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庇護欲をそそる王子様と庇護欲をそそらないお姫様  作者: まくのゆうき


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ケインの決断

扉を開けたケインに周囲を取り囲んでいる騎士たちの視線が集まった。

倉庫の中に入ったのは夕方だったが、すでに周囲は暗くなっていた。

外には月明かりと周囲を囲む騎士の持つランプの明かりしかない。

音で扉が開いたことに気が付いたクリスは、彼らが動かないようけん制すると、周囲を警戒しながら一人でケインの元に歩み寄ってきた。

クリスが扉の前に到着すると、二人は周囲の人間が近づいてきたらすぐにわかるよう、扉を背に小声で話し始めた。


「どう?」

「話はした。それよりエレナの様子がおかしいんだ。意識を失くしてしまってる。不本意だけど、医師に見せないと危険かもしれない」


自分では判断ができないとケインはクリスに伝えた。


「ずっと飲まず食わずだったんだ、ケインがここを開けてくれなかったら、連れだすこともできなかったと思うから気に病むことはないよ。ここを開けたということは、ケインはエレナを医者に見せたいと思ったってことだね」

「……できれば、エレナには元気になってもらいたい」


クリスはケインの意思を確認すると、安心したように微笑んだ。


「中に入ってもいいかな」

「ああ、もちろんだ」


ケインはエレナを運び出すことを考えて、扉を大きく開けた。

ケインが中に入ろうと促そうとした時、クリスが扉を背に周囲を見渡してから声を張った。


「君たち、次はないからね」


クリスはそれだけ言うと、彼らに背を向けて中に入った。



「左です」


中に足を踏み入れてすぐ、ケインは方向を指示した。


「エレナ!」


遠くのランプと扉から入る灯りに照らされぐったりとしているエレナの元にクリスは駆け寄った。


「クリス……エレナは俺に運ばせてくれないか」


後については言ったケインがクリスに頼んだ。

自分が言ったことは守れなかったが、せめて自分で彼女の命を救いたい。

医者には見せたいが、扉を開けて大人を呼ぶだけということはしたくない。

大人に引き渡すのではなく、自分の力で彼女をここから連れ出せたのなら、それで彼女が助かるのなら疎まれたとしても構わない。

この先エレナに拒絶されても、自分が助けたという事実を胸に生きていけるとケインは思った。


「うん。わかった。僕が運ぶのは大変だからね。ケインになら安心して任せられるよ」


クリスは率先してカゴの中にグラスとポットを戻し、近くにあったランプを手にとった。

ケインはエレナを横抱きにしようと試みたが、とても軽々と持ち上げられるような重さではない。


「どうしたの?」


クリスが心配そうにケインに声をかけた。


「かっこよく運びたかったんだけどな、前に抱えるのは無理だ。背負ってもいいかな?」

「僕では運ぶことすらできないよ。意識のない人間は重たいって言うしね。背負ってあげて」


ケインはクリスの了解に苦笑いを浮かべながらエレナを背負って立ちあがった。



クリスが先に扉から出ると、騎士の数名が駆け寄ってこようとした。

クリスがそれを再びけん制する。


「私たちには近づかないでくれる?それより道を開けてほしいんだ。エレナを部屋に運ぶから邪魔しないでね。あと、部屋に医師を呼んでおいてほしいな」

「か、かしこまりました」


騎士たちが離れると、クリスはケインに出てくるように指示する。

ケインがエレナを背負って出てくると一部で歓声が上がったが、二人にそんなことに気を止めている余裕はない。

そして前を歩くクリスの後ろを、エレナを背負ったケインがついて歩く。

最初に駆け寄ろうとした騎士が指示をしたのか、一定の距離を保ちながらも、エレナの部屋のある建物に向かって騎士が一定間隔で並んで暗い道をランプで照らしていて、気がつけば光の道ができていた。

二人はその光の道を通る形でエレナを部屋に運び込むのだった。



エレナの部屋に着くと、すでに情報が伝わっていた侍女たちが待ち構えていた。

ケインがエレナをベッドに下ろすと、お湯やタオル、着替えを持って駆け寄ってくる。


「申し訳ありませんがお着替えをいたしますので、殿方はご遠慮くださいませんでしょうか」


侍女の一人が恐る恐る言うと、クリスは笑みを浮かべて言った。


「そうだね。ここは君たちに任せて、私たちは別の部屋で待っていることにするよ。終わったら呼びに来てくれるかな」

「は、はい。かしこまりました」


二人に声をかけた侍女はクリスに声をかけられたのが嬉しかったのか元気な返事をすると仕事に戻った。


「ケイン、行こう。よかったら休んでいって」

「はい。そうさせていただきます」


二人はそんな話をしながらエレナの部屋を出た。

クリスが部屋を出ると、今度はクリスの使用人が彼に声をかけた。


「クリス様、どちらに参られますか?」

「そうだね、空いている客室はあるかな。彼にはゆっくり休んでもらいたいんだ。エレナの恩人だから丁重にもてなしてね。しばらくは彼と話があるから私も客室にいることになるから、何かあったら客室まで来るように言っておいて」

「かしこまりました。では掃除の終わっている客室までご案内いたします」


そうして使用人に二人は来客時の宿泊用に使う一室に案内された。




エレナの診察を終えた医師が、その時の状況の確認をしたいとケインの元を訪れた。

倉庫に入る前にエレナに声をかけた時の状況、中に入ってからの状況を説明してほしいというのだ。

会話の内容は言いたくないと思いながら医師と話し始めたが、医師が確認したのは、言葉の話し方や、口にした食べ物や飲み物のこと、熱はなかったのかなどエレナの状態だけであった。


「なるほど。絶食した状態から急に甘いものを取ったので体がついていかなくなったのでしょう」

「それは私が果実水を飲ませたからですか?」


自分のせいなのかとケインが動揺していると、医師は首を横に振った。


「甘みの強い果実水ならば考えられますね。しかし、しばらく飲まず食わずでいらしたのですから、何も口に入れないよりはよかったのです。大丈夫です。このまま安静にしていれば目を覚ましますよ」

「よかった……」


目を覚ますと聞いてケインが安堵した。


「起きたらお水をゆっくり飲ませてあげてください。それから食事は刺激の少ない柔らかいものから少しずつです。急にたくさん食べると内臓がびっくりして腹痛を起こしたりしますからね」

「かしこまりました」


医師を部屋まで案内してきた侍女がケインに代わって返事をする。


「今はまだ眠っておりますが、容体は安定しておりますから、私は失礼します。もし何かありましたらお呼びください」


医師はそう言って退室した。

侍女も医師に続いてエレナの看病に戻ると出ていく。

再び二人になったところでクリスがケインに頭を下げた。


「ケイン、ありがとう。何てお礼を言っていいか分からないよ」

「クリス……さま、頭を上げてください。エレナ様が無事で本当によかった。私だってそう思っているのです」


ケインは勢いで呼び捨てしかけた言葉を何とか修正した。

そんなケインにクリスは苦笑いを浮かべながら言った。


「これからも私たちだけの時は気にしなくていいよ。それよりケイン、これからもエレナのことお願いね。あの子にはケインが必要なんだ。できればこれからも側にいてあげてほしい」

「はい」


ケインはクリスからエレナの側にいていいと言われてホッとした。


「じゃあ、私はエレナの様子を見てくるよ。今日は泊っていって。もうご家族には連絡してあるから。エレナが目覚めたらすぐに連絡したいしね」


こうしてケインはクリスからの知らせをただじっと待つことになるのだった。

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