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庇護欲をそそる王子様と庇護欲をそそらないお姫様  作者: まくのゆうき


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デビュタントのドレス選び

ダンスレッスンが順調に進み始めた頃、夜会のためのドレス選びも必要だとエレナは説明された。

今までは公務以外、お茶会くらいにしか参加していなかったエレナは、ちゃんとした夜会ドレスを一着も持っていない。

そしてデビュタントの衣装もまだ決まっていない状態だった。

そしてエレナは効率重視な部分があり、自分でドレスを欲しがることはしなかった。

希望を出すとすれば、動きやすい方がいいとか、飾りが引っ掛かるのは嫌とか、重たくない方がいいという内容だけで、後は侍女たちがエレナの意に沿い、かつ似合うものを選んだり、デザイナーに伝えたりするだけだったのだ。

最終的にデザイン画を見てエレナがどれにするのかを決めるのだが、画を見ただけでどれも素晴らしいものだと思っている。

そして出来上がったドレスが思っていた通りの出来栄えなので文句を言ったことはない。

自分の希望が通っているから問題ないと判断しているためである。

けれどもそれではこの先、社交界で女性の会話から取り残されてしまうかもしれない。

なぜか大判のハンカチの刺しゅうデザインで、夜会にも出ていないのにエレナはファッションの中心にいるように扱われている。

そのため今回の夜会の注目度も高い。



王妃は様々なことを危惧してエレナに自分のドレスを自分で選ぶように提案した。

そして自分も同席するから一緒に決めましょうという。

エレナのドレスに注目が集まるだろうことをエレナ本人に伝えるかは悩んだが、ファッションのことを知っていくことも勉強だと伝えるとエレナは黙ってうなずいた。


「こうして夜会のドレスを選ぶ日が来るなんて、嬉しいわ」

「ありがとうございます、お母様」


ドレスの仕立て屋と商人が来る当日、エレナと一緒に準備のできた部屋に向かいながら王妃が話しかけると、エレナは無表情で返した。


「そんなに他人行儀な言い方しないでほしいわ。寂しいでしょう?」

「はい……」


エレナからすればなぜ母親が楽しそうにしているのか分からない。

学校の一件から数年もの間、すっかり両親とは他人行儀に接するようになってしまっていた。

今までこのようなことはなかったし、母親とどう接していいのか分からず戸惑いの方が大きかったのだ。


「そうね……。確かに今までは侍女たちに任せっきりで、こうして一緒に商品を選ぶことはなかったものね」

「……」


母親と一緒にというよりも、仕立て屋だけではなく商人を迎えてドレスを選ぶということが初めてで不安なのだろうと感じた王妃は、エレナを安心させようと話題をドレスのデザインのことへと変えた。


「ねぇ、エレナ。エレナは大人っぽいのと可愛らしいの、どちらにしたいの?今のエレナならどれを着ても似合うと思うの」

「それは……」


何の情報もないと決められない。

エレナは交友範囲が狭いため社交界の情報に疎い。

だから知らずに流行を生んでしまうことはあっても、流行しているものを選ぶことはできないし、そもそも大人っぽいとか可愛らしいというのも、程度に寄るとエレナは思っている。


「じゃあ、デザインを見て決めましょうか。地の色は白って伝統的には決められてしまっているけれど、レースや刺繍をあしらうこともできるし、アクセサリーは好きな色をつけることができるわ。それに今回使わなくても、アクセサリーは別の時にも使えるのだから、欲しいものがあったらちゃんと言ってちょうだいね。アクセサリーに合わせてドレスを変えてもいいのだから」


すっかり何かを買い与えたい母親となっている王妃は、次々と提案していく。

エレナはそんな母親の押しに負けて、肯定の返事をすることしかできないのだった。



「王妃様、この度は当店にお声をかけていただき、まことに光栄でございます。本日はエレナ殿下のデビュタントということで、すでにいくつか仮縫いをしたものを試着いただけるようご用意いたしました。どうぞごゆっくりお選びください」


準備の整ったという部屋に到着した王妃とエレナは、商人の挨拶で迎えられた。

仕立て屋たちは端の方に待機している。

部屋の中にはすでにドレスの形状になったものが立体的な状態でいくつか並べられており、その傍らにはアクセサリー、そしてひっそりと小物なども並べられている。

小物はきっと気に入ったら購入してもらえるだろうとついでに持ち込まれたものだろう。


「まあ、仮縫いまでされているなんて、随分気の早いことではなくて?それにこんなに何度もデビュタントはありませんのよ?」

「はい。この中から一着、お選びいただけましたら、当店としては充分な名誉となりますから、このくらいはいたします」

「そう?じゃあ、早速見せてもらいますね」

「はい」


エレナが部屋の中を見渡している間に、王妃は慣れた感じでどんどん話を進めていく。


「さあ、エレナ、せっかくここまで準備されているのだもの。近くでゆっくり見て選びましょう!」

「ええ」


そうしてエレナと王妃は二人ともドレスの置かれている場所に向かった。

そして、別々にドレスを近くでじっくりと吟味するのだった。



「デザイン画ではなくて、こうして形になっているものから選ぶのは初めてだわ」

「そうでございましたか」


エレナがそう独りでつぶやくと、母親ではなくいち早くその声を聞いた商人がやってきた。

このドレスを着るエレナに何か希望があるのならその提案に沿うような提案をしなければと彼女の言葉を聞き逃さないようにしていたのだ。


「街ではこのように出来上がったものを既製服という名前で販売しているのでしょう?」

「はい。その通りでございます。既製服は試着も可能ですし、どなたが着ても違和感のない作りでできておりますので、万人向けにございます」


既製服の話が出て少し驚いたが、商人は笑顔を崩さずに答えた。


「これはすべて私に合わせて作られているのよね?」

「はい。こちらはフルオーダーになります。すでにいただいていたご希望を形にしたもので、今回はいただいたデザインのすべてを再現して取り揃えました。仮縫いですから調整も、試着も可能です」


商人は気合の入れ方が違うのだとエレナにも主張する。



大抵の商人は本人ではなく意見の強そうな人間に売り込みを掛けるが彼は少し違った。

お金を払うのが親であっても、決めるのは商品を受け取る側である。

親の了解がなければ購入してはもらえないが、それは子供が選んだものだと主張して後からその商品がいかに素晴らしいかをアピールすればいいだけだ。

全ての取扱商品に自信があれば、どの商品を選ばれたとしても売り込むことはできる。

それが商人の腕の見せ所だと彼は思っているのだ。

そもそも親だけが納得して与えられたものなど、子供が喜ぶわけがない。

それにそれが子供であれば、彼らも将来大人になる。

その時、自分をないがしろにした商人から、彼らは商品を買うのだろうか。

彼はそこまで考えて商売をしてきた。

おかげで世代を超えて貴族の家に出入りを許されている。

しかしエレナは、商人の話を聞きながら、少し別のことが気になっていたのだった。

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