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庇護欲をそそる王子様と庇護欲をそそらないお姫様  作者: まくのゆうき


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スカウトと駆け引き

上官が部屋から出ていったのを見送った騎士団長は、少し時間を空けてから重い腰を上げた。

他の人から耳に入る前に報告しておいた方がいいと判断してのことだ。

騎士団長はすぐクリスの執務室を訪ね、今回の件を報告することにした。


「あの、例の彼ですが……」

「うん?どうしたの?」


いつも通り小首を傾げているクリスに、騎士団長は言いにくそうに切り出した。


「ケイン様と同じように研修に出しましたら、スカウトがかかりまして……」


騎士団長はそう切り出すと、騎士学校や上官から指導者として適性が高いと判断されスカウトを受けている旨をクリスに説明した。


「それで?」

「一番は本人の希望ですから選択は彼に委ねたいと考えますが、よろしいでしょうか?」

「そっか。そうだよね」


クリスは考え込むようにそう言った。

てっきり何とかしてほしいな、とお願いされると思っていた騎士団長は、クリスの予想外の反応に思わず聞き返した。


「それでよろしいのですか?」

「何が?」

「お伝えしても……」

「それはもちろん構わないよ。彼の将来に関わることだから、選ぶ権利は彼にあるし、伝えないで恨まれるようなことになっても困るしね。でもそうなると私も全力で彼をスカウトにかからなきゃだめかな」


クリスの頭の中は、彼にスカウトがかかっている事実を伝えた先のことに向いていた。

騎士団長が伝えない方がクリスの思惑通りになるのだから、伝えない選択肢を出したところで驚かれたのは意外だった。


「クリス様は彼をケイン様やご自身の周りに配置するつもりだと思っておりました」


騎士団長が正直に話すと、クリスは目をパチパチさせて、再び小首を傾げた。


「彼はケインと一緒にエレナにつけたいと思っているよ。でも絶対ではないかな。別に僕の近衛騎士にしてもいいけど、それだと二人と少し距離ができてしまうからね。いい人材だから僕の近衛騎士を希望するなら前向きに考えるけど、僕が見てもそんな欲があるようには見えなかったんだよね」

「確かに強い出世欲はないように見えますね」


以前の面談の話だけではなく、お茶会の様子からクリスも同じように判断をしていた。

緊張していたからあまり会話は成立していなかったのだが、本当に欲のある人間ならば、お茶会の席で何らかのアプローチがあってもおかしくないのだが、彼は王族を前に緊張した一貴族になっていた。

エレナがお菓子を運んできた時、お菓子を食べた時の反応を見た感じでは、貴族にしては少し素直に感情が表情に出やすいような気もするが、その素直さもむしろ好感のもてるものだった。

彼ならば普通の貴族令嬢ではないような行動を突発的に起こすエレナのことも、温かく受け入れてくれるだろうというのがクリスの見立てである。



しかしまだ、この会話に本人は不在のままである。


「それはわかりかねますが、一度、本人に確認いたしましょう。先日の面談での希望ではどこに転ぶか心配ですから……」


彼の希望は別の意味で心配に繋がるものだ。

出世しなくても最低限の生活ができて平和に過ごせればいい、そのようなものに巻き込まれるなら出世などしたくないという人間を、倍率の高い王族の護衛につけようとしているのだ。

当然だがそこには出世競争があり、今まで残っている人たちは皆それを潜り抜けた者たちである。

彼にはそこを突破してもらわなければならないのだが、本人にその気がなければこちらがどんなに希望してもそれは叶わない。

頭の切れる彼のことだから、本当にやりたくないと判断すれば自分の評価を故意に落とすこともしかねない。


「そうだね。それにしても、随分と学生に慕われているんだね。驚いたよ」

「はい。私も彼にそんな才があるとは思いませんでした」

「そうだね。彼の才能は騎士として求められる資質じゃないからね」

「その通りです」


騎士団の試験は、騎士として求められる資質を見極めるものだ。

その中からできる者が今までは教鞭をとっていた。

彼の技術は騎士団の中で普通レベルだが、知識と指導力が飛び向けて高いのだ。

騎士学校や騎士団はどうしても技術力、強さが基準で判断されやすいため、技術力より知力がマイナスの人間が集まりやすい。

だから一定の技術を持ちながら、知識と指導力が高い人間などは滅多に来ない。

つまり騎士団や騎士学校からは喉から手が出るくらい欲しい人材なのだ。

クリスから見れば、本当ならば文官でもよかったのではないかと思うのだが、なぜか彼は騎士団の試験を突破して今に至る。

そういう意味ではケインも学力が高いのだからどちらでもよかったのだが、文官、として王宮に入ると、クリスの側にはいられても、エレナの側にはいられない。

それもあって彼は騎士学校を選択しているのだ。

明確な理由と目標のあるケインと、実家に戻れないから堅実に仕事ができるという理由で騎士団を選んだ彼を一緒に昇格させるのは難しいかもしれない。

やる気が能力の差に出てしまうことが多いからだ。



ただ、彼には他にやってもらいたいことがある。

エレナを守る能力なら騎士団に入団できた時点で訓練を怠っていなければ満たしているはずなのだ。

クリスがエレナの護衛騎士にと任命したいのは事情を知っている味方をケインの側に置きたいからである。

今のところ事情を知っている者は二人の味方になっているが、いつ横やりが入るか分からないのが現状だ。

そしてその時、風当たりが強くなるのはエレナではなくケインなのだ。

クリスはその時、味方でいてくれそうな彼が必要になると思っている。


「でも早い段階で彼が目の届かないところに行くのは不安かな。せめて二人の件がまとまってからならいいけれど」

「そうですね、仮に彼が将来教官の道に進むとしても、近衛騎士としてのキャリアはあった方がいいのは間違いありません。学校側も彼が騎士を引退する時でもいいので、と、言っておりました」

「じゃあ、あとは彼が早々に引退しないよう、アプローチしないとだめだね」

「お任せいたします」


クリスに頼まれて断れる騎士は多分いない。

これで彼の行く道は一つに絞られた。

これから通知を出す身としては気が重いが、自分とてクリスの意向を無視することはできない。

騎士団長はとりあえず彼の意向を確認すべく面談の設定をしなければならないと頭を抱えるのだった。

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