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庇護欲をそそる王子様と庇護欲をそそらないお姫様  作者: まくのゆうき


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王妃とブレンダのお茶会

「王妃様、お話をお伺いいたします」


きちっと騎士のスタイルで立ったままのブレンダに王妃は笑いながら言った。


「そんな堅苦しいのはいらないわ」


クリスに似た笑みを浮かべて小首を傾げる王妃に、思わずため息をつきそうになるのを押さえながら硬い表情を崩さずにブレンダは首を横に振った。


「いえ、任務中のため、このような形での参加になってしまいますので申し訳ないと思っております」


ブレンダの頑なな態度に、王妃はまたクスクスと笑った。


「いいのよ。でもこうしないといつまでもお話しできないと思ったものだから、クリスはきっとお茶会の時にあなたを伴ってくると思ったから、そうなったら私のために彼女の時間をちょうだいって騎士団長にも相談しておいたのだもの」

「そうなのですか」


ブレンダが王妃の言葉を聞いて騎士団長の方を思わず睨むと、彼は黙ってうなずいた。


「……」


この場でこの件に関して全く気がついていなかったのは自分だけ、他のメンバーは事前に知らされていたか、薄々感付いていたということらしい。

そう知らされてブレンダは言葉を失った。



「察していましたが、やっぱりブレンダが沈黙してしまいましたね」


立ったまま何も言わず、反応も示さなくなってしまったブレンダを見てクリスがため息をついた。


「あら、でもね。この子、何度招待状を出してもちっとも参加してくれないんだもの。こうするしかないと思ったのよ」


王妃が拗ねたように言うと、クリスが話をしなくなったブレンダの代弁をする。


「ブレンダの場合、本人に参加する意思がありませんでしたからね」

「やっぱりそうよねぇ。でも、逃げ方だけは上手いのよ?だって毎回、私が折れるしかないような理由やタイミングでお断りの連絡が入るのだもの」

「そうでしたか」


ちらちらと二人でブレンダの方に目をやるが、ブレンダは眉一つ動かさない。

ついにしびれを切らした王妃が思わず言った。


「とりあえず二人とも座ってちょうだい。そのままでは落ち着かないわ」


王妃が促すとクリスはブレンダのために椅子を引いた。


「はい、どうぞ」


そしてにっこりと微笑むクリスに、ブレンダは納得がいかない様子でクリスに言った。


「あの、今更ですが、本当に私が座るのですか?」


椅子の背に手をかけたままのクリスにブレンダが問うと、クリスはその位置で小首を傾げた。


「他に誰が座るの?」

「むしろ私がクリス様の椅子をお引きするべきかと思いますが……」


二人の会話を聞いた王妃は、大きくため息をついてからしっかりとブレンダを見てクリスの代わりに答えた。


「クリスの言う通りよ。ほら、いつまででも立っていないの。往生際が悪いわよ?」

「はい、では……」


さすがに王妃にまで言われると気まずい。

仕方なくブレンダがクリスに気を使いながら椅子に腰を下ろすと、その隣にクリスが着席した。



椅子に座ってからも自分からは口を開こうとしないブレンダに王妃は声をかけた。


「そんなに畏まらないでちょうだい?ここには私たちしかいないのよ?クリスとは普通にお話ししているのでしょう?」

「普通ですか?」

「だってあの子が軽口を叩くのなんて滅多に見られないのよ?私たちとも同じようにしてほしいと思っているわ」

「私たち……ですか」


ブレンダが王妃の様々な呼びかけに部分的な復唱しか返さないため、クリスが間に入った。


「ブレンダ、僕も普通に話をしてほしいかな。お母様も親交を深めたいなって思っているだけだから。それに事情は理解してくれたんだよね。怒っているわけではないでしょう?」

「それは……」


さすがにこのやり方はよくなかったかもしれない。

本当ならばご令嬢が参加するお茶会だったのに、騎士服のままこの席に座らせている。

周囲に人がいないとはいえ傍から見れば浮いて見えるだろうから、ブレンダからすれば居心地が悪いに違いない。

お茶会を断り続けていたことについて自覚があると言っていたのだから、不満はあっても怒ってはいないはずだ。

でもこのままでは話が進まない。


「もし怒らせてしまったなら謝るよ。ブレンダには無理をさせてるんだし」

「いいえ、謝罪は不要です」

「そう?」

「はい」


謝罪を拒否されたクリスが次はどうしたらいいかと考えていると、王妃が何かを決意したかのように言った。


「クリス、呼びつけておいて悪いのだけれど、席をはずしてちょうだい。私は彼女と二人で話をしたいわ」

「むしろ今もずっとお母様が一人で話を進めていましたけれど、本題は私がいない方が話しやすい内容なのでしょうか」


クリスが小首を傾げて尋ねると、王妃はそこに屈することなく笑みを浮かべた。


「そうなの。察しが良くて助かるわ」


そんな母親の言葉を受けてクリスはブレンダの方を見た。

ブレンダはというと、急に態度の変わった王妃の方をじっと見て、何を言われるのかと少し探っているような様子だ。

クリスは自分から退席すると匂わせた手前、ここで立たないわけにはいかず、とりあえず立ち上がってから言った。


「あまり困らせるような話はしないでくださいね。彼女にとってはすでにこのお茶会がだまし討ちみたいなものなのですから」

「困らせるような話なんてしないわ。女同士の大事な話よ」

「わかりました。では席を外します」


クリスがブレンダの方を一瞥してからドアの方に向かって歩き出すと、王妃が騎士団長にも声をかけた。


「騎士団長も外していいわ。彼女は私が借りるから、引き続きクリスを護衛していてちょうだい。この子は腕が立つよね?」

「はい」

「じゃあ、二人で話していて、何か起きても問題ないわね。この子なら対処できるでしょう?」

「そうですが、何かあった場合は外には護衛をつけておりますので、お声掛けください」

「ええ。もちろんそうするわ」


騎士団長の言葉に王妃がにっこりとほほ笑むと、クリスと共に騎士団長も退室した。

二人とも自分が外に出されるのは想定外だったこともあり、様子がとても気にかかったが、今の二人では王妃の命令に逆らうことはできない。

だから中に残ることは諦めることしかできなかった。


「あなたたちもお茶を入れ直したら出てちょうだい。二人で話をしたいの」


最後に王妃は侍女たちにそう指示を出すと、本当にお茶を用意させてそのまま退出させる。


「これで二人きりだわ。改めてよろしくお願いしますね、ブレンダさん」


名前を呼ばれたブレンダは逃げ場がないと悟って、はいと返事をしたのだった。

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