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庇護欲をそそる王子様と庇護欲をそそらないお姫様  作者: まくのゆうき


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想定外の希望

「どうだった面談」


面談から部屋に戻ると、ケインから話を聞こうと待ち構えていたルームメイトに声をかけられた。

ケインはベッドの上に座りながら会話に応じる。


「今後の配属希望を聞かれて、そこを目指すためにどうすればいいか説明されて終わった」

「そうか。じゃあ、入団時の面談に近いものかな」

「そうだな。あんな感じだ」


ブレンダの背景を説明されたことについてはとりあえず伏せておくことにした。

彼が知りたいのはこの先自分がどんなことを聞かれるのかということだろうと判断したためだ。


「ところでお前は希望をどこにするんだ?」


これからルームメイトが聞かれるだろう話を振ってみると、彼はケインが思っていた以上に欲のない答えが返ってきた。


「いやさ、もともとどこかに就職して生活できるようにならなきゃなぁって思ってたし、まさか自分が王宮騎士団のメンバーになるとも思ってなかったんだよなぁ。正直待遇いいし、ここからさらに出世とか、茨の道過ぎてどうしていかわからないんだよ。だから、誰かと争って蹴落としたり蹴落されたりしながら戦う気はないな」


ルームメイトからすれば、出世をするための苦労をするよりは平和な方がいいらしい。

もしこれが他の騎士団や傭兵業など、収入が少なかったり不安定だったりするような就職先だったら出世を目指したのかもしれないが、そんなことをしなくても今の給料で充分普通の暮らしができるから、わざわざ先輩と競ってギスギスするのは嫌なのだという。


「いや、そんな荒事にはならないだろうが……」


騎士団でそのような理由でのもめごとは見たことがないし、それを制御するために試験などがあるということなのだろうが、見えないところで何が行われているかは確かに分からない。

酷い嫌がらせに合って退職する者がいたかもしれないし、一般人より力がある分、怪我をさせられて出世を諦めた者がいるかもしれないのだ。


「だってそういうの、女性たちですらあるらしいじゃん。男のそれって、巻き込まれたら怪我するの間違いなしって感じがするんだよな。五体満足の方が出世より俺は大事だな」

自分で改めて自分の考えを口にして満足したのか、ルームメイトははっきりとそう言いきった。

「なぁ、もし出世欲がないんだったらさ、いっそ教官目指してみたらどうだ?」

「へ?なんで?」


考えもしていなかったことらしくルームメイトはきょとんとしてケインを見た。


「いや、自分ではわかってないみたいだけど、お前そういう才能あると思う。ノートのまとめ方

とかさ、あれ何度見てもすごい。あれをあのまま生徒に教えたら、理解しやすいから生徒は喜ぶんじゃないかって思ったんだ」


そういえばケインが休んだ時に授業をまとめたノートを渡して、分からないところがあれば聞いてくれと言った記憶がある。

その時からケインは自分のことをすごいとしきりに言うようになったと思い返したが、それは教えている相手がケイン一人であり、気心の知れたものだからだろうと思っている。

大勢の前に立って、生徒たちに堂々と向かい合う教官などという職業ではきっと役に立たないだろう。

そもそも大勢の前に出て何かを説明するなんて、緊張してうまくできそうにない。


「いや、俺、教壇に立つ勇気はないわ。それならまだ、ここで巡回とかしている方があってる」

「もったいないな……」


ルームメイトの返事を聞いたケインは眉間にしわを寄せた。

だが、確かに本人がやりたくないことをこちらの希望として押し付けるのもおかしい話だ。

だからケインは彼に直球で尋ねた。


「そういえば、お前は次の目標とかあるのか?」

「何だよ今度は……」

「いや、聞いたことなかったと思ってさ」


だんだんケインを騎士団長に見立てた面談模擬練習のような空気になってきていたが、それに構うことなく二人は話を続けた。


「うーん……特にないかもしれないな。少なくとも目標よりも上にある騎士団に入れちゃったからなあ。入ってからのことは考えてなかったな」

「そうか……」

「ケイン、お前は近衛騎士目指すんだろ?そのためにここに来たんだもんな。それを騎士団長に言ったのか?」

「伝えた。だから近衛騎士を目指すために必要なことも教えてもらえたんだ」


おそらく騎士団長は個人が希望する配属先に行くための方法を一人一人に教えて道を示しているのだろうとケインは思っている。

そのことをルームメイトに伝えると彼はため息をついた。


「そうか、そうだよなぁ……。じゃあやっぱり聞かれるのか、俺も……」

「聞かれるだろうな。今回の面談は配属を決めるための希望を聞く面談だって聞いている。ただ、配慮はされるが、希望通りの場所に配属されるとは限らないみたいだけどな」

「まぁ、それは仕事だから仕方がないだろうな。あーあ、どうやって切り抜けたらいいんだか」


ケインは能力不足でスムーズに希望が叶わないかもしれないと言われたのでそのつもりで言ったのだが、彼は能力以前にやりたくなくてもそういうことが回ってくるのが仕事というものだと解釈したらしい。

人間関係の苦労も仕事のうちなのだろうが、できるだけそういうことに巻き込まれたくないという考えがケインにも透けて見えた。


「なぁ、もう一つ教えて欲しいんだが……」

「何だ?」

「このまま仕事を続けていくとして、お前はそのままだせいで生きていくつもりなのか?何のために金を貯めたりしてる?それは働けなくなった時のための保険としてか?」


お金を貯めている理由など聞かれるとは思わなかったルームメイトは、首をひねった。

自分でもあまり深く考えていなかったし、確かにいざという時、蓄えとして必要だと考えているのは間違いない。

でもそれが怪我の時のためかと言われると少し違う。

ある意味、来るかどうかわからない将来に備えてのことだ。

それを口にするかどうか少し迷ったが、自分は相手がどういうことを望んでいるのかを知っている。

自分だけ話さないのはフェアじゃないだろう。

少し考えてからルームメイトは思い切って自分の考えを打ち明けた。


「そうだなあ。それを言うなら将来は家庭を持ちたいとかかな。でも、家を継げない貴族だから別に相手に爵位を求めるつもりはないんだ。別に市井のお嬢さんでもいい。けど、もしそういう人と縁があった時、仕事してないとか養えないような甲斐性なしにはなりたくないと思っている。……そういう縁があればだけどさ、縁があった時に迷わずにいきたいよな」


ルームメイトは口に出しながら頭の中を整理した。

そして、自分は家庭を持って相手を養うために末長く騎士団で働きたいと言えばいいのではないかと思うようになった。

ケインは愛すべき人の側にたどり着くために険しい道を行くらしいが、自分にまだそういう相手はいない。

もしそういう相手が高位貴族のご令嬢だったら、ケインの後を追うことになるのだろうが、王宮騎士団の騎士であるというだけであれだけ食いつかれたのだから、その肩書があれば、貴族にもそれなりに相手にされるのは間違いない。

相手が出世よりもつつましく穏やかな生活を望むのなら、今の自分の意見を通せばいいし、もし相手の家族が出世を望むのなら、それが分かってから配属変更希望を出すのもいいだろう。

ケインと一緒に騎士団にいると、学生時代の延長で楽しいし、やる気にもなる。

けれど彼とずっと一緒にいるかどうかは別だ。

とりあえず今は身の丈に合った、無理のない生活を維持したい。

こうしてケインと話しながら面談ではありのままの希望を伝えようとルームメイトは密かに決意するのだった。

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