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庇護欲をそそる王子様と庇護欲をそそらないお姫様  作者: まくのゆうき


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巾着案の欠点

「料理長。孤児院で試した調理法があるのだけれど……」


孤児院での勉強方法について考えるのを一時保留したエレナは調理場を訪ねると、料理長に話しかけた。

孤児院での出汁の取り方はエレナも初めてやってみたものだったが、その方法のおかげでスムーズにスープを作る事ができた。

いつもと味は少し違ったけれど、骨の量が少なかったとか、煮込み時間が短かったとかそういう違いが出てしまったと考えれば許容範囲だ。

味付けをすればさほど気にもならなかったし、それに楽においしい料理に近づける方法という点がすばらしい。

スープは巾着を取り出しただけで使える状態だし、骨の処分も巾着の中身を捨てるだけ。

細かい汚れをすくったり、漉したりする手間がかからなかった。

本当ならば話しこんでしまって残った時間と出汁を取る手間を考えると、あのスープは作れないはずだった。

それが短時間でできたのだ。

だからその話を聞いてもらいたいと思ったのだ。


「孤児院で、でございますか?」

「ええ。私も初めての方法だったけれど、もしこの方法をここで使えるのなら、少し皆の作業が楽になるのではないかと思ったの」


確かに孤児院でも一度に多くの人へ食事を提供している。

もしかしたら何か効率のよい方法を教えてもらったのかもしれない。

今までは教える側だったし、エレナには一通りのやり方を教えている。

そのエレナが新しい方法だというのだから、自分が知らないものかもしれない。


「一体どのようなものでしょうか」


知見が得られるかもしれないと期待をこめて料理長は尋ねた。

するとエレナは思い出したように言った。


「そうだわ、前に孤児院からお米を分けてもらった巾着袋って残っているかしら?」

「はい。ございますが……」


お米を使うのかと料理長が倉庫の在庫状況を頭に思い浮かべていると、エレナは楽しそうにその方法を話し始めた。


「巾着を使ってスープの出汁を取ったの。時間がなかったから少し薄い出汁になってしまったけれど、とても楽に作ることができたわ。もしじっくり煮込めば同じように出汁を取れるというのなら、かなり仕事がはかどるようになると思うの」

「巾着を利用してですか……?」


そう言われた料理長は聞き返しながらも、巾着というものを思い浮かべて、同時にエレナが何をしたのか察した。

そして思いつくその方法は試した事がない。

料理長が難しい表情をしていると、エレナはうなずいた。


「ええ。一度再現してみるから、感想を教えてもらってもいいかしら?」

「構いませんが、どのような出汁をお作りになったのでしょうか?」

「鶏の骨を割って作る出汁よ」


料理長は納得した。

自分が思っているものと差異はなさそうだ。

けれどそうなると今日は無理だ。


「なるほど。わかりました。ですが準備に少々お時間をいただいてよろしいでしょうか?」

「準備?」

「巾着はすぐにご用意できますが、鶏の骨をすでに処分してしまっているため、次に入荷する時までお待ちいただきたいのです」


せっかく持ってきてくれた話だが、材料が足りない。

まさか急にそのようなものを使いたいと申し出があるとは思わず、不要なものとして処分してしまった後だった。


「そういうことね。わかったわ。鶏じゃなくてもいいと思うの。何か骨を割って出汁を取るものなら……。だから次にそのような材料が残るようなら声をかけてもらえるかしら?処分する前に試したいの」

「かしこまりました。では、鶏や豚などの骨が手に入りましたら声を掛けさせていただきます。巾着もご用意しておきますので」

「ええ。お願い」


今日は試すことができない。

そう言われたエレナは、他に用事もないため調理場を後にした。



数日後、エレナは動物の骨を巾着に入れて煮込んでいた。

巾着は大きくないので入る分だけ分けてもらい、その隣ではいつも通り大きな鍋で同じ骨を使って出汁をとっている。

ちなみに大きな鍋で作られている方は、この日の夕食に並ぶ料理に使われるという。

エレナが煮込んでいるのはお試し用なので、巾着のサイズに合わせて小さい鍋なのだ。

隣の大きな鍋の料理人は他の作業をしながら時々鍋を覗いているが、エレナは小さな鍋に入った巾着を時々おたまで突っついて、鍋の中に出汁がより多く出てくるようにしていた。

それ以外は下ごしらえの手伝いなどをして時間を潰している。

とりあえず煮込む時間は同じくらいが良いだろう。

料理人が大きな鍋の骨を取り除き濾し始めたところで、エレナも火を止めて巾着を一度おたまで押して出汁を絞ると、鍋から取り出し、巾着を流しに置いた。

すぐに骨を捨てられるのだが、さすがに鍋からあげられたばかりの巾着は熱い。

だから冷ましてから片付けることにしたのだ。



そうしていよいよ味見の時間がきた。

料理長は料理人のスープと、エレナが煮込んでいたスープを並べて味を見る。

同じようにエレナの前にも二種類のスープが用意された。

料理人たちも後学のためにと申し出てきたので、作業が終わったら味見する予定だ。


「少し布特有の臭いや、ざらっとした舌触りがあるように思いますが、気にならない方々、もしくは味より手間のかからない方を優先される方には良いかもしれません。当然ですが、スープに布が入れば味は変わります。薄味ですとそれが顕著になるでしょう。もしかしたら布を茶器のように使い込めば変わるのかもしれませんが……」


エレナも比較してしまえば思うところがある。

孤児院では急いでいた事もあり、調味料で調整してしまったが、出汁その物を味わうのならこれではだめだということは分かる。


「比較しなければわからないかもしれないけれど、確かに出汁を取って味付けをする前だと舌触りと臭いが気になるわ。それに出てきた出汁も薄いから、味付けの濃いものならわからないかもしれないけれど、薄いものには向かないわね」

「やはり手間をかける意味があるということでしょう」


美味しいものを作るのには手間がかかる、というより、手間をかけておいしいものを作っている、と言うのが正しいようだ。

この方法では手間のかからない分、味が落ちている。


「どうしようかしら……。孤児院に伝えるべきかは悩むところだわ」

「孤児院では比較することはありませんし、今までの感じですと、効率重視でしょうから、伝える必要はないかと思います。それにそのような味に慣れてしまうと、舌が肥えて食べられないものが増えてしまうかもしれません。何より今我々が行っている方法では燃料を多く使うことになります。濾したスープを再び温めたりしますから。そういう意味でも孤児院で対応できる範囲内に留めたほうが彼らのためです」

「そうかもしれないけれど……」


だからと言って味を落としたものを提供するのも違う気がする。

せっかく作るのだから限られた材料の中で、できるだけおいしく作って食べてもらいたい。


「あと、案は良いものですし、もしかしたらこの先、調理に使っても味に影響を与えにくい布が見つかったり、開発が進んだりするかもしれません。その時に、これを使うとより良いですとお伝えすればよいのではありませんか?そもそも骨付きの肉はめったに出ないものなのでしょう?それでしたらあえて口にする必要はないでしょう」


アイデアはよいのだから、彼女たちの案を否定する必要はない。

それに聞かれたら答えればいいことなので、進展もないのに話題にするものでもないだろう。

彼女たちも自分たちのアイデアが王宮の料理長に提案されているとは考えてもいないはずだ。

もし彼女たちがそれを知ったら委縮してしまうかもしれない。

料理長がそんな話を伝えると、エレナはうなずいた。


「そうね。その時が来たら考えることにするわ」


そうして話しているうちに他の料理人たちもスープを比較するために口をつけ始めた。

皆がやはりいつも通りに作った方がおいしく感じたと言うが、ただ手間や労力がかからないというのもその通りで、使用する場面によって使い分けができればいいし、味付けによっては許容範囲かもしれないと、納得していた。

その後、野営の調理方法にこの方法が加えられ、野営の時のスープの味が格段に上がることになったが、これはエレナと共に孤児院に足を運んだ騎士が、別の任務で野営をした際にこの方法を採用したことによるものだったが、それはまだ先の話なのだった。

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