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庇護欲をそそる王子様と庇護欲をそそらないお姫様  作者: まくのゆうき


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孤児院の同伴者選定

報告が落ち着いたところでクリスが思い出したように言った。


「そうだ、孤児院に行く時は、この間の新人二名を固定にしてほしいと思うんだけどどうかな?」

「あの二人を固定ですか?」

「そう」

「理由をお伺いしても?」


あの二人の騎士は非常に仲がいい。

一人はエレナが絶対的な信頼を寄せているし、もう一人はその騎士の相方のような存在だ。

そして、彼はエレナとケインがどのような関係なのかを理解している。

確かに彼ならば気を利かせて二人の時間をうまく作り出すこともできるだろう。

孤児院訪問をそのようなことに利用されては困るが、エレナの近衛騎士ならば、彼と同じようにあの二人の関係を暗黙で理解している。

だからエレナとケインに交流の時間を作りたいというだけならば、別に護衛が彼である必要はないはずだ。

クリスもエレナの護衛にはそういう人選をしているので当然そのことを把握している。

それなのにわざわざ新人だけ固定しようとするのは、クリスに何か考えがあるのかもしれない。

騎士団長はそう考えたのだ。


「一人は何となく察していると思うんだけど、もう一人はね、たぶん内部調査に適任だよ」

「は?諜報にですか?」


予想外の指摘に騎士団長は困惑した。

トラブルなく、平凡でも安全に暮らせたら幸せ、みたいな少し年より臭い達観したようなことを言う青年を、クリスは諜報に適任だと言ったのだ。

彼は間違いなく自分からトラブルに首を突っ込みたがらない。

彼をエレナの近くにつけたのは、彼がエレナとケインにとって害のない人間、おそらく味方についてくれる人間になるからだ納得していたが、彼のどこにそんな能力があるのかと耳を疑った。


「うん。本人はそんな能力はないと思っているみたいだけど、何というか、相手の懐に飛び込むのがうまいよね。今回の情報だって彼がもたらしたものだし、それがなかったら、そもそもエレナが孤児院へ訪問するのに、ここまで警戒することはなかったでしょう?」

「確かにそうですが……」



外側から事前に調査しただけでは持ってこられなかったような情報を、確かに彼は引き出した。

もともとエレナが行く前にも調査はしてあるのだから、危険があるとは考えられていない場所だった。

だから、もし彼が今回の視察に参加していなかったら、おそらくあの孤児院には何も問題はなく安全な場所だという判断が下されていただろう。

今回、彼は子供たちを相手にする傍ら、気になることを全部自分に報告してくれと言っただけらしいが、子どもたちは話を聞いてくれる彼にいろんな話をして、彼はそれを全て受け止めていたと見守っていたベテランからは聞いている。

子どもたちを可愛がっていたら偶然ということもあり得るが、それにしては随分と詳細な情報で、内容は疑う余地の少ないものだ。

今回その情報の信憑性が高いからこそ、こうしてその真意を確認すべく騎士団がこっそりと調査を進めているのだ。

言われてみれば、以前参加した騎士学校のことも随分と良く見ていたように思う。

彼は生徒とも気さくに話をすることですぐに打ち解け、短期間で生徒たちの輪の中心にいるようになっていた。

母校でのこととはいえ、生徒に寄り添ったアドバイスができたからこそ、生徒たちから慕われまた来てほしいと懇願されていると学校側からも手紙が届いていた。

そこに学生からの強い要望があったと、引き抜きの話の後に騎士団に連絡が入っていた。

学校側としても教えるのがうまい教員の才を持つ人は歓迎だし、王宮騎士団から派遣された騎士が年に一度と言わず何度でも来てくれたら、学校の格も上がるのだから、頻繁に連絡をしてくるのは当然のことだ。

元々面倒見がいいとか、人に慕われるとかそういう資質の持ち主なのかもしれないが、結果として彼は自分の近くにいる人物から多くの情報を収集することにも成功したということだし、その情報を正確に精査したり判断したりする能力にも長けているということだ。

多くの情報を扱う諜報部門でも噂に惑わされることなく的確な判断を下すことができるに違いない。

そう考えたら確かにクリスの言う通り、彼には諜報の才能のようなものがあるのだろう。



だがそれと、新人二人にエレナを任せることは別だ。

せめて常にベテランを一名以上は同伴させたい。


「まあ、二人が固定されているのなら、エレナの安全を考えてもう一人二人ベテランを交代で付けてもらえればいいんだけど」

「それならば……」


騎士団長の考えを推し量ったのか、クリスはクスクスと笑いながら言った。


「二人のことは信用しているけど彼らは人の絡むようなイレギュラー対応は経験がないでしょう?もしもの事があったら困ると思う。さすがにまだ彼ら二人だけでエレナの外出を対応させるのは不安があるんだ。街の巡回でもトラブル対応をしたと言う話は聞いていないし」

「おっしゃる通り、彼らが巡回中、トラブルに介入するような事件に遭遇したという話は今のところ報告されていません」


治安が良い方だとはいえ街でトラブルがないわけではない。

酔っぱらいの小競り合いや、ひったくりや盗難というのが多いが、他にも馬車との事故や、貴族と平民の揉め事など内容は多種多様だ。

だが、彼らは巡回の回数がまだ少ないからなのか、それとも運がいいからなのか、そのようなトラブルに一度も出くわしていないらしい。

厳密に間に入って話をすることがなかったかは分からないが、少なくとも報告に上がるような大きなものに関わったことがないというのは間違いないだろう。

騎士団長も報告の内容を思い返してクリスの言葉を肯定した。


「だから、それがあるかもしれないところに対応未経験の新人だけでっていうのは考えていないよ」

「分かりました。人員についてはその件を考慮いたします」

「あ、そうだ。あとで孤児院宛にお伺いの手紙を書くから、調査のついでにそれを届けてもらっていい?その方が中の様子も見られるし、少し話も聞けるかもしれないでしょう?」


手紙ならば他の者に頼んでも問題ない。

けれど今は騎士団が孤児院の状況を調べているところだ。

手紙で中に入る口実ができるのなら利用してもらう方がいいとクリスは考えた。

騎士団長は、クリスにこのようなお膳立てをさせていることに対して複雑な思いを抱きながら、その意味を正確に受け取って返事をした。


「かしこまりました。承ります」


そんな騎士団長に、クリスは何も言及することなく、にっこりとしてお願いねといったように小首を傾げたのだった。

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