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庇護欲をそそる王子様と庇護欲をそそらないお姫様  作者: まくのゆうき


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姫様の正体

夜だったこともあり、仕事に行っている青年たちもすでに孤児院に戻っていた。

そのため彼らを含め、いつもエレナが勉強を教えている部屋に全員を集める。

集まったことを確認した院長は、皆に向かって最初にこう言った。


「まず、こちらにいらしている姫様の話だ」


急に集められたと思ったら姫様の話と言われ、特に大人たちは困惑した。

自分たちが騒いでいたのは街で行われるパレードの話だ。

姫様と何の関係があるのか。

関係あるとすれば、姫様はお貴族様だから、その後に行われる貴族向けのパーティとかいうのに参加する準備をしているということくらいだろう。


「姫様は王族のパーティに出るから忙しいんですよね。それが終わったらまた勉強が再開されるという話ですか?」


どうにかこの騒ぎと急に集められたことを無理に結びつけて一人が尋ねると、院長は眉間にしわを寄せて難しい表情になった。


「その通りだが、お前達が勘違いをしていたので、それを利用して伏せていたことがある。ただこれは外で話してはいけないことだよ。皆守れるかい?」


外で話してはいけないことを説明すると聞いた子どもの一人が、鋭い反応を示した。


「それを守れば、街に行けるの?」


期待の込められた子どもの質問に、院長はため息をついて首を横に振る。


「そうじゃない。守れなければ、姫様が今後、ここに来るのは難しくなるということだ」


そう言われた皆はさすがに動揺した。

学のない自分たちにまさに一から文字を教えてくれて、皆がもう少しで簡単な本まで読めるところまできた。

文字の読み書きができるようになる事で、力仕事のできる男性だけではなく、女性や力のない男性でも別の仕事に就けるようになるし、選べる職を広げることができる。

そして皆の憧れる騎士になるための勉強も、望めば自分たちでできるようになるのだと姫様は教えてくれた。

そんな姫様に迷惑をかけようと思う人間はここにはいない。



「院長、何でそんな話を今するのよ」


女性の一人が院長に向けて言った。

それならば皆がその話を聞かなければ今まで通りのはずだ。

それなのにわざわざ皆を集めてこのタイミングでその話をしようとしているのはなぜか。

疑問に思うのはもっともだ。

けれどそう単純な話ではないと院長は再びため息をついた。


「パレードに関係しているからですよ」

「そうなの?」


こればかりはその先を聞かなければ分からない。

閉口した女性を見た後、院長は全員に向かって再度同じことを聞いた。


「皆、まずは約束を守れそうですか?」

「わかった……」


院長の気迫に負けた子どもたちは顔を見合わせて、お互いの意思を確かめ合ってから、話を聞くと返事をしたのだった。



「まず、こちらに来てお勉強を教えてくださっている姫様、エレナ様だが、あの方は、この国の第一王女殿下です」


院長がそう言うと、その意味を理解できた年長のものが驚いて息をのんだ。

その言葉の意味が分かるのは、仕事をしている少年たちか、言葉の意味が分かるようになった大人だけだったのだ。


「はぁ?あの気さくな姫様が、この国の本物の王女様?」

「料理とか刺繍とか職人顔負けで、偉そうな貴族と全然違うあの姫様が?」


彼らが思わずそう口にすると、意味のわからない子どもがその言葉を真似しようと頑張っていた。


「だぃいちおぅ……?」


第一王女殿下と言われてもよくわからないが、姫様がそういう人であることだけは分かったらしい。

子どもたちには先に意味を説明した方がいいだろう。

院長はそう判断して良くわからないと言った表情の子どもたちにわかるように言った。


「つまりここに来ていた姫様は、この国の本物のお姫様ってことです」


それを聞いた子どもたちは、その言葉を聞いて目を輝かせた。

「本物のお姫様!」

「すごい!」


そう言ってきゃっきゃとはしゃぐ子どもたちをそのままに、院長は大人たちに向けて説明を続けた。


「そして姫様についている騎士は、王宮騎士団の最高峰と呼ばれている近衛騎士という部隊にいる騎士様で、いらしていた方は皆、貴族の方だ。うちから輩出した騎士たちとは違う、学も力も持っているエリート集団です」


エレナの護衛騎士たちについてそう説明されて、最初に納得したのは調理場で作業をしていた女性たちだった。


「ああ、騎士様は何か貴族っぽいと思ってた。強いのは分かったけど、それだけじゃなくて、何か私達と違うって」


漂わせている雰囲気が、明らかに自分たちとは違う。

姫様もそうだったけれど、姫様についている騎士たちからもそれは感じていた。

彼らはここを卒院して騎士になった男性たちとも明らかに違うものを彼らは持っていて、それを女性は肌で感じていた。

彼らも姫様と同様に、自分たちを下に見る様子はなかったけれど、漂うオーラのようなものがあったのだ。

一人の女性がそうつぶやくと、それに同意しながらも別の女性たちがそれに続く。


「でも最初は姫様がやってるのを見てるだけだったけど、食器運ぶの手伝ってくれたり、一緒に串焼き作ってくれたりしたよね」

「あれも姫様の影響なのかな」


女性たちがそんなことを話し始めると、働きに出ている少年が女性たちの会話に加わった。


「王女様が働いてるのに、家臣の貴族が何もしないって訳にはいかないだろうな」


自分も雇い主が働いているのに休憩などできない。

だから姫様に雇われている騎士だって、姫様が働いている時に見ているだけというのは気まずいから手伝うようになったのではないかと言う。

けれど女性たちはその意見を否定した。


「どっちかっていうと、指示を待ってるって言うか、邪魔しないようにしてるって感じだったけどね」

「そうなのか?」

「うん」


調理場にいて作業をしているのは女性たちだけで、男性は働きに出ているか勉強の時間に仕事を抜けて戻ってきているだけなので、調理場の様子は知らない。

見ていないからそういう意見になるのだろうと言われたら、彼もそれに同意するしかない。

エレナがそんな様子なのだから、それに対応できる護衛騎士が選ばれているのは当然なのだが、そんなことを彼らが知るはずもない。



そんな大人達の会話を遮るように院長は言った。


「だからそのパレードには姫様も参加しています」

「じゃあ、パレード見に行ったら姫様がみられるってこと?」


子どもたちが身を乗り出してそう言うと、院長はうなずいた。


「そうですが、もちろん話をすることはできないし、近付こうとすれば不審者と見間違われて捕縛される。余計なことを言ったり失礼なことをしてしまっても、騎士たちに捕まってしまう。だから行っても本当に見るだけしかできません」


途中で簡単な言葉に置き換えながらも院長が皆に分かるように説明すると、大人たちは首を傾げた。

もともと偉い人の乗っている馬車やパレードに近付くつもりはなかった。

当然警備も厳重だろうし、そもそもそんなことはできないだろうことは最初からわかっている。

本当にちらっと、滅多に、下手したら一生見ることのできないものを、一目でいいから見ておきたいという願望があっただけなのだ。

確かにそれを守れない可能性の高い子どもに知られたのは良くなかった。

けれどこうして全員が院長から話を聞いた今、そして姫様がパレードに参列していると知ってしまった以上、よりそのパレードは見ておきたい、院長以外がその思いを強くしたはずだ。

院長が話をしたのは逆効果なのではないか。

大人の中にはそんな疑問が浮かぶのだった。

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