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庇護欲をそそる王子様と庇護欲をそそらないお姫様  作者: まくのゆうき


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エレナの調理実習

「姫様、今日はどんな風になさいますか?」


調理場についたエレナに、女性の一人が食いつくように尋ねた。


「ちょっと待って。材料を全部把握していないから今から考えるわ」

「え?今からですか」


女性が驚いて聞き返すと、エレナはそれに答えながら台の上に用意されている材料をじっくりと見て、どう料理しようかか考えながら質問に答える。


「ええ。毎回そうよ。参考までにこの材料で普段はどのような料理を作っているのかを院長に教えてもらって、それに合わせて調理をしているの。こちらのお昼はパンとサラダとスープと聞いたわ。芋はサラダの付け合わせに使うってヒントももらったけれど……」

「そうなのですか?てっきり予習してきているのかと思っていました」

「事前に分かっているならそうするけれど、調理場に用意されている材料は教えられていないから、ここで見てどのように調理するか考えているわ。どういう料理になるかは教えてもらっているのだから、あとはここに揃えられた材料をどう振り分けるかを考えるのだけれど……」


今日用意されていたのはいつもの葉物野菜、そして肉の塊、根菜、卵で、珍しく芋の姿がない。


「今日の材料には卵があるのね。普段はどのようにしていただくの?」

「茹でて、殻をむいて切って野菜に乗せるか、つぶして塩コショウで味を付けて乗せるかですね。一人一つ食べられるなら自分で皮をむかせて好きなように食べさせるんですけど、なかなかその数にはならなくて……」


芋がないということは、彼女たちの言う通り、今日は茹でた卵をつぶしてサラダの付け合わせに使う事は確定だ。

それならばとエレナは卵を数個だけ別にして台の上に残すと残りの卵を鍋の方に運びながら言った。


「わかったわ。じゃあ、今から鍋に入れる卵を茹でてしまってもらえるかしら?別にしたものは後で使うからそのままにしておいて」

「わかりました。じゃあ、私が火にかけますね」


エレナが鍋に静かに卵を入れ始めると、一人がすかさずボウルに水を汲んで持ってきた。


「水は少なめでいいわ。その方が早く火が通るでしょう?」

エレナが言うと、彼女はうなずいた。

「そうですね。私たちもいつも浸るくらいの水で茹でてます」

「じゃあそれでお願い」


エレナが彼女に指示を出していると、もう一人がエレナに声をかけた。


「姫様、じゃあ、私はこれをちぎっていればいいですか?」

「ええ。お願いするわ」


もう一人が自分が何をすればいいのかをすぐに考えてエレナに指示を仰ぐと、エレナもそれを依頼する。

そして当のエレナはというと、肉の塊をスープに入れるサイズに切るため、肉をまな板の上に移動して切った肉をボウルの中に入れていく。



「卵を茹でたお湯は捨ててね。あまりキレイではないし、お湯に独特な臭みがついてしまってから美味しくなくなってしまうの。鍋は軽く洗い流したら今度は私が使うわ」

「わかりました」


卵を担当していた女性が鍋の中からおたまで器用に卵を取り出すと、卵を茹でたお湯を流して一度鍋をゆすぐ。

そしてその鍋をコンロの上に戻した。


「姫様、お水はどのくらい入れますか?」


最初に教えた女性から話を聞いていたのか、鍋は水を入れないでコンロに戻されていた。

エレナはその中に切り終えた肉を入れて言った。


「このお肉が浸るくらい、卵と同じイメージでお願い。火が通ったら教えて」

「わかりました!」


指示を受けた女性はエレナに言われた通り肉を火にかけている。

そして言われていないがどうしたらいいのか分かっているらしく、鍋を時々かき混ぜるのも忘れない。



手の空いたエレナは、その間に茹で卵の殻をむき始めた。


「姫様、この卵はどうするんですか?」


卵をむいているエレナを見て、台の上に残された卵のことを伝えようと葉物野菜をちぎっている女性がエレナに尋ねると、エレナは手を動かしながら彼女の方を見て言った。


「それはこれから使うけれど、もう少し後ね」

「それじゃあこのままにしておきます」


そんな会話をしながらもエレナを含め女性たちは誰も手を止めることをしない。

護衛たちはただその様子を見ているだけだ。



「姫様、お肉は火が通りました」


エレナが卵の殻を剥き終えた時、ちょうど鍋を見ている女性がそう声をかける。


「ちょうどよかった。そちらへ行くわ」


エレナはそう言うと殻のむかれた卵の入ったボウルを抱えて鍋の方に向かった。

そして鍋の様子を覗きこもうとしたエレナを見て、おたまにお肉を乗せてすくい上げた物を見せると、エレナはうなずいた。


「いい感じだわ。じゃあ、今すくったものを少しお湯を切ってこの中に入れてちょうだい」

「はい」


彼女は手早くお玉の中の水を鍋に落とすと、そこに残った肉をそのままエレナの持っているボウルの中に入れた。


「ひとすくいでよかったですか?」

「そうね、もう一回分、入れようかしら?」

「わかりました」


彼女が同じように肉をボウルに入れると、エレナはそのボウルを台の上に置いた。


「あの、姫様、この後、お鍋はどうすれば……」

「そこにお水と、葉物野菜をちぎったものを少し入れて火にかけるわ」

「それは私がやります」


座って黙々と葉物野菜をちぎっていた女性が葉物野菜を一つかみ持って鍋のところに来ると、エレナに代わってもう一人の女性に説明を始めた。

エレナはその様子から任せて大丈夫だと判断し、卵をつぶして肉と混ぜながら塩コショウで味を調え、サラダの添えものを完成させた。



女性二人はちぎった葉物野菜を入れた後、おたまで混ぜてもこぼれないくらい、ぎりぎりのところまで水を足すと、再び一人に任せて、もう一人は葉物野菜を再びちぎり始めた。

その間、エレナは残された卵をボウルに割り入れてかき混ぜる。


「姫様、それは何に使うのですか?」


先ほど台に卵を残していることを気にしていた女性が尋ねると、エレナは卵を混ぜながら答えた。


「これは、スープの仕上げに使おうと思っているの」

「仕上げ?」

「ええ。沸騰したスープの中に少しずつ入れると、見た目が少し華やかになるのよ」

「そうなのですね!入れるところは是非見たいです」


話は聞けているが、今日はずっと葉物野菜をちぎっている。

鍋を見に行ったりはしているけれど今日の料理のメインになる部分はもう一人に譲ってしまったので少し残念に思っていたのだ。


「もちろんよ。スープのお湯が沸騰したら始めるわ」

「じゃあ、それまでに葉物野菜は仕上げておきます」

「私もやるわ。卵はもう混ぜ終えているもの」

「はい」


そうして葉物野菜の作業にエレナも加わり、それは程なくして終わった。



「スープが沸騰してきました。どうしましょうか?」


いつもならこの時点で火を止めて完成なのだが、エレナが沸騰するのを待っていると言ったので鍋を見ていた女性が声をかけた。


「今行くわ」


エレナが溶いた卵の入ったボウルを抱えて鍋のところに向かうと、一緒に葉物野菜の作業をしていた女性も立ち上がって鍋のところについてきた。


「一人でやってもいいのだけれど、二人の方がきれいにできるから、お願いしていいかしら?」

「はい……、何をすればいいでしょう?」


返事をしたものの何をすればいいのか分からないと女性が困っていると、エレナはその先の説明を始めた。


「まず鍋をしっかりと掻きまわしてちょうだい。私が卵を入れていくけれど、手を止めないでね。具を浮かせる必要はないから、本当にぐるぐると混ぜていて大丈夫よ」

「わかりました」


女性が言葉通り、鍋の中をぐるぐると掻きまわしていると、そこにエレナは少しずつ卵を流し始めた。

卵は落とされた細い糸のような状態でどんどんと固まっていく。


「何だか白い花弁のようですね」


作業の様子と鍋の中を交互に見ていた女性が驚いていると、エレナは嬉しそうにうなずいた。


「そうでしょう?これならスープを見た目でも楽しめるのではないかと思ったの。卵はすぐに固まってしまうから、この形にするなら少しずつ入れなければいけないの。いっぺんに入れるとその形に固まるから。あと、混ぜている方がよりバラバラに散って整いやすいから混ぜてもらったけれど、一人でも混ぜて、お玉を置いて卵を入れる事を繰り返せば同じようにできるわ。要は塊にならないように流せればいいから、鍋の中に円を描くように少しずつ入れていくこともできるけれど、それだとたまに先に入れたものと後に入れたものがくっついてしまったりすることがあるわね」

「これは出すのが楽しみです」


エレナが卵を入れ終わり、混ぜるのを止めていいと女性に告げると彼女は手を止めて鍋の中を見た。

確かにもう一人の女性の言う通り花弁のようなものがスープの中に浮いている。

これならば野菜や肉がなくても卵一つあれば自分たちでもできそうだ。

見た目が違うだけで豪華に見える

そのくらい彼らの食事には変化がなかった。

だからこれを見たら皆が喜ぶに違いない。

彼女たちは顔を上げると、今日もエレナから新しい料理の知識を得られたと嬉しそうに顔を見合わせた。

こうして三人で作業をしたことにより、昼ごはんの準備はいつもより早く終了したのだった。

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