表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
庇護欲をそそる王子様と庇護欲をそそらないお姫様  作者: まくのゆうき


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

148/975

合格通知と面談通知

試験の結果は手紙で通知されることになっている。

学校に在籍している者の通知は学校に、学校を卒業している者の通知は申告した家や職場に届けられる。

その場で発表する騎士団などもあるようだが、王宮騎士団は受験生も多く、試験も二日に分けて行われているため、採点に時間が必要なのだ。

もう今回の試験において、できることは何も残されていない。

試験は無事に終えた。

今の全力は出せただろうと思っている。

合否の結果を待つばかりである。



試験が終了した当日も実家に泊り、翌日寮に戻ったケインはルームメイトと再会した。


「おかえりー」


実家から戻ったケインより、宿から戻ったルームメイトの方が寮に早く到着したようで、ケインが戻ると彼に出迎えられた。


「ああ、戻った……」


そう言いながらケインは荷物を置くとベッドに横になった。

実家に戻ってからも横になっていたが疲れが取れなかったのだ。

もしかしたら、気を張ったままでいた数年の疲れがまとめて出たのかもしれない。


「いやー、なんかすごかったな。王宮騎士団」

「そうだな……」


意外な答えだったのかすかさず突っ込みが入る。


「ケインは一度研修で行ったことあるんだろ?」

「確かに研修の時、あの実技試験のところで騎士と訓練を一緒に受けさせてもらったけど、ギャラリーがいたわけではないからな」

「あれも含めて、やっぱ人気なんだなって思ったよ」


実技試験の時、寒空の中、たくさんのギャラリーが自分たちを見守っていた。

皆、観戦を楽しみにしていたのか、一部では声援も送られていたのだ。

とても試験という空気ではなかった。

二人とも似たような経験をしており、想像したものも似たようなものだった。


「そういえば、会場で会わなかったな」


ケインが思い出したように言うと、彼はうなずいた。


「俺、初日学科で、わりと後ろの席だったんだけど、見かけなかったな」

「ああ、俺は実技が先だったよ」

「じゃあ、会わないわけだ」


二人は試験内容が逆転していたらしい。

受験生が多いから会わなかったのではなく、会場が離れていたから会うことがなかったようだ。


「学校で申し込んでても、一緒にならないもんなんだな」

「わざと分けてるかもしれないけどな。適当に半分ずつとか」

「あー、あり得るな。他の学校からも来てるし、実技とか同じ学校の生徒同士じゃ、本来の実力が見れないもんな」


ルームメイトは実技試験の内容を思い出して言った。

ランダムで対戦相手を当てていたが同じ学校の生徒とは当たらないようにしていたのかもしれない。

何度も対戦している相手同士では量れないものが多いのは間違いない。



結局、帰ったその日は部屋で彼と雑談をしながらのんびりと過ごした。

翌日からは一応授業に参加することになる。

この生活もあとわずかだと、ケインはぼんやりとそう考える。

ここまでくれば残りは消化試合のようなもので、授業ものんびりとした気持ちで受けることになった。

教えている方も、今までの復習や、入団時の心構え、自分が入団した時の経験談など、雑談のような内容を伝えて時間を使っている状態だ。

訓練も今までの厳しいものではなく、体がなまらないように動かす、もしくは個別指導のようなものになっている。

受験のために生徒がいない中で重要なことを伝えるというのはよほどの緊急時でなければない。



そんな風に残りの学生生活を送っていたある日。

ケインとルームメイトが部屋に戻る際に呼び止められた。

他の生徒にも声をかけているようで、周辺には随分と人がたまっている。


「何かあったのか?」

「さぁ……?」


呼びとめられたためその場で様子を見ていると、どうやら順番に封筒を渡されているようだ。

それをしばらく見ていたルームメイトが何か思いついたように小声で言った。


「そうか」

「どうした?」

「たぶんだけど、あれ、王宮騎士団の入団試験の結果を渡されてるんじゃないか?」


ルームメイトに言われてケインは思わず緊張した。

そんなケインの背中を彼はバシバシと叩く。


「もう届いてるものなんだから、今緊張したって結果は変わんないだろう!」

「そうだな……」


そうして待っていると順番が回ってきて、自分の名前の書かれている封筒を受け取ることになった。

二人とも受け取ると、彼らは封筒をしっかりと胸に抱えて急いで部屋へと戻るのだった。



部屋に戻った二人は、わざわざ少し距離をとって各々の封筒に手をかけた。

そしてほぼ同時に封筒から通知を引き出す。

その内容を確認して、ケインが顔を上げると、ルームメイトが無言で笑顔を向けていた。


「受かった……みたいだ」


ケインがつぶやくと、ルームメイトも自分に届いた通知をケインに見せて言う。


「俺もだ!」


ルームメイトは封筒を放り出すとケインに飛びついた。


「わーっ!おい!」


自分の封筒がつぶされないようにしたものの、ルームメイトまでよけることはできず、ケインは彼に飛びつかれてしまった。


「いや、だってさ。また一緒だぞ!」

「ああ、そうだな……」


あまり喜んでいないように見えるケインにルームメイトは首を傾げて尋ねた。


「どうした?」

「お前、ちゃんと中身読んだか?」

「……中身?」

「実技と学科は合格らしいが、入団直前に面談があるって書いてあるだろ」


ケインに言われて慌てたルームメイトは書類を確認するためケインから離れた。


「ほんとだ……」


確認したルームメイトのテンションが一気に下がる。


「これは学校に相談した方がいいかもしれないな」

「ああ……」


二人は顔を見合わせて苦笑いを浮かべるしかなかった。



「王宮騎士団から面談の通知?」


通知を受け取った翌日、ケインとルームメイトが王宮騎士団に在籍していたという講師に話を聞きに行くと、初っ端から疑問形で返ってきた。


「これです……」


二人が彼に書類を見せると、講師の表情が明るくなった。


「ああ!そう言えばそんなのあったな。まずは合格おめでとう!これはな、配属希望の確認面談のことだ」

「でも、他の騎士団に合った面談って王宮騎士団ではなかったような気がするんですけど……」


本当に合格と認識していいのかとケインが疑問を投げかけると、講師は笑いながら答えた。


「王宮騎士団は学校が願書を出す際に、学校側から内申が提出されているからな。それで面談が省略されただけだ。現役学生の特権だな」

「他の人は面談しているんですか?」


実技試験の後は終わった人から帰されたし、学科試験の時も全員退出するよう誘導された。

残った人などいたのだろうかと疑問に思っていると、講師が言った。


「ああ、面談は願書提出の日にやるんだ。学校が推薦できないようなやつは個人で願書を出しに行くことになる。その時に面談するんだ。面談に合格しないと、そもそも実技と学科の試験は受けられない、願書ごと帰されるという仕組みだ。そうじゃなきゃ、あんなやり方、危なくて仕方がないだろう」


言われてみればそうである。

いくら騎士たちがついているとはいえ、武器を持った希望者が暴走するような人間だったら、あんなに粛々と試験を進めることはできない。

それに一般市民が見学に来ているのだ。

もし弓などを市民に向けて暴れるようなのが出れば、大失態である。

つまりそれを未然に防ぐため、すでに訓練場の中に入れる人間は絞られていたということだ。


「それに封筒には入団式の案内とか、入寮の案内とか入ってただろう?最初は全員入寮して一律で訓練を受けることになるが、配置や仕事内容が決まったら、通いに変更することもできる。まあ、まずは入団して騎士団に慣れるのが先だ」

「通いですか?」


自分は研修の時、実家から通っていた。

試験の当日も近くの宿ではなく実家から向かった。

どうやら王宮騎士団は入団してからもそういうことが可能らしい。


「ああ。実家が近いやつとか、退団するという理由のやつもいるが、……まぁ、一番多いのは結婚して出るやつだな。あとは、もともと結婚してから入るやつもいて、その場合は配属が決まるまで我慢して、すぐに寮を出るって感じだったけどな」

「なるほど。結婚しても奥さんとかお子さんは寮に住めないから、独立するってことですね」

「そうだ」


ルームメイトは楽しそうに話を聞いている。

合格が決まったということを聞いて安心したのだろう。

しかしこの疑問を持ったのはケインだけで、他にも何名か合格者はいたようだが、合格したと浮かれているだけで、そんな質問は受けていないという。


「二人の進路は王宮騎士団でいいんだな?」

「はい」


二人が元気に返事をすると、講師は笑顔でうなずいて言った。


「卒業まで残りわずかだ。今のうちに学生生活を楽しんでおけよ!」


そう言って講師は二人を送り出したのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ