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庇護欲をそそる王子様と庇護欲をそそらないお姫様  作者: まくのゆうき


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騎士団長からの呼び出し

話を済ませた騎士団長がクリスの執務室から出て訓練場に戻るために歩いていると、偶然にも先ほどの当事者が一人で目の前に現れた。

偶然にしては出来過ぎているように思えるが、このタイミングを逃す手はないと騎士団長は彼に声をかけた。

そして、数日内に呼び出しがかかるのでそのつもりでいるようにと告げて立ち去った。

あとは騎士団長が予定を調整し、彼を正式に呼び出すだけである。



一方の彼は騎士団長の背を見送り、どう歩いたかもわからないような精神状態で部屋に戻っていた。


「どうした?顔色が悪いな」


異変を察したケインはすぐにルームメイトの近くに寄っていった。

ケインから見た彼は今にも倒れるのではないかというくらい真っ青だ。


「いや、戻る時にさ、騎士団長に声をかけられて……」

「それで?」

「数日内に呼び出しがあるって言われたんだよ……。俺、なんか悪いことしたのか?」


ケインは話をしながらとりあえずルームメイトの体を支えながら移動してベッドに座らせた。

それからその隣に自分も腰を下ろす。


「悪いこととは限らないだろう」

「いや、そうだけど、その場で言えない話って褒められる気がしない」


座ってもうつむいたままぽつりぽつりと話したルームメイトにケインは苦笑いを浮かべながら言った。


「騎士学校の時に呼び出された俺みたいになってるな。俺は呼び出されたのをクラスの全員に見られてたから質問攻めにあったけど、一人の時に言われたんなら、呼び出しに従えばいいんじゃないか?」

「従えばって、そもそも俺に拒否権ないよな?」


思い当たらないことほど怖いものはないとルームメイトは首を横に振っている。

何かやってしまったのなら考えることもできるが、何を言われるか分からないのだから対策のしようがない。

それが不安で仕方ないのだという。


「仕事の話だろう。悪いことをしたならむしろその場で引っ張っていかれるんじゃないか?後日って言うんだったら特別任務かもしれないぞ?」

「もしそうだとしても……いや、そんなの要らないな。俺は揉め事に巻き込まれることなく、それなりに仕事をして、平凡に平和に生きられたらそれでいいし」

「もしかして、配属面談でそのまま言ったんじゃないよな」

「言ったけど……善処してくれそうな感じだったぞ?」


ケインはルームメイトの反応に思わずため息をついた。


「騎士団長は頭ごなしに否定しないだろう」

「そりゃそうかもしれないけどさ……。騎士学校の時のお前の衝撃が今更ながらよくわかった気がする。こんなに恐ろしいものだとは思わなかったな」

「とにかく、悪いことはしてないんだから堂々としてればいいんじゃないか?」


そもそも新人が皆一緒に受けている訓練に、先輩が付いての業務、寮に帰って寝るだけという生活だ。

休日もほとんど彼は寮にいるし、彼の行動に不審な点がないのはケインもよく分かっている。


「まあ、そうだよな。後ろめたいことはないしな」

「そうだよ。何かあらぬ疑いがかけられるようなことがあったら、お前は何もしてないって俺が証人になるよ」

「ああ。悪いな」

「悪くないさ。お前が悪いことしてないってのは見て知ってるからな。大丈夫か?」

「ちょっと落ち着いたよ。ありがとな」


ケインはそう言ったルームメイトの表情が少し和らいだのを見て、ケインは自分のベッドに戻ることにしたのだった。



後日予告通りに呼び出しを受けた彼は騎士団長の元に一人で赴いた。


「失礼します」

「ああ、来たか。入りなさい」

「はっ!」


恐る恐る中には行った彼を見て騎士団長は苦笑いを浮かべた。


「何か緊張しているようだが、そんなに難しい話ではない。とりあえず座りなさい」

「はっ!失礼いたします」


指定された場所に彼が座ると騎士団長はお茶を用意して彼に出した。

そしてすでに人払いを済ませてある室内を注意深く見回して、誰もいないことを確認すると彼の正面に座った。


「すまないが早速用件に入らせてもらう。以前配属面談の際に色々と確認をしたと思うのだが、少し状況が変わってな。その話をさせてもらいたい」

「わかりました」

「まず、先日の騎士学校の研修、ご苦労だった。実は騎士学校から指名で教官としてスカウトの話が騎士団に届いている」

「へ?……あ、失礼しました」


思わず驚きの声を上げて騎士団長の言葉をさえぎってしまった彼は慌てて謝罪した。

騎士団長は気にしていないかのように話を続ける。


「それからその際に同行した上官から、騎士の指導員に欲しいという話が出た」

「えっと……それはどういう……」

「つまり、このまま順当に騎士として役目を果たす以外に、教官として、騎士を育てる指導者として是非という声が多く上がっているということだ」


自分は特に功績を残したわけではない。

それにこの間まで学生で騎士になったばかりの自分に教えられることなどほとんどない。

大勢の生徒の人生を左右するかもしれない教官のような責任の重い仕事も、大勢の前に立って何かを話すのも苦手だ。

なぜそうなっているか分からないと彼は首を横に振った。


「いや、私にはそんな大それたことはできないですよ!そもそも功績も残してないやつが前に出てきたら、なんだこいつって感じじゃないですか。それ以前に大勢の人の前に立って、彼らを相手に指導するなんて……」

「そうか。では騎士としてこのまま役目を果たしてくれるということでいいか?」


騎士団長が彼の逃げ場を奪うように畳みかけた。


「えっと、そうですね……。とりあえずは……」


聞かされたばかりの内容に対して、今すぐ選択するよう迫られるのかと困惑していると、騎士団長は笑みを浮かべた。


「ちなみに彼らは騎士としての経験を積んでから来てくれるのは歓迎だと言っている。むしろ経験があった方がいいだろうとのことだ。今回の質問はあくまですぐに転職したいかどうかという確認をしたかっただけだ。それによって今年の配置を考え直さなければならないからな。それから……」

「何でしょうか?」


とりあえずすぐにこの打診を受けてそちらに転職を希望するかを聞きたいだけだったという話を受けて安心していたのに何か続くらしい。

彼は少し警戒を強めたが、騎士団長は笑顔のままだった。


「騎士学校からは新人ではなくなっているが、来年もぜひ研修の同行者として学校に来てほしいとやはり指名が来ている。まだ先の話だから研修そのものが実現するかどうかも決まっていないが、もし可能であれば来年も研修に同行してもらいたい。この話も残ると決まらなければ進められない話だったのでな」


もし残らないと言われたら、研修に参加してほしいという要望は、あくまで本人が騎士団に在籍していることが前提だ。

もしその時期に転職されていたら騎士団の一存で決められなくなるので、並行して話を勧めるためには確認が必要だったのだという。


「そういうことでしたか。わかりました。研修で新人と一緒に訓練している姿を見せるくらいならばできると思います。でも一人で前に立って大勢を相手にする勇気はないです」

「そうか。それを聞いて少し安心した」

「そうなのですか?」

「この選択肢を与えて、騎士団を退団し騎士学校に転職したいと言われたら止められないからな。私としては残ってもらいたいと思っているが、希望を聞く前に残るよう言われたら、行きたくても断れなくなるだろう?」


騎士団長に情報を小出しにしてきた理由を説明されてようやく納得が言った。

心臓には悪いが自分の答えた内容によっては与える必要のない情報もあったということだ。

例えば来年も研修をしてほしいと学校側から言われているとか、本来ならばまだ非公開に違いない。


「確かにそうですね……。引きとめてもらえるのは嬉しく思いますが……」

「では今まで通り職務を全うしてくれ。もし、気持ちが変わるようなことがあったら言ってくれて構わない。話は以上だが、何か質問はあるか?」

「いいえ。ありません」

「休養時間に急な呼び出しをして悪かった。ゆっくり休んでくれ」

「では失礼いたします」


ルームメイトは立ち上がると礼をして騎士団長の前からいそいそと立ち去った。

それを見送った騎士団長は特にそれをとがめることはしない。

どちらかと言えば彼の答えに安堵していたため気にならなかったというのが正しい。

試験の結果にもよるが、彼の配属はこの時点で確定してしまっていた。

しかし本人はそんなことを知る由もないのだった。

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