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庇護欲をそそる王子様と庇護欲をそそらないお姫様  作者: まくのゆうき


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お茶会のお菓子

母親にお茶会の具体的な内容を確認したエレナは、調理場に戻り、早速その話を料理長にしていた。


「そういうわけで、私と同年代の女性が来ることになったわ」

「そうでございますか」

「もし、お友達になるというのなら、私が作った方がいいのかしら?」


この言葉に料理長よりも、料理人たちが動揺していた。

エレナが作ると言い出したら反対はできないが、今まで自分たちが作ってきたお菓子が採用されることはなくなってしまう。

きっと料理長もエレナが作れるお菓子という基準で、新しいお菓子を進めることになるだろうと考えたのだ。

二人の話に耳を傾けながら、料理人たちが様子をうかがっていると、料理長が言った。


「そのようなことはありません。もともと貴族の女性は家事をなさらないはずですし、今回は王妃様が主催なさるお茶会なのですから、もしエレナ様がお作りになったと聞いたら、喜ぶよりも、王妃様のエレナ様に対する扱いが問題になりかねません」


姫殿下ともあろう方が、率先して調理場に立ってお茶やお菓子を用意しているなど外聞が良いはずがない。

エレナのことを知っている人間ならば、エレナの趣味だと理解してもらえるかもしれないが、相手はほぼ初対面の者になるというのだ。

どう見られるか分からない。


「そう……。お母様にご迷惑をかけるわけにはいかないわね。まだどのお菓子にするかは決まっていないけれど、私も一緒に作らせてもらえたら、作り方も覚えられるし、いいアイデアだと思ったのだけれど……」


いつものように楽しく教えてもらいながらお菓子を作りたいと思っていたエレナは少し落ち込んだように言った。


「基本的にお茶会のお菓子は商人から購入するか、料理人に作らせるものでございます。エレナ様と同じように趣味でお料理をされるご婦人もいますが、エレナ様の年齢でそこまでされる方は存じません」

「でも、できなければ自立した女性にはなれないのではないの?」


自立した女性は毎日このように食事などは自分で用意するはずだとエレナは首を傾げた。


「それはおそらく市井での話でしょう」

「じゃあ、貴族の女性はできないのね。市井の女性なら私と同じように料理をしたりできるの?」

「確かに市井の者であれば、幼い頃から調理を手伝い、その結果料理ができる者が多いと思います。ですが、市井の者が自身で料理をするのは、生活のためでございます。生きていくために必要だから学び、身に付けるのです。ですがエレナ様は本来、我々に振る舞われる側の立場でございます。それに当日は王妃様とお客さまをお迎えする準備をなさらないといけませんから、調理場で一緒にお菓子を作るのではなく、お客さまをお迎えする方に力を入れていただかなければなりません」


料理長の言うことはもっともである。

このお茶会はエレナに友達を増やすことを目的に開かれることになっているのだ。

そのエレナが裏方では意味がない。


「確かにそうだわ。お茶やお菓子の提案をしてとは言われたけれど、作るようにとは言われていないし、私もお茶会に参加しなければならないのよね。そうなると、支度に時間がかかってしまうから、私がここに来ることはできないわね」


お菓子からお茶会に頭を切り替えたエレナは残念そうにしている。


「調理場を守るのは我々の役目です。当日はエレナ様がお決めになったお茶とお菓子を、一番おいしい状態で提供させていただきます。ですから、どうぞエレナ様は職務を全うされてください」

「ええ、そうさせてもらうわ。ありがとう」



話のまとまったところで料理長はいよいよ本題に入った。


「それでエレナ様、今回のお茶会のメインとなるお客様がエレナ様と同じくらいの女性ということは分かりました。そうなりますと、その年代の女性というはエレナ様になりますから、ここはやはり、エレナ様の好みでお選びいただくのがよろしいかと思います」

「私はどれも好きだったのだけれど……」


真剣に考え込んでいるエレナに料理長は考えるヒントを出した。


「あとはお茶でございますね」

「お茶……」

「お菓子と一緒に出てきたお茶をお出しする必要はありません。お菓子とお茶は別にお考えいただいていいですよ。不安であればいくつか候補のお菓子とお茶を一緒にお出しできるように準備しますが……」


確かにエレナは出されたものをセットで考えていた。

だが、お茶とお菓子は別のものなのだから、好きなものを組み合わせればいいのだ。


「そうね、味はどれもおいしかったの。でも今回のお茶会のことを考えたら、見た目もかわいくて、手でつまめるクッキーとマドレーヌがいいと思ったのだけれど、お茶は別のお菓子の時に出してもらったもので気に入ったものがあったのよ。でも、それがお菓子と合っていたからおいしく感じたのか、選んだお菓子と相性がいいのかがわからないわ」


正直に感想を述べたエレナに、調理長は提案した。


「では、お茶会の前の料理人の練習を兼ねて、明日はお選びいただいたクッキーとマドレーヌをご用意いたしましょう。そして、お茶はいくつか用意いたしますから、その中から相応しいと思うものをお選びいただいて、当日お出しするように準備いたしましょう」

「何度も作らせて申し訳ないわ。お菓子作り以外にも皆やることがあるのに……」


皆、たくさんの料理やお菓子が作れるのだから、同じものを何度も作るより色々な料理で腕をふるいたいだろう。

翌日作ってもらって、さらに当日も作ってもらわなければならないのはなんだか申し訳ないとエレナは思った。


「いいえ、こういう刺激は大事ですよ。皆、エレナ様に喜んでもらおうと技術を磨いておりましたし、おいしくないと言われたらどうしようと思いながらお出しするより、よりおいしいものをと向上心を持って作る機会を得られたのは、とてもよかったのです」

「そう?今回のお菓子、本当にどれもおいしかったの。今回のお茶会で選ばなかったお菓子も私個人はまた食べたいと思うし、今度はお兄様たちにもお出ししてほしいと思ったの。だから、また機会があったら作ってほしいわ。それに夜会のお料理と一緒に並んでいてもいいと思ったの。だからお父様やお母様とも一緒にいただきたいわ。とりあえず夜食のデザートに一品ずつ出してみてはどうかしら?もしかしたら、今回のお茶会のお菓子は無理でも、今後のお茶会ではお客様にお披露目できるかもしれないわ」


エレナに実力が認められたことを、料理人一同が喜んでいた。


「では、そのようにメニューを考えさせていただきます」


こうして、選ばれたお菓子以外は、夕食の時間に一品ずつ提供されることになるのだった。


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