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庇護欲をそそる王子様と庇護欲をそそらないお姫様  作者: まくのゆうき


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皇太子としての初仕事

そうしてクリスがブレンダをなだめると称して頭を撫でていると、そこに両親である国王と王妃がやってきた。

後ろが詰まってはいけないと、王宮の入口付近ではなく奥まで逃げ込んだのだが、そこからクリスの様子を見に戻ってきたのだ。


「クリス、無事か?」


父親に尋ねられたクリスは微笑んでからうなずいた。


「はい。お二人もお怪我はありませんか?」

「私たちは問題ない」


国王はそう言うと周囲を見回した。

この状況で、もしすでにここまで逃げてきているのなら、間違いなくクリスと一緒にいるはずのエレナが見当たらない。

エレナの馬車はクリスより後ろとはいえ、普通に逃げて来ているのなら、自分たちがここに向かう間にエレナは到着できているはずだ。

そしてそんなエレナをクリスが迎えに行かないわけがない。

席を外しているということもないとは言えないが、その可能性は低い。


「エレナは戻っていないのか?」


国王がそう言うとクリスはうつむいた。


「はい」

「そう……。心配ね」


クリスの答えに王妃も頬に手を当てて大きくため息をつく。


「騎士団長たちをエレナの元に向かわせました。なぜかエレナの護衛騎士が、エレナを伴わず王宮に帰還しているのです」


クリスが言うと、さすがの事態に国王も困惑した表情を見せた。

護衛騎士が戻っているのに護衛対象のエレナが戻っていないという事態は想定していなかったのだ。


「エレナの護衛騎士が?事情は聞いたのか?」

「いえ、これから話を聞くところです。私も戻ったばかりなので……。ですが騎士団長は彼らを置いていってくれたみたいですから、事情は彼らから聞けるでしょう」


まだ近くにいる彼らの方にクリスが目を向けると、国王もそちらを一瞥した。


「なるほどな」


警備計画は騎士団長とクリスが決めたものだが、国王も確認している。

そして確かにクリスの見た先にいる騎士は、パレードの際エレナに付けていた護衛騎士に間違いない。

その不可解な状況に国王も思わず眉間にしわを寄せる。


「ケインの姿がないので、たぶんエレナにはケインがついていると思いますが……」

「さすがにあの状況で護衛一人では心許ないな」


王妃は二人が深刻な空気で話し始めたため止めに入った。


「二人とも、とりあえず続きは中で話しましょう。ここでは多くの人の目にもついてしまいますわ」


パレードはお披露目パーティに参加できない市民向けのもので、これから行われるお披露目パーティが貴族向けのものだ。

そしてすでに王宮内には遠方から来た客人が滞在している。

王宮の入口で騒いでいては、客人に不安を与えることになってしまう。

それにこの騒動を知らない貴族たちが、これからパーティに参加するため続々と王宮にやってきてしまう。

パーティを中止、延期することになるのは決定事項だが、その説明をする段取りも整えなければならないし、襲撃が王宮内に及ばないとも限らない。

警備の強化については、すでに国王自ら指示を出しているが、まだ対応しなければならないことがたくさんある。

何より自分たちがいつまでも入口近くでエレナを待つようなことはできないし、入口付近、これから来る客人から目につくところで、出迎えの目的もなく長居して話をしているのはよくない。

王妃の言う通りだ。


「そうだな」

「そうですね」


国王もクリスも王妃に促され、一旦建物内に移動することにしたのだった。



すでに王宮内の使用人たちにはこの騒動のことが伝わっている。

そのため中も緊張感が漂っているが、それは仕方のないことだろう。

何より客人には部屋から出ないよう、厳密には一切の出入りを突然禁止にしている。

襲撃が外であったからといって、中に敵がいないとも限らない状況だ。

こうして移動した一室で、国王はクリスに言った。


「クリス、私達が客人の対応にあたる。お前は外の対処に専念しなさい」

「ですが……」


今回の客人は自分を祝うために集められている。

本来のホストは自分だ。

それならば自分の無事を報告するのと共に今回の件の説明責任も負わなければならないはずだ。

けれど国王は、自分がその責任を負うからクリスには外の対応だけに集中するよう言う。


「今回の件を収めれば、お前は対外的にも立派な皇太子として認められる。事が起きてしまった以上、利用するしかない。周囲にお前の力を示す機会にするのだ」

「わかりました。王命ならば受け入れます」


今回の件を公にし、その対処を行うことは、確かに自分が有能だと示すいい機会になる。

けれどクリスはそんな名誉を望んでいる訳ではない。

クリスからすれば事態の収拾よりエレナの無事の方が優先なのだ。

だから警備の騎士たちがすでに行っているであろう市民の安全を強化するより、エレナの救出を優先しろと命令した。

その時点で反省すべき点はあるはずだし、クリスの指示が最善ではないことも国王には分かっているはずだ。

その命令を取り下げるつもりはないけれど、それでもいいのかと、クリスがその確認の意味も込めそう言うと、国王はため息をついた。


「そうか。不本意な状況だが仕方ない。クリス、命令だ。皇太子初の任務として、騎士団長と共に事の収集に当たるのだ!」

「かしこまりました」



こうして国王と王妃は式典中止に伴う来客への対応を、クリスは騎士団を動かしてエレナの救出と犯人確保のために動くという役割分担を行うことになった。

ちなみに今のクリスでは冷静に来客対応ができるようには見えないため、騎士団長を付けておけば指示がおかしくなっても何とかなるだろうと両親が配慮したためだ。

その騎士団長はすでにエレナの捜索に出てしまっているようだが、彼ならクリスの命令をうまく利用して最善の方向に持っていってくれるだろう。

それにエレナの無事を願っているのは国王としても同じ。

だから先んじて騎士団長に命を出したことについて、クリスを咎めるつもりはない。



クリスが素直にそう答えた横で、王妃はブレンダの耳元でこっそりとつぶやいた。


「騎士団長がいないみたいだから、あなたが頼りよ。クリスの側にいて暴走しそうになったら止めてちょうだいね。あの子エレナのことになるとどうしても……」

「かしこまりました」


さっきまでクリスに頭を撫でられて、飛び出していこうとしていたのを抑制されていたのは自分だったが、逆も当然考えられる。

ここに残る以上、できることをするしかない。

そして自分も先ほどのような暴走をしてはならないということだ。

自分も冷静にならねばと王妃の言葉を肝に銘じ、ブレンダはクリスと行動を共にすることを決めたのだった。

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