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庇護欲をそそる王子様と庇護欲をそそらないお姫様  作者: まくのゆうき


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孤児院訪問初日

孤児院訪問の日程が決まったことを伝えるとエレナはとても喜んだ。

けれどクリスはその様子から、エレナはその日に王妃のお茶会が行われることを知らないのだと悟った。

もし知っていたら素直に喜んだりせず、お茶会に参加するべきではないかと悩んだはずだ。

そして、両親がお茶会のことに対してエレナに何も言わないところをみると、おそらく今回のお茶会はわざとエレナが参加できないように仕組まれているのだろう。

一度王妃の策略に乗ることに決めたのだから、エレナには申し訳ないが両親の意に沿ってクリスもお茶会の件には触れないことにした。



こうして何も知らないまま迎えた当日。

朝食の席でエレナは頬を膨らませていた。


「どうしたの?今日は孤児院に行くんでしょう?なんだか機嫌が悪そうだよ?楽しみにしていたんでしょう?」


いじけたようにむくれているエレナにクリスが小首を傾げて尋ねると、エレナは聞かれるのを待っていたように言った。


「お手伝いに行くのだから訓練着の方が動きやすいと思ったのだけれど、侍女たちに却下されてしまったの。だって遊びに行くのではないのよ?それなのにお出かけ用の服装で行くなんて。この間だって床の上に座ったりしたのだから、そういうことをしてもいい服装の方がいいと思うの。そう思わない?」


もしかしたらお茶会の件を知ったのではないかとも思ったが、どうやらそうではないらしいということに安堵した。

けれども想像以上にエレナが本気なことに少し動揺もした。

てっきり外出できることに喜んでいると思っていたのに、エレナは本気で手伝いをすることを考えていたのだ。

そして困惑したのはクリスだけではなく、両親も同様だった。

さすがに王女の外出に訓練着はない。

それが仮に野外での戦闘訓練というのなら仕方がないと許すだろうが、今回は孤児院への訪問だ。

手伝うのだから動きやすい方がいいという理由は分からなくもないが、訓練着である必要はない。

話を聞いてしまってクリスが答えに困っていると王妃が諌めた。


「エレナ、それはさすがにダメよ。あなたたち、よく止めてくれたわ。エレナ、孤児院は王宮内じゃないのよ?最低限品位を落とさないような格好をして言ってもらわないと困るわ。本当ならば王宮内でも訓練着で移動するのをそろそろやめてもらいたいと思っているのよ?」


王宮内で働く者にとってはすっかり見慣れたものになってしまっているが、王宮には客人もやってくる。

デビュタントの前であれば世のほとんどの人間がエレナの顔を判別できなかったかもしれないが、すでにお茶会や夜会に何度も参加しているのだから、さすがにエレナの顔を判別できる貴族も多い。

今のところ客人と訓練着のエレナが鉢合わせするようなことにはなっていないが、このままの生活を続けていたらいつか誰かと出くわしてしまうかもしれない。


「じゃあ、お仕着せならいいかしら?」


母親にまで反対されたエレナは、少し考えて別の案を提示した。

訓練着は客人の前に出ることはないが、お仕着せならば侍女たちが着ている。

それに彼女たちはお仕着せで掃除や炊事もこなしている。

これならば人前に出ても問題ないし、動き回っても問題ないものだと思ったのだ。

けれどこれも王妃は許可を出さない。


「それもダメね。お仕着せはこの王宮で働いている人の制服のようなものだわ。孤児院に王宮からプロが手伝いに来ているなんて、他の孤児院から何を言われるか分からないでしょう?遠くから見たらお仕着せは分かるけれど、それを着ているのがエレナだなんて気がつかないわ。それにここにいる皆も、お仕着せのまま私用での外出は禁止されているのよ」


だからお仕着せで外出するのはだめだと言うと、エレナは黙ってうなずいた。


「言われてみればそうね。皆が守っている規則を私が破っては示しがつかないわ。私が孤児院に行くのはあくまで私個人の希望だもの。貴族の戯れくらいに思われた方がいいかもしれないわ」

「そうよ。だからせめて街にお忍びでお出かけしたような服装にしてちょうだい」

「仕方がないわね、そうするわ」


王妃の説得で何とか訓練着で外に出ることを回避できたエレナ付きの侍女たちは離れたところで安堵していた。

自分たちではエレナを説得しきれず、おそらく収拾がつかなくなってしまっていたに違いない。

だからと言ってエレナに押し負けて訓練着で外出させるなど、許されることではない。

自分たちの資質が問われてしまう。



実は彼女たちは、朝から複数人でエレナの説得にあたっていた。

何とエレナは朝のお召し変えに侍女が入って行った時にはすでに訓練着で待機していたのだ。

とりあえず朝食の席にその格好は相応しくないのでと、ドレスに着替えるように説得したが、出かける時は訓練着を着るからそのまま置いておくようにと言って聞かなかったのだ。

エレナが訓練着での外出を諦めてくれて安堵したものの、当のエレナは落ち込んでしまっていた。

この日を待ちわびて、扱いにくい布での刺繍にあえて挑戦してみたり、何を着ていこうかとあれこれ悩んだりしていたのを知っている。

訓練着も考えに考えて出した最善の結論だったに違いない。

何かいい方法はないか、そんなことを侍女たちが考えているうちにエレナは朝食を終えて席を立った。

それに合わせて侍女の一人がつき従うように後ろにつくと、こっそりエレナに声をかけた。


「あの、差し出がましいのですが、こちらのようなものをお持ちになってはいかがでしょうか」


そう言いながら侍女が自分の付けているエプロンを指したが、エレナは足を止めて、よくわからないと言ったように小首を傾げた。


「何かしら?」

「エプロンでございます」


エプロンの端を掴んでひらひらとして見せると、エレナはその意味を理解して目を輝かせた。


「まぁ!確かにエプロンなら孤児院にいる間だけ使うことができるし、孤児院側にも遊びに来たんじゃないって伝わると思うわ。外に出たら外せばいいのだものね。ありがとう。使わせてもらうわ。お母様、いいでしょう?」

「そうね。それならばいいと思うわ」

「会話に口を挟みまして申し訳ございません。エレナ様のご説得ありがとうございます」


侍女が王妃に頭を下げると、王妃はクスクスと笑って、その笑顔のまま侍女をねぎらった。


「苦労をかけるわね。エプロンはいいアイデアだわ。これからもエレナのことをよろしくね」

「はい。ではエレナ様、今度こそ外出用のワンピースにお着替えをお願いいたします。その間にエプロンをご用意いたします。お出かけのお時間が迫っておりますから急ぎましょう」

「わかったわ」


こうしてエレナは侍女に促されて部屋に戻ると、外出用のワンピースに着替えた。

そこに侍女が新しいエプロンを持ってきてエレナに渡すと、エレナは嬉しそうに受け取って、そのエプロンを抱えて出発の時間を待つのだった。

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