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庇護欲をそそる王子様と庇護欲をそそらないお姫様  作者: まくのゆうき


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説得依頼

学校から戻ったクリスは父親のところに足を運んだ。


「あの、ご相談があります。エレナのことです」

「どうした」


急に現れたクリスに驚いて国王は言った。


「私達でエレナを説得するのは無理です。ですが、もしかしたらケインの言葉になら耳を貸すかもしれません。ですがケインにこの話をするということは、話が大きくなるということです」


クリスは学校にいる間、ずっとエレナのことを考えていた。

何とかこの状況を早く改善したいとあれこれ思考を巡らせていたのだ。


「そうだな、エレナは本当に飲まず食わずで引きこもってしまっているからな。こちらも扉を壊す方法を考えていたところだよ。ケイン君にまかせて済むならその方が穏便でいいのだろうな」


扉を壊してエレナを引きずりだすつもりだったらしいと知ったクリスは父親に怒りを覚えた。


「また同じことを繰り返したくありませんから、ケインが来たら彼らは扉から離してください。できなければ私は呼びませんし、ケインには今回の件を先に伝え、エレナを呼ばないように言います」


もう力づくでエレナに何かさせるようなことはしたくないとクリスは主張した。


「クリス、わかっている。同じ過ちが繰り返さぬ……。彼が来たら私も行こう。騎士らも私の言う事なら聞くだろう」

「そうしてください。それではお願いします。ケインには明日、伝えます」


言いたいことを言って必要な許可が取れた以上、もうここに用はない。

クリスが立ち去ろうとすると、国王は彼を引き留めた。


「クリス……」

「何でしょう?」

「少し落ち着きなさい。場所もわかっているのだ。お前はエレナのことになると自分のことよりも怒るのだな。それはあまりいい傾向ではない」


常に冷静に物事を判断できなければならないと教育されてきた。

それが守られていないということはクリスも解っている。

だが、普通に話をしても怒っていることが伝わらないのだから、このくらいしなければならない。

クリスはこの状況下であっても考えて行動しているのだ。


「わかっています。ですが、ここにはエレナの味方となる大人がいませんからね。私が味方をしてあげなければ誰がエレナを庇うというのですか」


幼い日、かわいいと言われてまるで女の子のように扱われていた自分を、王子様だと言ってくれたエレナ。

あの時から、自分だけは何があってもエレナの味方になると誓ったのだ。


「まあいい、好きなようにやってみなさい」


国王はそう言うと深くため息をついた。


「そうさせていただきます。ご協力感謝します」


クリスはそう言って頭を下げると国王の前を後にするのだった。



国王と話してから、クリスはエレナの元に向かった。

そして朝と同じように声をかけてみる。


「エレナ、ただいま」


厚い扉に向かって声をかけてみるが返事はない。

騎士の話ではたまに物音がするというが、クリスがいる時にそのような音は聞こえない。

クリスはしばらくじっと扉に手をついて耳を澄ませていたが、聞き取るのを諦めて再び返事のない扉に向かって声をかけた。


「また来るね。ごめんね、エレナ……」


泣きそうになるのをこらえてそう言い残すとクリスは自室に戻った。

そして自分ではどうしようもできないことを悔しく思いながら、夜を明かすのだった。



その翌朝、やはり返事のない倉庫の扉に向かって声をかけてから、いつも通り何もなかったかのようにケインと挨拶を交わしたクリスは、通学中の馬車でエレナの話をすることにした。


「ケイン、エレナのことで相談があるんだ。できるだけ早く時間を作ってもらえないかな」

「エレナ様がどうかされましたか?」


ケインが心配そうに尋ねた。

ここまでケインにすら気付かれるような素振りを見せずに生活できたところがクリスの優秀なところである。


「ちょっと手に負えないことになっていてね。助けてほしいんだ」

「……皆様に手に負えないもの、私に負えますでしょうか?」

「たぶん、ケインとなら話をすると思うんだ。私たちの言葉には耳を貸さなくなってしまったけど……」


そこまで話を聞いてケインはこの話が家族内でのもめごとだと気が付いた。


「こじらせたのですか」

「そうなんだ」

「何があったのですか?」

「時間を作ってもらった時にまとめて話すよ……」


移動の間で話すには時間が足りない。

それにケインが来ることが分かった時点で状況が変わっている可能性があるのだ。

来てもらう以上、最新の情報を伝えたいとクリスは思った。


「わかりました。本日まいりますから、帰りに教えてください。何も知らない状態ではさすがに対処できませんから」

「じゃあ、後で。頼りにしているよ」


学校に着いたところで二人は話を止めた。

そして深刻な話をしていたとは思えないような素振りで学校に溶け込んでいくのだった。



学校では何があったのか触れることなく下校の時刻になった。

二人は迎えの馬車に乗り込むと早速目的地に向かう。


「今日はありがとう」

「いいえ。それでエレナ様は……」

「最新情報ではレンガ倉庫に閉じ籠って動きなし、で間違いないかな?」


クリスが御者に確認をすると彼は答えた。


「はい。今朝も変わらずでございます」


その答えを聞いて大きくため息をついてからクリスは言った。


「そんなわけで、エレナは窓のない頑丈なレンガ造りの倉庫に籠城してる」


ケインは遊びに行った際に見た倉庫を思い出していた。

エレナがそこに閉じこもっているというが、それはそんな簡単に済ませていい話ではないはずだ。


「そんなわけで、ではありません。クリス様、経緯もお話しください」

「うん、そうだね。簡単に言うと、同じ学校に通うことを認めてもらえなかったんだ」

「……そうですか」


ケインはそれを聞いて少し責任を感じた。

年齢が達すれば学校に通えると言ったのは自分である。

エレナの立場を考えず、軽々しいことを言って、エレナに期待を持たせてしまったのだ。


「それから塞ぎこんで、部屋に閉じ籠ってしまってね。それでも一度は私を中に入れてくれたんだ、見学とか、そういう形で遊びにこないかって誘った。あまりいい返事はもらえなかったんだけど、それもまあ、そこまでは良かったのかな……」


一度は話ができたのだという。

クリスが話をしてなぜこじれたのか分からないとケインが眉をひそめるとクリスは説明を続けた。


「その後、私が出る時にドアを開けたら、大人達が入っていってしまってね。無理矢理外に引きずり出そうとしたものだから、逃げちゃったんだよね。二階の窓から木に飛び移って……」

「飛び移って?」


思わずケインが驚きの声を上げたが、それを気にすることなくクリスは終わりまで話しきった。


「で、逃げ込んだ先がレンガ倉庫。閂をかけちゃうと、窓もないし、壊すにしても扉が頑丈なのでなかなか……。大人たちの話はおろか、私の話も聞いてくれない状態だけど、もしかしたらケインの言葉になら耳を傾けてくれるんじゃないかなって思ったんだ。エレナは部屋にこもっている時からあまり食べ物を口にしていなくて、倉庫に入ってしまってからはたぶん飲まず食わずなんだ。だからすごく心配なんだよ」


少し寂しそうに笑ったクリスにケインは言った。


「お役に立てるかどうかは正直分かりませんが、できる限りのことはさせていただきます」


思っていたより深刻な状況だと知ったケインは、気を引き締めるのだった。

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