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庇護欲をそそる王子様と庇護欲をそそらないお姫様  作者: まくのゆうき


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エレナ信仰の再燃

一方、クリスに呼び出されたり、騎士たちから別途事情を聴かれていた騎士たちには一旦休憩が出された。

すぐに交代することになるとはいえ、この騒動の中での休憩は貴重だ。

体力だけではなく、気力も持ち直す必要がある。

次に戻った際、落ち込んだままであったり、ぼんやりしてしまったりして、仕事をおろそかにしていると見なされれば、降格の可能性もあるのだ。

周囲が慌ただしく動いている中、寮での休憩を認められた彼らは、自室に戻るため廊下の端を歩いていた。

クリスに呼ばれた面々は完全に沈んでいた。


「あんなクリス様初めてだ……」


一人がそうつぶやくと、それにつられるように本音をこぼす。


「美人が起こると怖いのは本当だった……」

「クビにされるかと思ったよ」


期待して行った反動もあるだろうが、クリスがとにかく怖かった。

冷たい笑みを浮かべて、怒鳴られているというより、研ぎ澄まされたナイフで刺されているような声だった。

その様子はふんわりおっとりした普段のクリスからは想像できないものだ。

普段のように見て和むことなどできなかったし、これが次期国王の風格なのだと悟る。

ただちやほやされて育ったわけではない事を、身をもって理解したのだ。

「エレナ様が擁護してくれなかったら、皆どうなっていたかわからなかったな」

クリスの言っていることはもっともだ。

当たり前だが反論の余地などない。

エレナが元気な姿で戻ってこなかったら、命を落とすようなことがあれば、取り返しのつかないことになるところだった。

それなのにエレナは、自分が命じたのだと自分たちを庇ってクリスに反論してくれた。

一番危険な状態にさらされた上、本来ならその恐怖をクリスに訴えてもいい立場であるにもかかわらず、自分の事を棚に上げ、真っ先に自分たちの危機に駆けつけてくれた。

あの場面でのエレナは正に英雄だった。


「もう俺、エレナ様についていこうって心底思った」

「ああ、そうだな。ご本人が指示したこととはいえ、こっちもなんかこう、冷静になれば護衛対象を置き去りにしてきたわけだし、クリス様の意見は正論だから、あのままだったらどうなっていたか……」


あの時のクリスと、周囲の人間の視線を思い出すだけで身ぶるいしてしまう。

クリスの言葉で我に返って、ようやく自分たちのしたことに気がついた。

クリスが王宮に入り安全が確認された後、すぐにエレナの元に戻っていればまた違ったのだろうが、あの時はエレナに言われたことを成した達成感で、舞い上がって王宮に留まってしまっていたのだ。


「でもなんかさ、こう、鼓舞されたというか、前向きに背中を押された気がしたんだよ、あの時は」

「冷静に考えれば、何でそう思ってしまったんだと後悔の方が先に来るけど、あの時はそれが正しいって思ったんだよな」


襲撃を受けている最中だからという理由で冷静な判断ができなかったのなら、それだけで騎士失格だ。

何のために騎士学校で多くを学び、訓練場でさらなる研鑽を積んでいるか分からない。



「なんか前にさ、エレナ様をずいぶんと支持する新人騎士ばっかの年があったけどさ、あの時は、何でクリス様じゃなくてエレナ様なんだって思ったけど、新人たち、似たような経験したんじゃないか?」


それならば、納得がいく。

新人がまだ先輩たちと交流の薄い中、何かが起きて、そこでエレナが先ほどのように間に入ったのなら、彼らにとってエレナは英雄に違いない。

実際は少し違い、入団早々行われた体力測定で挨拶をする姿、そして訓練場に足を運んで熱心に取り組む姿に心を動かされたものが多い。

けれど気さくに声をかける騎士が咎められた際、自分の指示なので処罰をしないよう進言したのも間違いはない。


「そういえばあったな、そんな年。でもあれはエレナ様が気さくに話しかけてくれって言って、それを真に受けた一部が本当にそうした結果、出世の道を断たれたんじゃないかって言われているが……」


だから彼らは処罰されていないものの、クリスに目を付けられていると言われている。

当然本人たちもそれを知っているはずだ。


「でもあいつら騎士団辞めてないんだよな。立場をわきまえるようになっても、エレナ様の事は気にかけているようだし」

「それは、似たような事をしていた騎士の人数が多いから、処罰する訳にはいかなかったんじゃないかって話もあるぞ」


あの状況で、エレナに気さくに接した騎士は多い。

それを全て処罰の対象にすれば、新人がほとんどいなくなってしまうのではないかという数だ。

それにタイミングも悪かった。

あの時期、エレナは訓練場に入り浸っていると言われても仕方がないくらい姿を見せていたし、親近感を持たせてしまったのは間違いない。


「確かに一時期、エレナ様は訓練場に通いつめていらしたからな」

「遠くから見てひやひやしたし、騎士団長も注意喚起してたんだけどな」

「あの時は、あいつら何やってるんだって俯瞰して見られていたのにさ、まさか自分たちがそれ以上の失態をやらかすとは」


自分たちは今までエレナと接する機会が少なかった。

けれどもし、自分たちが新人騎士だったら、もっとエレナに接する機会が多かったなら、自分たちも同じ過ちを犯していたかもしれないと今なら分かる。


「エレナ様にはそういう力があるのかもしれないな。それに今回の一件で、情に厚い方だとよくわかったし、何かこう、良い上司だなって」

「確かに。っていうか、あれが本物の戦場で、エレナ様が進軍の号令をかけたら、俺は迷いなく突っ込んでいける気がする」


皇太子殿下をお守りしろと命じたエレナは、話に聞く戦場の女神のようだった。

きっと先ほどと同じように騎士たちに声をかけたら、皆が喜んで敵陣に突っ込んで行くだろう。

その様子がありありと想像できる。


「ああ。皇太子殿下を守るとか、自分たちには回ってくることのない機会だっていうのもあったけど、どちらかといえば勢いだったしな。エレナ様だって王族なわけだし、序列は下でもエレナ様がクリス様に劣るって話じゃないんだからさ」


もともとエレナの護衛も大抜擢の末だ。

パレードに参加するのも名誉だが、王族の近くで護衛をする任務は、その中でも最も名誉なもののはずだった。

それは国王でも王妃でも皇太子でも第一王女でも変わらない。


「どちらにしても次はないだろう。今回の件を肝に銘じておかないと、同じ過ちを繰り返すことになりかねない」

「そうだな。クリス様もおっとりしているだけではないと良くわかったし、エレナ様にも人を動かす力があるって身を持って知ったわけだからな」


そもそも彼ら四人の護衛は王宮騎士団の任務であり、そのお元の指示を出しているのは国王なのだ。

今回はその命に背く結果となってしまった。

こうして話をしているうちに徐々に頭の中が整理されていく。

寮に着いた頃には落ち着いて休息がとれそうだ。


「とりあえず、今回はエレナ様のおかげで首がつながっているようなものだな。感謝するしかない」

「そうだな。この恩は必ず返さなきゃな。俺はエレナ様に忠誠を誓うよ」


こうして庇われた騎士たちから、下火になりつつあったエレナ信仰が再燃し、エレナの支持は上がっていくことになるのだが、それを本人たちは知る由もないのだった。

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