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庇護欲をそそる王子様と庇護欲をそそらないお姫様  作者: まくのゆうき


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お掃除体験

エレナは自分の部屋に届いた掃除用具を見て心を踊らせていた。


「倉庫のものを使おうと思っていたのに新しいものが届いたの。私の部屋専用の掃除用具として置いておいていいそうよ。これで使い方を覚えたら、気が向いた時に掃除をすることができるのね!」


掃除用具を届けられて喜ぶという、世間とは少しずれた喜びを噛み締めているエレナに、家庭教師は言った。


「エレナ様、そんなに喜ばしいことでございますか?」

「ええ。みんなができて、私ができないことが少なくなるのだもの。嬉しいわ!」

「そういうことでございますか……」


部屋に自分専用の掃除用具が届いて喜んでいるわけではないらしい。


「どうしようかしら?この時間にお掃除をするとお勉強ができないし、掃除の方法を教えてもらわないと使い方がわからないわ」


あまりにも真剣に悩むエレナの様子に家庭教師は苦笑いを浮かべながら言った。


「それでは、本日のお勉強を手早く終わらせて、残った時間を掃除にあてましょう。本来は一度に終わらせるものですが、一日一つの道具の使い方を覚えていくようにするだけならば、長い時間はかかりません」

「一日一つずつできるようになるものが増えるって、わかっているだけで楽しい気分になるわね。早速お勉強を頑張らないと。早く終わらなかったら教えてもらえなくなってしまうわ」

「そうですね……。そういうことにしておきましょう」


やる気を出したエレナは前のめりに勉強に取り組んだ。



「エレナ様、大判のハンカチなどはお持ちですか?」


本日の範囲である勉強を早々に終えたため、早速掃除の説明を始めることになった家庭教師が聞いた。


「ええ、刺繍に使っているものならあるけれど……、何に使うの?」

「汚れても良いもの、洗えるものを頭に使いましょう。御髪が汚れてしまいます」


家庭教師は渡された大判の布を頭にかぶる方法から教えることにした。


「四角いものであればこのように大きめのものを使います。横に長い布でもまとめられますよ」

「普通に縛るのではないのね」


家庭教師がハンカチを広げたのを見て、エレナは同じように腕を伸ばしてハンカチを広げた。


「せっかくですから鏡を見て練習しましょう」

「そうね」


そう言って二人は勉強机からドレッサーの前に移動した。


「こちらは大きい四角い布なので、まずはこちらのやり方です。まず、角を持って三角に畳みます。それから、折った部分を額に当てまして、三角の端と端を髪の下に持ってきて縛るのでございます」

「こうかしら?」


エレナは鏡の前で楽しそうに髪をまとめた。


「この髪のまとめ方は何かと役に立ちますよ。お食事を作る時にも髪の毛が鍋の中に入るのを防げますし」

「まあ、じゃあ、たくさんあったほうがいいわね」

「そうでございますね」

「私、いいことを思いついたわ」

「何でございますか?」

「楽しくお掃除できるように、この布にも刺繍をしてみようと思うの。うまくできたら先生にもプレゼントさせてね」

「ありがとうございます」


器用なエレナはすぐに頭への布の巻き方をマスターしてしまった。

鏡の前で付けたり外したりを繰り返している。


「ねぇ、一日ひとつだと、今日はこれで終わってしまうの?」


掃除をするための準備として頭に布をかぶったエレナが首を傾げて聞いた。


「……掃除用具を使っていないですからね。掃除はこれからです」

「そうよね。よかった!」


エレナは嬉しそうに笑ってそう言った。



「それでは今日はホウキを使って履き掃除をするというところだけを行いましょう」

「はい!」


実践ができると分かると気合の入った返事をした。


「掃き掃除の基本は、床にあるホコリを集めることです。そして集めたホコリをチリトリで取って捨てる。これが掃き掃除の一連の流れでございます。ホウキの柄を持って履くのですが、……その前に大事なことを一つ忘れていました」


そう言って新しいホウキを手に取った家庭教師は、エレナにホウキをもたせると窓を開けた。


「掃除をする際は窓を開けてください。ホコリも舞いますし、換気をしないとせっかくお掃除をしても部屋の空気は汚れたままになってしまいます」

「わかったわ」


ホウキの柄を両手でしっかりと握りしめて、目を輝かせながらエレナは返事をした。


「そして、ホウキの使い方なのですが……」


そこまで言葉にして家庭教師は一瞬言葉に詰まった。

普通に使うという言葉しか浮かばない。


「あまり説明することはないのですが……、ホコリができるだけ飛び散らないように、部屋全体の床のホコリを集められれば手段はあまり問われません。私の場合は部屋の端からホウキを引いて寄せるようにホコリを集めて、反対側の端にたどり着いたらチリトリで取るようにしております。一人で掃除をしたところがわからなくならないのでそのようにしておりますが、他にも周囲のものと一緒に掃除をする際は全員が同じ方向に向かってホコリを履いたり、真ん中に集めるようにしたりなど様々なので、今日はエレナ様のお好きなようになさればいいと思います」

「そうねぇ……」


ホウキを持ったままくるっとその場で一回りしてから、エレナは言った。


「じゃあ、窓の下にホコリを集めるようにしようかしら?履いていく方向に空気が流れるでしょうから、その方が汚れた空気も出ていきそうだもの」

「では、早速はじめてみましょう。動かしにくいところは私のやり方を適宜お伝えしますので、方法はどんどんアレンジしてくださいませ」


こうしてエレナの掃き掃除の実践が始まった。



机の下からホコリをかき出したり、チリトリでゴミを集めるときなどにケホケホと咳をしながらも一通りの掃き掃除を終えた。


「この部屋もきれいに見えていたけど、こんなにホコリが集まったわ!もっと気にしなきゃだめね」

チリトリに乗ったホコリを見ながらエレナが言うと、侍女が袋を取り出した。

「エレナ様、そのまま持っておりますと、またホコリが散ってしまいますから、彼女が持っている袋にそのホコリを入れてしまってください。ホコリもまとまればゴミですから、ゴミ箱に入れればいいのですよ」

「じゃあ、これをお願いね」


家庭教師の指示でエレナは侍女に差し出された袋の中にチリやホコリを流し込んだ。


「そういえば、ホコリって棚の上などにもあるけれど、それはどうしたらいいのかしら?」

「それは次回以降にご説明しましょう。今日はここまでです」


エレナはそう言われても棚の上が気になるのか、ホウキとチリトリを持ったまま、じっとそちらの方向を見つめている。


「……わかりました。ヒントだけ差し上げましょう。棚の上のホコリは別の道具で落とします。そして落ちたホコリはホウキで取るのです。ですから床の掃除できないと、棚の上の掃除もできないのですよ」

「じゃあこれが基本ってことね。わかったわ!」


知りたいことがわかったエレナは満足そうに言った。



「そういえば……この掃除用具は部屋のどこに置けばいいかしら?」


入口付近に箱にまとめて置かれている掃除用具と、すでに使用したホウキとチリトリを片手にエレナがつぶやいた。


「外の用具入れを使えばよいのではありませんか?」


おそらくエレナが掃除に失敗しても部屋を汚さないよう新品の用具を渡したのだろう。

そして使わなくなったら備品として管理すればいいと考えたに違いない。


「それじゃあ、次にどれを使っていいかわからなくなってしまうわ。クローゼットに入れておけば見えなくなるけど……」


自分が部屋を掃除するために用意されたものだから自分で管理したいとエレナは置き場所を考えた。


「それてはドレスや靴がホコリにまみれてしまいます」


そう言われて見学の時に案内された掃除用具入れを思い出した。

きれいに使っていても扉を開けたらほこりっぽかった。

あの中にドレスや靴をしまうかと言われたらそれは嫌だ。


「そうよね……。とりあえず、場所が決まるまで、この箱に戻せばいいかしら?」

「そうですね、それがよろしいかと思います」


箱の位置もそのままにすることにして、エレナは掃除用具置き場を入口の近くと定めた。

そしてその後、この箱は壊れるまで数年に渡り掃除用具入れとして活躍し、エレナの掃除習慣が消えることはないのだが、このときの彼らはそんな未来が待っているとは誰も思っていないのだった。

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