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庇護欲をそそる王子様と庇護欲をそそらないお姫様  作者: まくのゆうき


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友人関係以上の信頼

エレナが安全に部屋に入るのを見届け、護衛任務の交代を終えた新人二人は寮に戻ることになった。

業務報告を終えて二人になったところでルームメイトが切り出す。


「ケイン、さっきのは……」

「越権行為だとは思ってる」


本当ならばケインがエレナの行動に関してあれこれ言う権利はない。

ケインもそれは分かっている。

慰めたり励ましたりするような言葉をかけるのは許されるかもしれないが、エレナの意見を聞いて、それを実現するために独断で何かしようと動こうというのは間違っている。

今回はエレナがそのような要望を出してこなかったからよかったものの、もしそれでエレナが何か強い希望を出すようなことがあれば、聞いた以上、その要望を叶えなくてはならなくなる。

ケインはそれでもエレナの希望を叶えたいと、孤児院で奮闘するエレナを見てそう思ってしまったのだ。


「先輩が何も言わなかったから、止めるか迷ったけど、それも俺が判断できることじゃないし、正直ヒヤヒヤしたぞ」

「それは悪いことをしたな」


ルームメイトが自分の取った行動について心配してくれていたと聞いたケインは、彼に謝罪の言葉を口にした。

けれどそれが口だけだと気がついたのだろう。

謝罪を受けた方のルームメイトは諦めたようにため息をついた。


「でもいいのか?」

「何がだ?」

「お前がエレナ様に側に立ったら、クリス様はどうするんだよ……」


もともとエレナの護衛はクリスからの推薦でなったものだ。

もしクリスの意見にそぐわないようなら、彼はきっとエレナの護衛から外されてしまうだろう。

せっかく側にいられる機会を得たのに、それを自ら手放すことになるかもしれない。

本当は直球でそう聞きたいところだが、さすがにそれはできないと回りくどい聞き方になってしまった。

その言葉を聞いたケインは少し考えてからそれに答える。


「意見は対立するだろうな」

「お前、クリス様の友人だよな」

「そうだな」

「そうだなって」


騎士学校から帰省するたびに顔を出すくらい親しく、寮にもちょくちょく手紙が届くくらいの仲ではあるはずだ。

クリスがそこまでする人物はそういないだろう。

だからケインとクリスはとても親しいと考えていた。

けれどエレナのことであれば対立する覚悟があるということらしい。

その意見を聞いてルームメイトが驚愕していると、ケインが言った。


「クリス様はエレナ様のご要望を叶えることを望んでいるはずだ。今だってクリス様の立場がそうさせているだけであって、本当は誰よりもエレナ様の味方でいたいと考えていると俺は思ってる」


ケインの意見を聞いて改めて考えると、確かに思い当たるところがある。

確かにクリスはエレナを自分の思い通りにしたいというよりも、とても大切にしている様子だ。

過去にも何かあったらしいとうっすらと耳に入っているし、だからこそ護衛を選ぶ際の基準が次期国王のクリスより、妹のエレナの方が厳しいのだ。


「まあ、クリス様はエレナ様のことに関しては厳しいって聞くからな。クリス様の一番の理解者であるケインがそう言うならそうなんだと思うけど、先輩はどうかわからないぞ?」

「ああ、説教を受ける覚悟をしておくよ」


そこで黙って聞いていたのは今一緒にいるルームメイトだけではない。

そこにはもう一人、ベテランの護衛騎士がいた。

彼は今頃クリスの元に報告に行っていることだろう。

きっとクリスからのお咎めはないが、ベテランの護衛騎士からは口を慎むよう説教を受けることになるに違いない。

ケインは彼に言われて密かにその覚悟を決めたのだった。



一方、彼らがそんな話をしている間にいつの間にか報告の場を離れた護衛騎士は、彼らの想像通り、ケインの元に報告に向かっていた。

彼がエレナに意見をしており、最後は本人がやりたいようにさせたいと思わせぶりなことを言ってしまった事を簡単に説明すると、クリスは頬に手を添えてふぅっとため息をつく。


「そう……ケインがね」

「どうされますか?」

「何もしなくていいよ。必要になったら向こうから来るはずだから」


どのように対処をするか確認すると、クリスは何もしなくていいと言う。

つまりクリスからのお咎めは特にないということだ。

だが、その後の言葉が気になった彼は思わずクリスに聞き返した。


「彼がクリス様のところに来るというのですか?」

「必要があれば、友人としてね」


彼も元はクリスの護衛をしており、そこでクリスの信頼を得てエレナの護衛騎士に任命された一人だ。

だからエレナとケインの関係も理解しているし、クリスとケインが信頼し合う友人であることも知っている。

それがなければケインがエレナに意見を出した際、即座に止めるよう促しただろう。

それをしなかったのは彼らの関係を知っていたからである。

けれど今日のケインの意見はクリスの意見とは異なっている。

友人としてクリスを訪ねたケインが、エレナの希望をクリスに申し立てることになるのかと思うと複雑だ。

二人には仲の良い学友で、無二の友であってほしいと、二人を長く見ている彼はそう思っていた。


「ですが、そうなりますと、クリス様とは意見が対立するのではありませんか?」

「そうなるね。でも何も問題ないよ?」

「クリス様が大丈夫でしたら良いのですが……」


ケインがエレナのために動いてくれているのなら、何も問題はない。

ケインなら、クリスにできないこともしてくれるだろうという期待をしての配属だ。

傍から見れば無礼なように見えるかもしれないし、エレナに気安く挨拶をする騎士たちと変わらないように見えるかもしれない。

クリスはむしろ、ケインがそういう人たちと同じように見られないかの方が心配なのだ。


「むしろケインを気にかけてあげてくれるかな。大丈夫だとは思うけど人目のあるところで何かしないように」


話によるとそれは廊下での出来事だという。

だから滅多に人は通らないだろうし、エレナの部屋の前ということなので事情を知る者しかいないはずだが、それでも油断して良い場所ではない。

それは、ケインを注意することになった場合の彼も同じで、もし注意をするにしても周囲の目を引かないよう充分気を付けてもらわなければならない。

クリスがそう告げると、彼は敬礼で返す。


「かしこまりました」

「報告ありがとう。あと、エレナのこと、引き続きよろしくね」

「はっ」


クリスが笑みを浮かべてそう言うと、彼は深々と頭を下げて退席した。

クリスはそれを見送ると、ふぅっと再びため息をつくのだった。

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