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庇護欲をそそる王子様と庇護欲をそそらないお姫様  作者: まくのゆうき


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相互監視

騎士団長が退室したのを確認したクリスは、黙って話を聞いていたエレナに声をかけた。


「そうだエレナ、お願いがあるんだけどいいかな?」

「もちろんよ!私にできることなら何でも言ってちょうだい」


この非常時、しかも自分が狙われている状況だ。

それでもできることがあるのならと、エレナはクリスの言葉を待った。


「まず、王宮内から絶対に出ない、護衛たちから見えない位置には行かない、それはわかっているよね」

「わかっているわ」


さすがに目の前で騎士団長とクリスが、犯人の狙いは自分かもしれないと話していたのを聞いていたのだ。

ここにいれば襲撃犯が入ってくるのも難しいと言っていた。

安全な場所にいることは自分の身を守るだけではなく、周囲に迷惑をかけないことなのだとエレナは了解した。

クリスはそれを聞いて微笑むと、もう一つお願いがあるという。


「それで、できれば私と、ブレンダとも離れないようにしてほしい。特にブレンダを見失うことはないように張り付いてほしいんだ」

「ブレンダと?」


さっきもブレンダを気にかけるようにと騎士団長に言っていたが、てっきり聞き間違いかと思っていた。

けれどこうして自分に向けられた言葉もそれと同じものだったのだから、聞き間違いではないようだ。

それにこれからクリスとも離れないよう、三人で一緒にいることになったはずなのに、どうしてそこまでクリスがブレンダを気にするのか分からない。

エレナからすればブレンダの方が自分よりよほどしっかりしているのだ。


「少なくとも男性の入れない場面では二人で一緒にいてほしい。ブレンダは、エレナが近くにいれば無茶はしないはずだから……」

「私がブレンダを監視するということかしら?」


ブレンダが本気を出せば、エレナなどすぐに振り切られてしまうだろう。

自分で役に立つのかと小首を傾げると、クリスは再び微笑んだ。


「そうだね。エレナがこの状況で護衛を振り切ってどこかに行ってしまうことはないだろうけれど、ブレンダは守られることに慣れていない。自分で何とかできるって考えて動いちゃうかもしれないけど、今の状況では大人しく守られてもらわなきゃ困る」

「ブレンダは、皇太子妃、未来の王妃になるのだもの。当然だわ」


ブレンダは護衛騎士ということもあり、守られるより守ることに長く重きを置く生活をしてきた。

だからどうしても危険があると、自分が前に出てしまうのだという。


「だからってエレナも、自分で何かしようなんて考えないでね。二人はできるだけ私と一緒にいる。騎士たちも護衛対象が一ヶ所に集まっていた方が守りやすくなるし、その間、交代で彼らも少し休めるから。いい?」


騎士たちが動きまわっているのは知っているし、外では襲撃犯を捕えるために働いている者、そして中は警備だけではなく連行した人たちの取り調べをしている者がいる。

だからこそ報告が上がってくるのだ。

そんな彼らが、自分が動かないだけで、交代で休息をとることができるというのなら、自分もそうすべきだと納得した。


「そうよね、部屋に留まるだけでいい私と違って、彼らはずっと動き回っているのだもの。それで少しでも休めるのなら、そうすべきだと思うわ」


エレナがクリスの提案を受け入れると、クリスは話をブレンダに振る。


「ブレンダ、悪いけどしばらく三人で一緒に行動するよ。いいね?」


黙って話を聞いていたブレンダはため息をついた。

隙あらば自分も何かしたいと思っていたが完全に抜け道をふさがれた形だ。


「なるほど……、確かにエレナ様がご一緒ならば私の行動は抑止できますね。あとは、彼らの休憩ですか。わかりました。私も休憩だと思うことにいたします」

「そうだね。それがいいかな。後で国賓への説明や、明日以降の段取りについて、すでに対応はしてくれているけれど、共有や話し合いの席が持たれるはずだから、まずは待機。衣装替えもそれからの予定だから」



どうやら着替えもまだらしい。

今の感じでは今日のお披露目は中止か延期になるのだろう。

遠方から来ている国賓にだけお披露目して、国内の貴族へのお披露目の場を後日にするという事も考えられる。

本当は交流の場として国賓と国内の貴族を引き合わせるチャンスでもあるのだが、この事件が解決していない中で、人の紛れやすい大きなパーティを行うのは危険が伴う。

主犯が捕まればパーティは行うけれど捕まらなかったらその時の対応は話しあいになるのだろう。

けれどそうなると今、エレナやブレンダにできることはない。


「わかったわ。それならお茶にしましょう。ブレンダの分も用意してちょうだい」


ブレンダもさっき休憩だと思うことにすると言っていた。

それなら一緒にお茶でもしながら時間をつぶした方がいいだろう。


「そうだね。ブレンダも座ろうか。休憩なんだし」

「わかりました。お言葉に甘えます」


ブレンダはそう言うとようやく椅子に腰を下ろした。

ブレンダが座ったのを見てクリスはやっと少し落ち着けると大きく息を吐いた。

とりあえずブレンダが、そこから不意打ちで部屋を飛び出していくようなことはないだろうと判断したからだ。


「他人を優先しがちなところとか、自分で率先して飛び出していってしまうところとか、本当によく似てるよ」


クリスは自分が座る前、二人には聞こえないようそうぼやくのだった。



この騒ぎで、城内の挨拶をはじめ、予定していた式典はすべて翌日に延期となった。

国王と王妃は最初の話し合いの通り賓客に説明をして回り、全ての客人が王宮に宿泊できるよう準備を整えていた。

同時にクリスは事件の解明と対応に尽力する。

さらに翌日のお披露目の際の警備についても、再度計画を練り直が行われることになった。

王宮内に今回の事件の首謀者と思しき人物がいるため、計画が相手に知られることのないよう、騎士たちに伝えられるのは当日だ。

今日中に主犯、共犯を全て捉える事ができるか、今の段階で相手の計画をどこまでつぶせるかが勝負になる。

解決をしているのが一番望ましいが、一日はすでに半分を過ぎてしまっている。

その中でできるのは、明日執り行うお披露目の会を滞りなく終わらせることだ。

今日はそのために動くしかない。

けれど全てが終わったら全力で潰すつもりだ。



この場が休憩ということになっているので、お茶には手を付けるものの、次々と報告をする者が出入りするため、クリスはそれにかかりっきりになった。

エレナはそれに動じることも口を挟むことなくお茶とお菓子に口を付けているが、ブレンダは彼らが来るたびに手を止めて、もどかしそうに聞き耳を立てて様子を探っている。

ブレンダは自分で動けないのが辛いのだ。

そんな二人の様子を気にかけつつ、クリスは今回の関係者から話を聞き、騎士たちには捕えた者からの聴取状況について報告を受けながら、次々と指示を出していくことになった。

エレナはのんびり過ごしながら、そんな兄の姿に尊敬の眼差しを向けていたが、クリスがそれに気がつくことはないのだった。

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