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庇護欲をそそる王子様と庇護欲をそそらないお姫様  作者: まくのゆうき


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ルームメイトの能力

彼の能力は学生同士、学生と騎士たちの交流促進だけではなく、座学の説明でも発揮された。

基本的に座学の時間、騎士たちは見ているだけということになっている。

余計なことを話して授業から脱線しては困るからだ。

これは騎士たちにとっては復習の場に近いものになる。

けれどもそれでは騎士たちがそこにいる意味がないため、教官が少し早く授業を切り上げて質問の時間などを設けている。

そして学生が騎士たちの話を聞けるよう調整をしていた。

学生たちは、試験がどうだったのかとか、緊張しないようにするにはどうすればいいのかとか、入団試験をどのくらい受けたのかとか、騎士団の仕事の内容とか、どんどん質問をしてくるので、騎士たちが質問に答えるようにしていたのだ。

学生たちも現役を引退している教官からの話より、現役で自分たちとあまり変わらない年の騎士の視点で話が聞けるのが嬉しいのだろう。

この時間は座学の授業の中でも非常に盛り上がっていた。



基本的に騎士たちは授業の間については、黙って座って聞いているだけのはずだったのだが、その日は違った。

二年生のあるクラスの座学に参加した時、教室内で答えられる者のいない問題が出た。

騎士たちは顔を見合わせて答えがわかるかと確認しあっていたが、設問がわかりにくいのか、難しい問題だからか、答えに行き着かないのかわからない。

実は学生だけではなく騎士の中にも何を聞かれているのか分からないという顔をしている者がいたのだ。

だがそれを学生に見せるわけにはいかない。

だからいつも通りそ知らぬ顔をして学生を見守っていたのだが、教官はその新人騎士たちのやり取りも見ていたのだろう。

話を新人騎士たちのほうに投げかけたのだ。


「王宮騎士団の騎士様で回答について説明できる方はいますか?」


新人たちはどうするか顔を見合わせてから上官の方を見た。

一報の学生たちは期待の目で新人騎士たちを見ている。

答えないわけにはいかない。

その時、上官はルームメイトを説明担当として指名したのだ。

指名された彼は人前で話すのは得意ではないと、しぶしぶといった感じで立ち上がると、回答と解説を始めた。



ケインが前に彼に指摘したことと同じことを学生も感じたのだろう。

彼の説明は非常に分かりやすいのだ。

ルームメイトの解説が終わると、生徒が拍手をしていた。

やはりケインがノートを見た通り彼の中の情報は分かりやすく整理されているらしい。

そして説明の内容が丁寧だった。

彼の説明を聞いていると、内容は違うものなのに、あの時のノートのまとめが思い浮かぶくらいだ。

ケインもこの問題の答えは分かっていた。

けれど、彼のように相手に分かるように解説できるかと言われたらおそらくできない。

答案用紙に説明を記入ことはできても、その内容は正解を知っている人にしか伝わらないような書き方になってしまっていたに違いない。

相手に分かるように説明するというのは、かなり難しいことなのだ。

この説明には教官よりも上官の方が目を見張っていた。

おそらく授業で担当したことのある教官だったので、彼の能力をそれなりに知っていたのだろう。

だから驚かなかったのかもしれないが上官は違う。

騎士団に入ってからは命令系統が上から下に落ちてくるだけなので、上官が彼の説明や解説を聞く機会はなかったのだ。

こうして彼の才能は思わぬ形で上官の目に留まることになったのだった。



この件が他のクラスに知れると、派遣された騎士の中心にいる彼の周囲にはますます人が集まるようになった。

休憩中に移動をしていても声を掛けられ、昼休みに囲むように集まる学生の人数はますます増える。

もはや取り巻きか、ファンクラブでもできてしまいそうな人気ぶりだ。

その光景に一番困惑しているのは囲まれているルームメイトだった。


「このままだと放課後に勉強会の依頼でもきそうだな」


研修が終わって部屋に戻ったケインが彼に話しかけると、ルームメイトはベッドに飛び込んで首を横振った。


「いや、さすがに昼もあんまり休憩できてないのに、睡眠時間削るのは嫌だな……。最近は昼休みの質問の中に授業で分かんなかった内容のことを教えて欲しいってのが増えてるのは気になってるけどさ」


どうやら質問の内容が授業のことに寄ってきていることは彼も気が付いていたらしい。

だから騎士の生活なんかについて知りたいとか、騎士と話してみたいだけという人については他の騎士に繋いで、学校の授業についての質問がきたらその場で彼が答えるというように振り分けをしているのだという。

確かに他校の卒業生が受けたことのない教官の授業の解説をするのは困難だろう。

あとはやはり、某クラスでの話が広まっているので、求められているのは答えではなく分かりやすい説明に違いない。

そうなると適任なのは彼本人しかいない。


「学生たちからすれば教官より聞きやすいんだろうな。あと分かりやすい」

「いや、教官のいないところで勉強のことを答えるのは正直怖いんだよな。間違っていても責任持てないからさ。教官がいるところでなら教官から訂正が入るからいくらでも好きに言えるんだけど……。まあ辛うじてここは卒業校だし、まだ一年経ってないから内容もそこまで変わらないと思うけど、時代によって学問だって変わっていくものだし」

「人気者の宿命だな。諦めた方がいい」


ケインがそう言うとうつ伏せでもごもご言っていたルームメイトが急に顔を上げた。


「ケイン、お前だって学生の質問の答え、全部分かってるんだろう?たまには答えてやってくれよ」

「彼らは俺に質問してきてるわけじゃないし、俺の説明よりお前の説明の方が分かりやすい。答えだけならいいけど、相手に理解させるとか理由の説明を求められたらうまく答えられないから無理だな」

「やっぱ答え分かってんじゃん。答えられるってことは理解できてるってことだろう?」


彼はいじけたようにケインに助けを求めた。

けれどもケインは本当に無理だと首を横に振る。


「自分が理解できているのと相手を理解させるのは別の能力だと思う。俺に相手を理解させる能力はない。俺がやったら教官と似たような分かりにくい説明になるから、結局学生たちはお前にもう一度同じ質問をしに行くと思う」

「そうかな。教官の説明が理解できないこともあんまないし、教官に聞いた方がいいと思うんだけどなぁ」

「でも放ってはおけないんだろ?」

「自分を頼ってくれてると思うとな」


やはり彼は自分を頼ってくれる人を構わずにはいられないらしい。

悪意のない者には非常にやさしいのだ。


「前からお思ってたけど、お人よしだよな」

「そうかもしれないな」

「こうなったら研修が終わるまでだから頑張れよ」

「あ、そっか。そうだな。期限があるんだから、このままでいた方が、角が立たなくていいかもな」


そもそも学校でこうして訓練をするのは研修期間だけだ。

つい通い慣れた学舎にいるため忘れがちになるが自分はすでに卒業している。

だからこれが終わったら騎士団に戻って彼らの訓練に合流して、業務や研修に戻る。

そして配属の割り当てが決まったら、新人が来る前に配属先の業務を重点的に覚えていかなければならないのだ。

どこか学生気分に戻りつつあった彼は、ケインの話で現実に引き戻されたのだった。

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