最後の狩り
パレードの始まる前、街が一目でも王族を見ようと集まる人でごった返している中、目的の違う者たちが街に集まってきていた。
今回の襲撃を行った者たちである。
人ごみの中で襲撃事件を引き起こすことで、パニックを起こした民衆たちを、別の形で狙っている者たちがいたのだ。
パレードを親子で見に来ている市民も多いことから、その中から親とはぐれる子どもが出ることが想定できる。
さらに矢を撃ち込む人間とは別に、民衆の人垣の外側で構えている人間が、そのような子どもを捕獲するために準備していた。
つまり、混乱を利用した大量誘拐、それが彼らの狙いだった。
「お前ら、射てる方がその間動けなくてリスクが高いんだ、ここまでしてるんだから、しっかり捕まえてくれよ」
「こっちも人数で報償が決まるんだ。手を抜くつもりはねぇさ」
彼らの報償はその日どれだけの獲物が確保できるかで決まることになっていた。
全体の数に対して分配されるのだ。
矢を射るメンバーには危険手当の名目で最低限の保障があるものの、この仕事はそれでは割に合わない。
割増しについては彼らの腕にかかっているのだ。
そして捕獲メンバーは捕獲数で報償が決まる完全歩合制で雇われていた。
分が悪いと逃げてもいいが、当然分け前はゼロだし、素性は知られているので後から何を言われるか分からない。
それなら参加した方がいいだろうと多くの者が参加していた。
彼らはパレードを見るため前へ前へと押し寄せる民衆を少し離れた位置から伺い、その中に混ざることはしない。
沿道が埋まり、人垣が固まり、こちらを誰も振り返ることのないそのタイミングが来るのを所定の位置について彼らはじっと待っていた。
「そんなにめでたい話なのかねぇ。上が変わろうが、うちらに恩恵があるわけでもねぇのに」
恩恵があるならこんな仕事はしてないけどなと笑いながら一人が言うと、別の人物もそれに同意する。
「そうだよな。まあ、最近は平和だから、新しい皇太子もその流れを組んでいるって話だし、国民としては変わらないことが幸せってことになるんじゃないか?まあでも、こっちは彼らの人気のお陰で仕事が捗りそうなんだから、文句つける必要もないだろう。むしろありがたく思わなきゃなぁ」
「ちげえねぇ」
国民から人気のある王族が統治しているからこそこの人だかりだ。
これだけいれば獲物も狩り放題だし、今回はそのためのサポートまで付いている。
「過去最高記録を出せってお達しだからな」
「そりゃあそうだろう。なんたってそのためにこれから別動部隊がここいら一体を混乱させる手はずなんだ。それにここで稼がねぇと、しばらく仕事がねぇらしいから、今日は大盤振る舞いなんだとさ」
気が付けば他の者も会話に混ざって盛り上がっている。
けれどそんな会話に耳を傾ける者など、この周辺にはいない。
皆が待っているのはパレードであり、それぞれが連れとその時が来るのを雑談しながら待っているのだ。
「まず一人ずつ対応しなくていいってのがいいよな」
「確かに。いちいち説得してとか効率が悪くてしょうがねぇ」
「まったくだ。まあ、高い商品だし、傷物は価値が下がるか売れないかだからな」
今回も売れない状態、死んだり欠損したりしたものは価値が下がる。
その条件は変わらない。
けれど数が多いのだ。
多少価値が下がっても、それを数でカバーできるだけの獲物が目の前にある。
彼らがそんな話をしながら、厚みを増していく人垣を見ていると、弓の舞台から声がかかった。
「おい、そろそろ来るらしいぞ。網の奴らも準備しておけ!」
「待ってましたよぉ。うちらにはきらびやかなパレードより、こっちの方がお似合いときたもんだ」
「さて、こっからは仲良しごっこはなしだ。お互いに健闘を祈るだけにしよう。同じ場所の獲物を狙うライバルだからな」
「そうだな」
彼らはそう言うと、お互いの邪魔にならないよう、広がって網を張るのだった。
そうしてパレードの最中、襲撃は始まった。
王族を狙って射るように見せかけているが、それは目眩ましで、本当の狙いは騒ぎを起こして、街中の警備を減らすこと。
だから狙いを定めず数を打つ。
弓を引く者は人に紛れたり、建物の影に身を隠したりしながら、バレードの後方へと移動し、移動中に矢を放つ。
それなりの人数が放っていく矢は、バレードの中に雨のように降り注いだ。
そのため、パレードの列は崩れ、王族が避難、騎士もそれに同行するように駆け抜けていく。
前方の道はそうしてもぬけの殻になった。
弓部隊が前方から後方に向けて逃げながら走っていると、列後方の馬車は矢のせいで事故にでもあったような状況になっていた。
馬を失くした馬車はただの箱でしかない。
「あの馬車の残骸、何か残ってたりしねぇか?」
一人が立ち止まって言うと、もう一人は馬車をちらっと見たが、そのまま通り過ぎようという。
「さすがにねぇだろ。それより早くずらからねぇと!この辺、まだ騎士がいんぞ?それに後から来たやつも内側に矢を射ながら来るんだ。欲をかいてあれに近づいて、自分が的にされちゃあ意味がねぇよ」
「そうだな」
馬車のそばにはなぜか一人の騎士がいて、周囲の様子を伺っている。
そしてなかなかその場から離れていかない。
「あれ、置いていかれた可哀想な奴ですかね」
「そうかもしれないが、王宮騎士団の制服だから、関わらないのが得策だろう」
「捕まりたくはないし、命も惜しいからな」
走りながら弓部隊の数人が馬車の残骸を横目に見ながら駆け抜け、パレードの最後尾を確認すると、彼らは弓を隠して街の人混みに紛れた。
潔く逃げた弓部隊の者のいる一方、実際に馬車に立ち寄った者もいた。
先頭の方を襲撃し後方に向かって逃げている者たちだ。
自分たちは逃げるにしても最後の方なので、矢を放ちながら移動することはあっても、後から来た人間の矢に当たる可能性はほとんどない。
だからパレードの列の流れていた道に出ていくのは特に問題ないと判断したのだ。
「誰も乗ってないのかよ」
せっかく立ち寄ったのにと不満をぶつけるように一人が馬車を蹴った。
大きな音がして車体が揺れるが、声一つしない。
「こんだけやって声もしないんだから、さっき出てきたやつらが乗ってただけなんじゃね?」
小窓のカーテンをめくって一人が中を覗くと、内壁に大量の矢が刺さっていた。
さすがに人がいれば悲鳴の一つや二つ聞こえてもおかしくないし、この状況の中で座っていたら遺体となって発見されているだろう。
他の男もちらちらと中を覗いてみるが、状況は変わらない。
そして一人が思い出したように言う。
「そういやなぜか馬車から騎士が出てきたよな」
「これでお姫さんでも乗ってりゃなあ」
自分たちが最後の集団だと知っていた彼らは逃げ遅れることを恐れていた、
けれどここまで人がいないなら、一番危険な殿を務めた見返りくらい欲しい。
そこで目を付けたのが、お姫様が乗っているはずの馬車だったのだが、すでに多くの人間が射た矢がたくさん刺さり、馬もおらず使いものにならない。
馬車の中にお姫様がいれば人質になるかもしれないと期待して近付き小窓を除けば、中は椅子の板が捲れ上がっていて荒れた様子で、内壁や板に矢が刺さっている状態だ。
「そういやさっき、女の名前叫んでる騎士がいたな」
「じゃあ、さっきのに紛れて姫さんにとんずらされたってことかよ」
「ハズレ引いちまったな」
騎士が出てきたというのなら、騎士が椅子の板を縦に使って反対側から逃げたということに違いない。
そしてお姫様は、騎士に庇われ脱出、そしてさっき駆け抜けた馬たちのどれかに乗せられて逃げた。
つまりこの中には誰もいないのだ。
一方、置いていかれたらしい騎士は、この周辺をうろうろしながら、自分たちの仲間の足を走れないようにしているらしい。
彼はもしかしたら、こうして逃げて来る自分たちを捕まえるために残されただけなのかもしれない。
そうだとしたらここにいるのは危険だ。
幸い、彼は他の仲間を捕まえていてこちらには気づいていない。
「おい、あの騎士に足をやられるまえに逃げるぞ」
「そうだな」
そうして馬車の周りにいた彼らは、騎士が自分たちの存在に気がつく前にその場を立ち去ることにしたのだった。




