何かの間違いではないのかと、状況を飲みこめず女性が驚いていると、騎士ははっきりと言った。


「このまま我々が馬車を止めなければ、あなた方は隣国に連れて行かれていました。そして、奴隷とか兵士とかになるよう強要されていたと思います」

「そんな……」


無理矢理乗せられた訳ではないし、手足を縛られたりしているわけでもない。

実際に矢の飛び交う現場に危険や恐怖を感じていた。

周囲がパニックを起こして逃げ惑う中、親切にされたという認識だった。

まさか自分が誘拐され、他国に奴隷として売られそうになっていたとは思わなかった。

その現実を突きつけられた女性たちの中には、ようやく自分のおかれた状況を理解したのか、すすり泣いている者もいるようだが、馬車の荷台が暗いためそれが誰なのかは確認できない。

話を聞いてしまったら、この馬車に長い時間いるのは苦痛と恐怖しかないだろう。

とりあえず皆に馬車から降りてもらう方がいいと騎士は判断した。


「とりあえず皆さまから詳しい事情を聞かせていただきます。一度降りていただいて、事情聴取の後、騎士が同行して皆さんをお送りします。外の方が、こんな暗い所にいるより気持ちも晴れるでしょう」


そう騎士に言われ、顔を見合わせながらも、連れて来られた者たちはとりあえず馬車を降りた。

馬車を降りて辺りを見回すと、馬車の正面には門があり、周囲を見回せば見覚えのない景色が広がっているだけだ。

その景色を見て、現在地すら分からない彼女たちはただ呆然とするのだった。

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