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庇護欲をそそる王子様と庇護欲をそそらないお姫様  作者: まくのゆうき


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クリスからの招待

ケインがクリスからの呼び出しに応じて数日後。

本当に二人宛にクリスからお茶のお誘いの手紙が届いた。


「なあ、何か俺のとこにお茶会の招待状が来たんだけど、どうしたらいい……」


手紙の蜜蝋を見て困惑しながら、部屋で恐る恐る封を開けたルームメイトはその内容を見て、さらに動揺した様子でケインに尋ねた。


「ああ、本当にやるみたいだな」


同じく招待を受けたケインは、いつものように内容を確認すると、すぐに鍵のかかる引き出しの中にしまっているが、ルームメイトは手紙を両手でしっかりと握ったままだ。


「お前、何か知ってるのか?」

「お茶会についてか?」

「そうだよ!」


ルームメイトが必死に訴えてくるので、ケインは手紙を見て思い出したことを素直に口にした。


「この間、クリス様に呼ばれた時に少しそんな話が出たくらいだな」

「教えてくれ、今は少しでもいいから安心材料が欲しい。王宮から個人の呼び出しとか、何かしでかしたんじゃないかって不安しかない」

「そうなのか?騎士学校の時は羨ましがられた記憶があるけど……」


念願叶ってよかったなと言わんばかりのケインに、ルームメイトは頭を振った。


「た、確かに、クリス様を遠くから見て、微笑ましいと思っていた時はそう思ってたさ。けど、今は違う。正直嬉しいが、理由がわからくて怖い」


王宮の騎士団に在籍しているのだから、クリスからの呼び出しは最上位の人間からの呼び出しに等しい。

前触れもなく連絡が来たのだから、訓練場で何かやらかしたのではないかとか、自分が制裁の対象になるのではないかと怯えることしかできない。


「理由か。それはまあ、簡単に言うと、夜会で俺とエレナ様が話していた件を黙ってくれていることに関するお礼だな」

「お礼?」


恐々とそう言ってルームメイトは続きを促す。


「この間の呼び出しだけど、あれさ、俺がエレナ様と話していたのを目撃した人物について特定できていないことに関する謝罪と、もしその件で俺を脅したり利用したりするために近づいてくる人間がいたら対応するから遠慮なく言ってほしいって話だったんだ」

「へ?」

「あれはそういう場面だったってことだよ」


考えてもいなかったようなことを言われて、ルームメイトは目が点になっている。

だが、言われて考えてみれば確かにそういう可能性があったのかもしれない。

自分はケインがクリスやエレナと親しいと知っていたからそのような考えにはならなかったが、もしその関係を知らない人間が見たら確かに不自然な場面だったかもしれない。

そもそも人を脅して何かをしようという発想はなかったが、確かに王族の人間が誰か一人を優遇していれば、権力を欲する人間が黙っていないだろう。

エレナやクリスの周囲に寄りつく人間が増えるだけではなく、下手したら反乱のきっかけにもなりかねない。

考えがまとまって冷静になってきたところで思わずルームメイトはつぶやいた。


「いや、そんなつもり微塵も……」

「わかってる。で、少なくともお前はそういうことはしないって説明したらこうなった」


とりあえずケインの言うことは信用されたらしい。

それなら別に自分を呼びだす理由はないだろう。

ルームメイトは考えても答えが出ないため、素直にそれをケインに伝える。


「すまん……。悪いけど、よくわからないぞ?」

「俺がそんなに信用している人物が騎士団に在籍してなら、ゆっくり話してみたいんだそうだ」

「お、おまっ……」


ルームメイトが信頼たる人物だと言ったら逆に会いたいと言われたという話らしい。

変な疑いをかけられなくて済んだのは嬉しいが、話が誇張されているのではないかと今度は別の不安に襲われる。


「俺のところにも招待状が届いているから一緒に行けばいいんじゃないか?」

「そんな軽々と一緒に行きましょうってさぁ」


同級生とお茶を飲みに行くから一緒に行きましょうみたいなノリで話をするケインにさすがについて行けないとルームメイトが頭を抱えると、ケインは笑いだした。


「一度経験しておけばいいじゃないか。クリス様とお茶をする機会なんてそうないだろう?」

「そうだけどさ」

「どうせ断れない話なんだから、今からそんなに気負っても仕方ないと思うぞ?でも、一回疲れておけば当日はむしろ力が抜けていいのか……?」


ケインがぶつぶつと恐ろしいことを言っているのが耳に入ったルームメイトは、一瞬その内容を想像して、それじゃあだめだと考えを改めてからケインに反論した。


「そんな恐ろしいこと言うなよ。抜けがらでクリス様の前になんか出られるか!」

「そう思うんだったら、そうならないようにしてくれよ。俺も抜けがらになったお前を連れて行ったらどうなるかわからないだろう?」

「お前、本当にそう思ってるか?自分は大丈夫だと思ってないか?」


ルームメイトが涙目で顔を上げてケインを見ると、ケインは苦笑いしていた。


「さすがに思ってないよ。俺がお前のことを説明したんだから、クリス様のお前に対する評価で俺の見る目も評価されるんだからな」

「ますます失敗できねーよ!」


自分が失敗したらケインが連帯責任で何か言われると聞かされて、今度は酷いプレッシャーを感じる。

このままでは精神が持たないとルームメイトは無駄に体を動かした。

頭だけじゃなくて、手首や足首を動かして準備運動でも始めたのかという状態になっている。


「いつも通りが一番だ。忘れてないとは思うが、訓練場でクリス様に覚えられてただろう?その時の対応も含めての今回のお声掛けだろう。おそらくだが、あの場にいたお前の目からあの時のことを含めて色々聞きたいんじゃないか?だからむしろ仕事の一環だって気持で行けばいいだろう」


頭がお茶会の作法はどうだったか、何を着ていけばいいのか、歓談なんてどうしたらいいのかと、余計なことばかり考えていたルームメイトだったが、ケインに仕事の一環と言われて急にストンと胸に落ちたのが自分でもわかった。


「……そうだな。仕事の一環なら、そうだな。お茶会だって思うから緊張するんだな。確かに騎士団の職務でこの先王族の面々とは顔を合わせることになるんだ、仕事だと思うことにするよ……。そう考えたら何か落ち着いてきた。なんか悪かったな」

「いや、別に気にしてないし、気にすることもないさ」


体の動きを止めて、招待状を引き出しにしまったルームメイトは、ようやく落ち着いたのかベッドに仰向けに転がった。


「……そうか。やっぱケインは済む世界が違うんだな」


ルームメイトはそう小声でぼやいたが、その声がケインの耳に届くことはなかった。

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