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庇護欲をそそる王子様と庇護欲をそそらないお姫様  作者: まくのゆうき


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王宮騎士団入寮

クリスとエレナに王宮騎士団入団のお祝いをしてもらい家に帰ったケインは、エレナから手紙が届いていると少し厚めの封筒を渡された。

部屋で開封すると、お祝いのメッセージと共にエレナが刺繍したと思われるハンカチが入っていた。

刺繍は自分のイニシャルと、騎士団の紋章をモチーフにしたもののようで、随分と手の込んだものである。

ケインはハンカチを広げて、ぼんやりと数年前のことを思い出していた。

自分の参加を聞かされていなかったエレナが、ブレンダとのお茶会で振る舞ったお菓子を届けてくれていた時のことだ。

さすがにお菓子は食べきったが、あの時のメッセージカードはまだ引き出しに入っている。

ケインは今回のカードと前回のカードをしばらく眺めて二枚を引き出しにしまった。

そしてハンカチは、もらってからずっと身につけているお守りの中に押し込んだ。

お守りが少し伸びて膨らんだが、こうしていればずっと身につけていられる。

一緒にいられないのだからせめてこのくらいは許してほしいとケインは自室で考えるのだった。



こうして数日実家で過ごしたケインだが、ついに王宮騎士団の寮に移る日がやってきた。

入寮をしてから数日後に騎士団の入団式がある。

入寮するとすぐに制服が支給されるため、以降、私服を着る機会は減るという。

訓練着と制服しか着ない生活は騎士学校も似たようなものだったので問題ないだろう。

そしてその訓練着は学校の荷物と一緒に積み込んだままになっている。

増えたものは、エレナからもらったハンカチくらいだろう。



朝食後、予定通り家を出て、案内に合った騎士団の寮に馬車で向かう。

寮の入口に到着すると見慣れた顔がすでにあった。


「待たせたか?」

「いいや、手続きを済ませたらちょうど来るのが見えたから出てきてみたんだ」


ケインは休みの間に騎士団の寮を訪ねて手続きを済ませていたが、彼は学校からそのまま領地に戻ってしまった。

だから書類の提出や、手続きも全て今日行ったのだという。


「大変だったな」

「そんなことないさ。荷物を預かってもらったおかげで本当に楽させてもらった。感謝してるよ。じゃあ、早速降ろすか」

「ああ」


いつまでも馬車を入口に止めておくわけにはいかない。

手続きの時には決まっていなかった部屋を教えてもらうため、一度受付に立ち寄る必要があるためケインは馬車から離れた。

部屋番号だけを教えてもらって戻ってくると、彼が一人で荷物を降ろし終えていた。


「全部やらせてしまったな……」

「いや、これから部屋に運ぶのが大仕事だろうな」

「確かに」


ここから先、寮に入れるのは団員だけである。

たとえ手伝いの者でも寮の部屋に入ることは許されないのだ。

つまり、荷物を部屋まで運ぶのは本人か、団員の友人しかいない。

とりあえず運び終わるまで荷物は御者に見てもらうことにして、二人はとりあえず自分の荷物を部屋に運び始めるのだった。



「そう言えば、ケインの部屋はどこなんだ?」


すでに一度荷物を置いた彼はケインに尋ねた。


「ああ、ここらしい」


ケインが足を止めると、彼はケインの後ろで目を見開いていた。


「どうした?」


振り返り尋ねると彼は言った。


「また同じ部屋みたいだな」


そう言われてケインも思わずきょとんとして言った。


「そうなのか……?」

「ああ……。その部屋に入って俺の荷物があれば間違いない。手続きして荷物おいてすぐ出てきたからプレートも机に置いたままで出していないけど、合ってるはずだ」


とりあえず荷物を抱えて部屋の前に立っている必要はない。

少なくともケインの部屋はここで間違いないのだ。

ケインは念のためドアをノックして部屋のドアを開けた。

そして入口の脇に荷物を置く。

続いて彼も同じように荷物を置いてから、机の方を指差した。


「ほら、あれ、俺の鞄だし、机の上にプレートあるだろ?」

「そうだな」

「なんか、あれだな。口に出してたら本当になったな」

「ああ」


そんな話をしながら言われた荷物やプレートを見た後、ケインは部屋を見回した。

ベッドが二つ、机が二つ、机についている椅子が二つ、クローゼットのような者入れが二つあるだけだ。

寮というのはどこも似たようなものなのか、それとも二人部屋だからなのか、配置が騎士学校の時と変わらない。

もしかしたら学校が意識的にそのような配置にしているのかもしれないし、結果同じになったのかもしれないが、おそらく部屋をこのように使うならこの配置が一番いいということなのだろう。

ケインが部屋を見回していると、ルームメイトは机の上のプレートを持って言った。


「これを付けてから出た方がいいかもしれないな」


そう言いながら彼はケインの前を通り過ぎ、入口のドアの外にプレートを設置する。

ケインも慌てて荷物の箱の上に置いた自分のプレートをとって、同じように設置した。

プレートがあるだけでそこが自分たちの占有空間であることを強く認識できるから不思議である。


「とりあえず全部運ぶか」

「そうだな」


一度目の荷物を置いてから少し話してしまった二人は急いで入口に戻って、再び荷物を手にするのだった。



そして何度か往復を繰り返し全ての荷物を運び終え、御者にお礼を言い、入口から少し離れたところに止められていた馬車を送り出してから部屋に戻った二人は、ベッドに横たわった。

荷物運びの往復は重労働である。

箱に入ったままだが荷物はすべて部屋に納まったし、一応二人のどちらの荷物なのかは分かるように位置を変えてある。

箱は開封していないが、必要な時に取り出すことはできるので休憩することにしたのだ。

少しぐったりしていると、先に口を開いたのはルームメイトだった。


「改めてよろしくな」

「こちらこそ」


ケインも軽く返す。

改めて握手をするような堅苦しい挨拶はしない。

ベッドに転がったまま口だけでそう言っているだけだ。

この気安さがありがたい。

結局二人は騎士学校時代と同じ位置の机とベッドを使うことにした。

部屋の場所は変わったがルームメイトは変わらない。

こんな些細なことが心強く感じられるものなのだと、ケインは本人に告げないものの、そう思う。

偶然なのか、同じ学校の生徒同士を同じ部屋にするよう騎士団が配慮したものなのかはわからない。

けれど、そのうち他の新人と話す機会があれば、他の部屋はどうなのか聞いてみたい。

もちろんそれを知ってどうなるものでもないことは分かっているが、もし、母校に聞かれたら、母校の生徒が研修生として自分と一緒に訓練を受けることがあるのなら、こっそり教えてもいいだろう。

疲れをとるため横になり、会話をすることもなかった二人だったが、気がつけば、ベッドに横になった状態で夕方までしっかりと眠っていたのだった。

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