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庇護欲をそそる王子様と庇護欲をそそらないお姫様  作者: まくのゆうき


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思いの確認

エレナの意識が回復したことを確認したクリスは、エレナの部屋を出たその足でケインの客室向かった。

すでに客室でケインと朝食を取りながら話がしたいと連絡をしてあったため、二人の食事は客室に運ばれることになっている。


「おはよう」

「おはようございます、クリス様」


クリスがケインを尋ねるとすでにケインは出かける準備を整えていた。


「ケイン、準備が早いんだね」

「そろそろクリス様がいらっしゃるような気がしましたので急いで着替えたのです」

「そうなんだね」


ベッドサイドで話をしていると、その傍らで朝食の準備が整えられる。

準備ができたのを確認すると、クリスは人払いをしてケインとともに席についた。


「こうして朝食をいただくのは、幼い頃、別荘で遊んでいたとき以来ですね」

「確かにそうだね。本当ならエレナと三人にしたかったんだけど……」


そう言いながら皿の方に目を落とした。


「クリス様とは学校で昼食をご一緒することが多いので、あまり久しぶりでもありませんでしたね」

「そうだけどね。やっぱり部屋で食べるのは少し違う気がするな」

「確かに」


学校で常に注目を浴びている二人は、昼食の時も気を張り詰めていることが多い。

しかし人払いをした客室にそのような視線を送ってくる者はいない。


「ケイン、エレナがさっき目を覚ましたよ」

「本当ですか?それはよかった……」


ケインが安堵しているとクリスが申し訳なさそうに続けた。


「でも数日は安静にしているように言われているから、会えるのはもう少し先になってしまうんだ。ケインが助けてくれたのに申し訳ないんだけど……」


「そうですか……。仕方ありません。本来であれば、私がエレナ様の居室に行くことすらあってはならないのでしょうから」


緊急事態とはいえ、ケインがエレナの部屋に足を踏み入れたということ自体が異例である。

そもそも王女のプライベート空間に異性の貴族が入るなど許されることではないのだ。

それにエレナを運びたいと言ったのはケイン自身だ。

お咎めがないだけでも感謝しなければならない。


「ごめんね。エレナも早く会いたいと思っているからだろうし、できるだけ早く引き合わせてあげられるように頑張るよ」

「ご配慮ありがとうございます」

「じゃあ、ご飯を食べたら行こうか。いつも通りでお願いね」

「はい」


こうして二人は一緒に朝食を済ませるといつもの時間に学校へ向かうのだった。



意識を取り戻したエレナは数日間ベッドの上で過ごすと、徐々に回復していった。

寝間着のまま部屋で少しているエレナは、すぐにケインに会うことができなかったが、着替えて動けるようになったところで、ついに再会することを許された。

いつも通りクリスがケインとともに帰宅するのをエレナは面会室でおとなしく待っている。

本当であればケインが到着してから来ればいいのだが、いてもたってもいられなかったのだ。



エレナは面会室の扉が開くと勢いよく立ちあがった。

そして立っている相手を確認して声をかける。


「ケイン」

「エレナ様。もう大丈夫なのですか?」


立って迎えたエレナの元にケインが近づいた。


「ええ。おかげさまで」

「よかった……。クリス様から意識が戻ったという話は聞いていたのですが、やっぱり心配でした」

「ごめんなさい。ご迷惑をかけてしまいました」

「いいえ。何かあったらいつでも頼ってください」

「ありがとう。そうするわ」


その様子を微笑ましげに見ていたクリスはタイミングを見計らって声をかける。


「二人とも、座って話したら?ケインもゆっくりしていくといいよ」

「はい」


とりあえず着席した二人に、手際良くお茶が用意される。


「お兄様は?」


立ったままのクリスにエレナが声をかける。


「私は所用で少し席を外すよ。後でご一緒してもいいかな?」

「はい」


エレナが返事をするとクリスはそのまま面会室に背を向けて自分の部屋に向かった。


「あの、所要というのは……?」


護衛が恐る恐る聞くと、クリスはあっさりと答えた。


「ん?特にないよ?ちょっと部屋で休憩をしたかったんだ。君には悪いけど、二人には所用があったことにしておいて。そうでも言わないと病み上がりのエレナに気を使って顔を見て安心したって、ケインが帰ってしまうと思ったんだ。少しでもエレナと話をさせてあげたいからさ」

「かしこまりました」


そうして少し部屋で時間をつぶして、クリスは再び面会室に向かうことにしたのだった。



「エレナ様、お元気そうでよかったです」


ケインは改めてそう声をかけた。


「ええ、ありがとう。……あのね、ケイン」

「はい」

「私、学校へ行くのは諦めることにしたの。私にはそもそも選択権はないのよ」


エレナがどこまで覚えているかは分からないが、確かに倉庫の中でも彼女は似たようなことを言っていた。

そして意識を取り戻したエレナは、この生活を受け入れることにしたということだ。


「本当は一緒に学校生活ということをしてみたかったけれど、それは許されないことだったわ。これからは国民のためにつつましく生きていくことになると思うの」


まだ十歳にも満たないエレナが大人でも背負わないような責任を負っていることに、ケインは少し憤りを覚えていた。

しかし、クリスも同じ立場だと知っていると、どう声をかけていいのか分からない。

ケインが言葉を探しながら心配そうにエレナを見つめていると、エレナは困ったような笑顔を向けた。


「ケイン、仕方がないのよ。生まれを変えることはできないのだから。私はこの環境の中で生きていくことしかできないの。今はね、頭の中がすっきりしていて、もやもやとしていた嫌な感情はないのよ。きっと倉庫の中で私は一度死んで、生まれ変わったのだわ」

「エレナ様?」

「それでも、やっぱりケインと一緒にいられたらいいなって思ってしまっているの。これからもそう思ってていいかしら?」


エレナの懸命な告白にケインも誠意を持って答えた。


「私の気持ちは変わりません。そのように思っていただけて光栄です」

「よかった……。迷惑になるんじゃないかって思ってたから。私が希望を持つことでまたケインにも周囲にも迷惑がかかるんじゃないかって心配だったの」

「そんな……」


ケインが困惑していると、面会室の扉が開いてクリスが戻ってきた。


「ごめん。邪魔だったかな?」

「いいえ。お待ちしておりました」


ドアが開くのと同時に立ちあがったケインは立ったまま頭を下げた。


「ケイン、座って。ああ、私もお茶をもらっていい?」

「ただいまご用意いたします」


クリスの登場に慌てて使用人たちがお茶の準備を始めた。


「クリス様、用事はお済みになったのですか?」

「うん。たいしたことではなかったからね。終わったよ」


クリスはエレナの隣に座るとエレナの顔をのぞきこんだ。


「エレナ、どうしたの?」


エレナが驚いて体を引いて顔を上げると、クリスはクスクスと笑いながら言った。


「それだけの反応ができればもう大丈夫だね。ちゃんと謝れた?」

「はい。あと、学校に行くのを諦めたと伝えました」

「そう……」


クリスはじっとケインの方を見た。


「クリス様、私はこの先、できるだけエレナ様の側で、できる限りエレナ様の願いを叶えていけるようになりたいと思います」


先に口を開いたのはケインだった。

今回エレナが諦めるという選択をしたことがケインの決意を新たにさせていた。

倉庫からエレナを助ける時もここから出たくないと言っていた彼女の意思を無視して連れだしたのだ。

その責任は取りたいと思っていた。

だから何とか学校にと案を考えていたのだが、再会したエレナは学校に行くことを諦めたというし、自分に迷惑をかけたくないと言った。

もう、自分が学校について動くことはできない。

ならばせめて、他の願いくらいは叶えたいと思ったのだ。

それを本人にだけ言うのではなく、第三者に宣言することで自分への退路を断ちたかった。


「わかった。これからもエレナのことをよろしくね」


クリスはそうにこやかに言うと、暗に出されたケインの宣言を受け入れるのだった。

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