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庇護欲をそそる王子様と庇護欲をそそらないお姫様  作者: まくのゆうき


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学校見学

学校見学の当日。

いつも通りクリスとケインは二人で学校に登校した。

エレナが見学をするのは午後からのため、出発の時間が違うのだ。


「お兄様、内緒にいてくれているかしら?」


なんだかんだで学校という場所に足を踏み入れることを楽しみとしていたエレナが、外出用の服に着替えながらつぶやいた。


「クリス様なら大丈夫でございましょう。エレナ様とのせっかくのデートを邪魔されたくないとお考えだと思いますよ」


侍女の一人がエレナの服を整えながら答えた。


「そうね。お兄様ならきっと大丈夫よね」


エレナは自分に言い聞かせるように口にした。

準備を整え、少し早い昼食を取り、出発の時間を迎えるまで落ち着かない様子でエレナは部屋をうろうろとしているのだった。



午後に出発したエレナが学校の裏門に到着すると、馬車を降り、護衛を伴って校長室へと向かった。

学校の裏門は生徒たちから見えない位置にある。

警備はその分厳しいが、要人がお忍びで中に入るときによく使われるところである。


「すまないが……」


エレナを馬車に残して護衛が学校の警備に声をかけると、きちんと話が伝わっているのかスムーズに中に入ることができた。

そこにいた警備の一人が先導して馬車から降りたエレナたちを校長室に案内する。


「ようこそお越しくださいました」


校長室では、校長自らが立ち上がりエレナを出迎えた。

その光景は視察に近いものであったため、エレナは一人で視察時と同じような対応をすることにした。

そして挨拶を終えた二人が着席したところで校長が話し始めた。


「クリス様からお話を伺った時は驚きました。クリス様だけではなく、エレナ様も当校への進学を希望されていたとは。学校の代表として大変誇りに思います」


クリスはエレナがこの学校に進学を希望していたが国王や王妃の反対で通うことができなくなった、せめて憧れた学校という場所を見学させてあげたいと伝えていた。

間違っていないが、エレナがここに通いたかったのはケインが通っているからで、この学校が気に入っているからというわけではない。

そもそも来たことも見たことも通ったこともない学校という場所が、どのようなところかすらも知らないのだから、自分で選びようがない。

だが、そんな感情は微塵も出さず、エレナは笑顔を浮かべていた。


「はい。お兄様たちからお話を聞いて、同じところに通ってみたかったのです。それは叶わぬこととなってしまって残念でしたが、このような機会をいただいて、光栄です」

「光栄などとそのようなもったいないお言葉を……。本日は警備も強化しております。短い時間ではありますがどうぞゆっくりと見学ください。もう時期クリス様もお見えになるでしょう」

「早く学校の中を歩いてみたいわ。まだ外からここに来るまでの道しかわからないけれど、とても大きい敷地のようだし……」


途中から学校の外壁に沿って馬車を進めたため、エレナにもその広さが理解できていた。

校長室のあるこの建物は裏門のすぐ近くにあり、部屋はそんなに広くない。

そして、この建物とは別のところに大きな建物があるのをエレナは確認していた。


「授業は別の建物で行われているのかしら?」

「はい。その通りでございます。ここは教職員が待機する建物でございます。ご案内するのは学生たちのいる別の建物が中心となると思いますが、クリス様に一任しております。エレナ様のご要望を聞きながら行き先を決めたいとおっしゃっておいででした」

「わかったわ。ありがとう」


校長室へと案内されたエレナは、校長と歓談しながら授業を終えたクリスが到着するのを待つのだった。



授業を終えたクリスは校長室に到着すると、まずは校長にお礼を述べた。

そしてその様子をじっと見ていたエレナがタイミングを見計らってクリスに声をかける。


「お兄様」

「エレナ、よく来たね。待たせてしまったかな。早速案内しようか」

「はい」


エレナはクリスの元に駆け寄ると、腕にしがみついた。


「ご兄妹仲がよろしくて何よりでございます。貴族しか通っていない学校でございますから、護衛の方もついておりますし、大きなトラブルになることはないと考えておりますが、何かありましたら近くの教職員に声をかけてくだされば対応いたします」

「ありがとう。私も生活していて大きなトラブルは起きていないから大丈夫だと思っているよ。そうでなければエレナをここに呼ぼうとは考えないからね」


部屋から外に踏み出そうとしたクリスは、振り返って校長からの声掛けに応じてからエレナの方を見た。

エレナは腕にしがみついたままじっとクリスの方を見上げていたが、クリスが微笑みかけるとエレナはだまってうなずいて、一度クリスの腕を離した。


「いってまいります」

「いってらっしゃいませ」


エレナが礼をすると、校長も礼を返す。

そしてエレナは挨拶を済ませると再び兄の腕にしがみつく。

二人の様子を微笑ましげに眺めながら、校長は部屋から二人を送り出すのだった。




「学校というところは広いのね。勉強をするところだと聞いていたから、図書館のようなところなのかと思っていたのだけれど……」


校長室から学生たちのいる建物への渡り廊下を歩きながらエレナが言った。

クリスの腕にしがみついたまま、エレナはキョロキョロとあたりを見回している。

たくさんの建物や教室をつなぐ長い廊下、時折教室の中から聞こえる元気な声が珍しいのだ。


「皆様貴族なのですよね?お元気なのですね……」


貴族といえども子供が集まれば騒がしくなるものだ。

たくさんの大人に囲まれて育ったエレナは、人の多いところに行くことがあっても、このように騒がしいところに出くわす機会がない。


「そうだね。皆私達と年齢も近いし、話が盛り上がると声も大きくなるんだよ」

「そうなのですね」


急に歩く速度が落ちたことに気が付いたクリスは足を止めるとエレナの方を見た。


「エレナ?」

「もし学校に通うことができたのなら、私もあのように楽しくお話できたのかしら?お兄様もあの中に入って歓談されているの?」

「うん……そうだね。たまにだよ。私はそんなに騒がしくしないかな」


学校でのクリスは、ほとんどの時間をケインと過ごしている。

他の生徒と話すこともないわけではないが、大勢で集まって、たくさんの人と同時に話すような機会は今のところない。

それは二人と話をしたくても、生徒同士が牽制し合っているからである。

そんな事とは知らないエレナはクリスが騒がしくしている姿を想像しようとして首を横に振った。


「やっぱりお兄様があのように大きな声を出しているところはあまり想像できないわ……」

「うん。想像しなくていいよ。じゃあ行こうか。立ち話していたら時間がなくなってしまうよ」

「そうね」


こうして二人は学生の多い建物へと向かって歩き出すのだった。

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