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庇護欲をそそる王子様と庇護欲をそそらないお姫様  作者: まくのゆうき


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お掃除見学

エレナが朝食を済ませて、クリスたちを見送り、部屋に戻るとすぐに案内をするために侍女がやってきた。


「エレナ様、本当によろしいのですか?あまりきれいなところではございませんが……」

「ええ、きれいではないことはわかっているわ。だから掃除してくれているのでしょう?」

「そうでございますが……」

「できるだけ邪魔はしないようにしたいの。だから、どこで見ていたら邪魔にならないのかも教えてほしいわ。手伝えるのなら一緒に作業をしてみたいのだけど、今日は見学という名目だから我慢するわ……」


掃除をしている様子を見学されるというのは、手抜きを疑われて見張られているようで、あまり良い気分ではないはずである。

それにエレナ自身は作業を体験してみたいと思っている。


「かしこまりました。それでは終わってしまう前にまいりましょう」

「ええ。よろしくお願いしますね」


二人は慣れた廊下を歩き始めた。

いつもならこの時間は、家庭教師に勉強を見てもらっているため、エレナが廊下を歩くことはない。


「この時間にみんながお掃除をしてくれていたのね」

「場所にもよりますが、廊下など多くの方が通る場所は、できるだけ人の少ない時間で、お客様がおいでになる直前にきれいにするようにしております」

「時間までちゃんと考えられているのね」

「このように掃除をすると良いというのは歴代の担当が改善を重ねた結果でございます」

「そうなのね」


掃除をしている姿を見たことがないことに納得した。

主の前で掃除をするなど、そのようなアピールはここでは必要ない。

むしろ、主や客人に掃除をしている姿を見せることは恥となると教育されているらしい。



しばらく廊下を進むと、エントランスに到着した。

ドアと窓が開放された状態で、大勢の人が掃き掃除、拭き掃除を分担し、床から窓まで丁寧に磨いている。


「歩いている時は気にならないけれど、こうして掃除されていく様子を見ると、気が付かないだけで汚れているところはたくさんあるっていうことがよくわかるわ」


掃き掃除をするとホコリが上がり、拭き掃除をしたところはその前よりもよりきれいになっていることがわかる。


「毎日お掃除していてもこうなってしまうの?」

「はい。外から出入りもありますし、ホコリなどは窓を開けなくても積もっていくのでございます。ですから、ホコリを取って拭くという作業は毎日行っております」


説明をされている間にも、エントランスはどんどんきれいになっていく。

もともと汚いわけではないが、汚れないのは日々彼らがこまめに掃除をしているからなのだ。


「この作業は私にもできるのかしら?」

「このように広い場所は複数人で手早く行わなければなりません。本来であればエレナ様も含まれるのですが、陛下や殿下、お客様が掃除中にお通りになることがあってはいけませんし、汚れたままのエントランスを利用するわけにもまいりません」

「確かに来客の時に汚れていては困るし、この状態で見えたらお客様も驚いてしまうわ」

「掃除はこのような方法で、各所行っております……え、エレナ様?」


エレナが何か言いたげにじっと侍女を見上げていた。

侍女は掃除の様子を見ながら話していたため、エレナの視線に気がつくのが遅れて驚いたのである。


「このまま終わるまで見ていたほうがいいかしら?エントランスがきれいになっていくのはよくわかったけれど……」

「そうですね……どういたしましょう」

「他に掃除方法が違うところはないの?」


エレナが提案をすると、侍女も他の場所はないのかと考える。


「水回りもありますが、狭いですし、使用頻度も高いので適宜となっておりますから、掃除の確認というのは場所的にも難しいです。あと、庭などの掃除は手入れの際に庭師が行います。ただ庭は分ではいけないところが多いですし、職人気質の方が多いので……」

「管轄外のところは無理しなくていいわ。それじゃあ、ここで使ってた掃除道具の使い方とか教えてもらえる?」

「掃除用具の収納場所をご案内すればよろしいですか?」

「ええ、場所を知っていれば役に立つかもしれないもの」

「かしこまりました……」


そのようなところに興味を持つなど変わっていると思いながら、侍女は掃除用具の置かれた収納場所へとエレナを案内することにした。



「こんなところに隠されていたのね!ホウキとチリトリとモップとバケツがたくさんあるわ!でもあの大人数で使うのだし、広いところを掃除するのだからたくさんいるわよね!」


収納の扉を開けると、エレナは感嘆の声を上げた。

収納の中には重ねて置かれたバケツとチリトリ、ところどころ奥の壁からこちらに突き出しているでっぱりを支えに立っているホウキとモップ、それらの柄に引っかからないように少し高い位置に設置された棚には雑巾やハタキ等が置かれていた。


「その通りでございます。あの、こちらは埃っぽいですし、そろそろ……」

「そうね。扉を閉めてもらっていいわ」


侍女は容赦なく扉を閉めた。


「掃除用具は汚い場所を掃除しているものですから、あまりきれいなものとは言えません。触ってはいないと思いますが、ホコリの舞うところにも行きましたから、手だけでもきれいにしてから戻りましょう。お時間があるなら湯あみの準備もいたしますが……」

「わかったわ。でも先生がみえてる時間だから手だけを洗っておくわ」

「かしこまりました」



手を洗ってから侍女とエレナが部屋に戻ると、部屋の前では家庭教師が待っていた。


「いかがでございましたか」


エレナが戻って中に入ると早速家庭教師は尋ねた。


「自分が住んでいるところでこんなにたくさんのことが行われているって考えると、生活をするって大変なことなのね。みんなに迷惑を掛けないようにできるだけ汚さないように気にしなくちゃって思ったわ。それと、働いているところを見に行くのは厨房以来だわ。周りにもたくさんお仕事をしている人がいるのに、どうしてそんな簡単なことに気が付かなかったのかしら」


自分の周りには常に数人の人がいるが、実際はそれ以上の人がこの場所を維持するために見えないところで働いている。

エレナはそのことにも驚いていた。

掃除をするだけであんなにたくさんの人がいるとは思わなかったのだ。


「それはエレナ様がその生活を当たり前だと考えているからでございます。そして市井のものは自分のことを自分でするのが当たり前なのです。生活環境が変われば変わってしまう、本当は些細なことなのでございます」


エレナにとって自分の周囲がきれいなのは当たり前だったが、それを維持している人がいないと汚れてしまうということに考えが及ばなかった。

そこに気がついただけでも大きい収穫になっただろうと家庭教師は考えた。


「そうなのね。ねえ、ここにはたくさんの掃除道具があったの。一つずつ借りてきたら、どこかお掃除してみたりできないかしら?見ていたらとても嬉しくなったのよ。自分で床をきれいにしたらどんな気分かしらって、ちょっとわくわくしてしまったわ」


案内をしこの場に同席している侍女も、そして家庭教師も同じことを思っただろう。

二人は一瞬顔を見合わせた。

そして口を開いたのは家庭教師である。


「……エレナ様は変わっておいでですね。それならば一番良い場所がございますよ」

「まあ、そうなの?」

「はい。エレナ様のお部屋、ここでございます」

「確かにそうだわ。道具さえあれば、ここに私の許可なく入ってくる人はいないし、自分の部屋の床がきれいになるし、試してみたいわ」


家庭教師も侍女もこんなところまで来て掃除をしたいとは思わない。

エレナも一度やったら満足し、続けていけばきっと飽きるだろうと考えた。


「わかりました。エレナ様が掃除の様子に感動されて、ぜひ自分でも道具を使ってみたいと希望されているとお伝えしてみましょう」

「先生ありがとう」

「いいえ。このくらいのことしかできませんから……」


家庭教師がそのことを伝えた翌日、新しい掃除用具一式がエレナの部屋に届いたのだった。


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