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庇護欲をそそる王子様と庇護欲をそそらないお姫様  作者: まくのゆうき


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準備のための夜更し

孤児院へお手伝いに行ってから、忙しそうにしながらも、エレナはとても充実した日々を過ごしていた。

スープもちょっとした違いで味を変化させられることがわかってきたけれど、まかないのスープは食卓に並ばないけれどどれもおいしいので、ほとんど連日通っていた。

読み聞かせのための作品も数回分できるくらい書き写したものが溜まっていたが、読み聞かせの種類はもっと増やしたいと、教えてもらった本以外にも何かないかと積極的に読書の時間を増やした。

教材に関してもデザインを考えるのは楽しかったし、それが一つ、完成した時は嬉しかった。

だから朝から晩まで夢中になって取り組んでいたのだ。



一方で、スープを研究し、絵本の文章を書き写し、教材のデザインを紙に描き、その合間に訓練場に足を運んだり、刺繍に没頭したりと、次回の訪問に備えて過剰な準備をするエレナをクリスは心配していた。


「エレナ、最近は忙しそうにしてるけど、疲れてないの?」

「疲れていないわよ。むしろやる気に満ち溢れているくらいだわ!」

「そう?少し頑張りすぎに見えるけど」

「そんなことないわ。お兄様だって、朝から夕食の前まで執務室にいたり、公務や面会をこなしたりしているでしょう?時間にしたら同じくらいだと思うの」


エレナはクリスが執務室にいる間はずっと仕事をしていると思っているらしく、自分はそれと同じくらいの時間しか仕事をしていないという。

エレナの勘違いに、クリスはため息をついた。


「エレナ、僕はちゃんと休みながらお仕事しているよ。エレナは休んでいるように見えないけど……」

「私は仕事というより、大半がやりたいことをして過ごしているのだから、お兄様のように疲れることはないわ」


自分が楽しんでやっていることだから大丈夫だと言いだしたエレナは、やはり休んでいないように見えた。

けれども、確かにエレナのしていることは公務とは関係ない。

だからエレナのいい分を否定することはできない。

クリスは少し考えて話を本題に持っていくことにした。



「ところでエレナ、今やっているのは孤児院へ訪問するための準備だよね」

「ええ、そうよ」

「それはどのくらいかかるの?」


クリスが小首を傾げて尋ねると、エレナは目を輝かせて言った。


「もしかして、二回目の訪問、決まったの?」

「まだだけど、もし準備しているものがあるのなら、それが終わって、エレナがゆっくり睡眠を取るようになってからにしようと思っているよ」

「大丈夫よ!もう次の分の準備はできているの。明日でもいいくらいだわ!」


エレナの興奮した様子を見たクリスは、少し呆れた表情になった。

エレナは睡眠不足で情緒不安定になっているのだ。


「大丈夫じゃないよ。まずちゃんと寝るの!毎日、夜中まで何かしてるらしいって、ちゃんと報告がきているからね?」


クリスがエレナに言い聞かせると、エレナは首を縦に振った。


「それはつい教材を作るのに夢中になってしまっているからよ。ちゃんと寝られるわ」

「教材?」

「ええ。私、孤児院の子どもたちに文字の読み方を教えたいと思って相談したでしょう?その流れで、私が教えるのなら私が教えやすいような教材を作るといいってアドバイスをもらったの。それでそのアイデアを例の護衛騎士からもらって、私が形にしているのよ」


護衛騎士からはエレナが教材に使用するデザインを紙に描いたという報告が上がっていた。

エレナはそれを下書きだと言ったそうだが、それを見た護衛騎士からは、それをそのまま使えばいいと伝えたくらいの完成度だったと聞いている。

だからエレナがその下書きに納得できないのなら、その下書きを元にどこかに発注すれば済むのだが、なぜかエレナは自分で作っているのだという。


「それは誰かに頼んでもよかったんじゃないかな?こういうのが作りたいって伝えてくれたら注文できるでしょう?」

「確かにそうだけれど、教材作りは私の練習にもなるからちょうどいいと思ってやっているのよ」


教材作りが練習になるというエレナの言葉の意味は分からないが、とりあえずクリスの目的はエレナの夜更かしを止めさせることだ。

だからその疑問を飲みこんでクリスは続けた。


「でもそれで夜更かしして体を壊したら意味ないでしょう?当日に体調を崩していたら中止しなきゃいけなくなっちゃうんだから。それに孤児院はこの事知ってるの?」


前回の時点で孤児院にこの話をしていないことは確認済みだし、二回目の打診すら行っていないので、クリスから事情を伝えることもしていない。

けれどエレナが孤児院で何か話してしまっているならば別だ。

だからクリスは心配になってエレナに確認したのだが、その心配は杞憂だった。


「まだ伝えていないわ。当日、もしまた読み聞かせの時間があるのなら、その時間を少しだけ勉強の時間に充てたいと聞いてみるつもりだけれど、もしそれで許可が出たら、その時に教材があれば、その日から始めることができるでしょう?」


クリスは自分の確認不足ではないことに少し安堵しながらも、孤児院への打診を行っていなくて正解だったと思った。

もし決まってからこの話をしたら、エレナはおそらく睡眠不足のまま孤児院に行くことになったに違いない。


「確かにそうだけど、もう次に使う分はできてるんでしょう?じゃあ何で今も夜中まで起きているの?」

「だって、一つ一つの数字に、それを見ただけでわかるようなデザインを考えて形にするまではよかったのだけれど、他の文字はどうしたらいいかアイデアが浮かばないのだもの。だから考えながら手を動かしていれば何か浮かぶんじゃないかと思って……」


そして手を動かしていたらそちらに集中してしまって気が付いたら夜中になっていたという。

考えるための作業のはずなのに、考えないで作業だけしているのでは意味がない。

クリスはため息をついた。


「ねぇ、エレナ。まだそのお勉強の時間をもらえると決まったわけじゃないんだから、次の分は今作らなきゃいけないものじゃないでしょう?」

「……言われてみればそうだわ」


エレナはとにかくできることを増やそうと必死になっていたが、まだ次回の日程すら決まっていないのだ。

それなのに夜中まで作業をしているなど、周りから見ればやりすぎだ。


「それに今の状態のエレナを孤児院のお手伝いに派遣できないよ。孤児院で体調を崩したら迷惑かけちゃうからね」

「それは大丈夫だと思うけれど……」


今も普通に話をしているし大丈夫だとエレナが答えると、クリスはエレナをじっと見て言った。


「毎日ちゃんと寝てるって報告がくるようになったら聞いてあげる。だから早く行きたいなら、今晩から夜はちゃんと寝ること。わかった?」

「わかったわ」


クリスに言われるまでは意識していなかったが、数回先の分までの教材を用意するのはまだ早いと、エレナはようやく気が付いた。

もし行くことが決まったとしても、この教材を使って勉強をする時間をもらえるのかどうかは分からない。

準備をしないで行くわけにもいかないが、できることを前提に先走っても使わないことになればそれは無駄になってしまうのだ。

それにもう次回持っていくものは完成している。

そこをクリスに指摘されたエレナは夜更しをやめて、きちんと睡眠を取るようになった。

それを確認したクリスは、約束通り、孤児院への訪問を取り付けてから、その日程をエレナに伝えたのだった。

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