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庇護欲をそそる王子様と庇護欲をそそらないお姫様  作者: まくのゆうき


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学校への報告

騎士団の研修を終えたケインは、その翌日予定通り学校に戻ることになった。

実家で朝食を取った後、手配されていた馬車で学校まで移動する。

移動の馬車の中でケインは今回の研修の内容を頭の中で整理していた。

これから学校での報告が待っている。

ここで報告できる内容は、訓練場での話だけだ。

間違ってエレナを護衛した時のことは口を滑らせないようにしなければならない。

あくまで新人騎士たちと訓練をして、講義という名目で会議室に呼ばれて話をしていたことになっている。

講義の内容についても、会議室で騎士団長と相談してあった。

おそらく聞かれるだろうということで、騎士団長が前もって準備してくれていたのだ。

ケインはその時メモしていた内容を、もう一度馬車の中で確認する。

それからふと、実家での生活を思い浮かべた。

騎士学校に入ってから、実家には長期休暇の期間しか帰っていない。

そして帰るたびにほぼ連日どこかの家と会食をさせられてぐったりする日々を送っている。

正直、家に帰る価値などないのではとも思うが、ここで帰らないとなると、エレナと会うことができない。

だから仕方なく実家に帰ることを告げていた。

しかし今回は休暇を使っての帰省ではないので、一切会食などは予定されなかった。

そのおかげで、夜も家でのんびりと過ごすことができたし、研修を終えて家に戻ってから家族で話す余裕があった。

今回、実家と騎士団、クリスとしか交流していない。

エレナとは話こそできていないが、遠くから見守るという形で一日一緒に過ごすことが許された。

体に疲労感はあるものの、今回の方が充実し、長期休暇での帰省よりも満足度が高い。

家でもゆっくりできた気がするし、精神的な負荷は少なかった。

少ししてやってくる長期休暇の時はこうはいかないだろうし、今回満足したから帰省しないというのは周囲から不信がられるに違いない。

例え後日、研修に参加していたという話が広がって、その際、実家から通っていたことが知れた時、体力にも精神力にも余裕があったと思われてしまえば、騎士団が緩い研修を行ったと言われかねない。

それでは今回、自分のわがままのために御膳立てしてくれた騎士団のメンツがつぶれてしまう。

気は重いが、やはり卒業までは長期休暇の予定も含めて辛抱しなければならないのだろう。

そんなことを考えているうちに馬車は学校に到着した。

実家に寝泊まりしていたこともあり、大きな荷物もなかったケインは、移動のために使っていた馬車を降りると、その足で学長室に向かうのだった。



学校の前に止まった馬車の音で、学長は彼が戻ってきたことに気が付いて、早速迎える準備を整えていた。

ほどなくしてやってきたケインを迎え入れた学長は、ケインを座らせると、お茶を出し、向かい側に座ってから、研修の話を切りだした。

お茶を出されたことで、話は長くなりそうだとケインは覚悟を決める。


「研修はどうだったかね」

「はい。おかげさまで、貴重な経験をすることができました。騎士団の皆さんにも大変親切にしていただきました」


軽い挨拶から始まった会話はすぐに研修の具体的な内容へと移った。


「それは何よりだ。それで、どのような内容だったのだ?」

「学校とは少し違っていまして、午前中から実技の訓練でした。午後は騎士の方々とは別行動、一緒に訓練させていただいた騎士の方々は、訓練後すぐ、巡回や警備のお仕事に向かわれるということでした。学校では講義の後、実技の訓練をしていますのでそのまま寮に戻って休むこともできますが、騎士の方々はお仕事もあるのでそうはいかないようですね」

「なるほど。実技と講義の順番は学年で変わるのだが、君の学年は実技が後だからそう感じたのかもしれんな。まあ、そのあたりは騎士団によっても勤務時間によっても変わるところだから気にしなくていいだろうが、体力配分に気をつければいい」

「はい」


学長も騎士団での実務経験があるということで、ケインの話を聞きながらアドバイスを交えて話は進んだ。


「やはり現場に出ていらっしゃる方と学生では全然違いました。実技の技術や強さなどもそうですが、精神的にも甘えが許されない厳しいところなのだということを肌で感じることができました。学校での厳しい訓練がなければ、あの環境に耐えるのは困難かと思います」


ケインは報告をそう締めくくった。

学長は念のため、ケインに確認をする。


「他に何か気になったことや、研修内容の報告はあるか?」

「そうですね……。そういえば、研修中はずっと護衛騎士の方がついてくださいました」

「そうなのか?」

「はい。訓練場の中での動きを制限するということが目的のようでした。理由を確認しましたら訓練場内には立ち入り禁止の区域もあると護衛の方に説明されました。あと、私はまだ学生で騎士団員ではないので、貴族の客品として扱わなければならないということもあったようです」


その報告を受けた学長は思うところがあったのか少し渋い顔をした。

そして時間を確認すると、ケインに向き直った。


「わかった。疲れているところ、わざわざ足を運んでくれてありがとう」

「明日からは学生として訓練と勉強に努めます」

「期待している」

「はっ!」


馬車での復習通り何とかうまくごまかしたケインは、学長室を出て、深呼吸をした。

学長たちも仕事に追われているので話す時間はきっと限られている、だからできるだけ当たり障りのない会話を繋いで、必要なところだけを話すようにすれば、一つ一つの内容を深く聞かれずにすむだろうという、騎士団長のアドバイスも功を奏した。

ちなみに自分に護衛という名の監視がついたという話は、話題に困った時や、そろそろ終わりに近づいたと感じた時に出すといいとも言われていた。

特に研修中は監視されているという情報は、後に研修生が来る際に重要な情報として扱われるだろうから、この話をすることで学校での評価が上がるはずというのが騎士団長の考えだと聞かされた。

学長がその意図に気がついたのか、本当に時間が足りなくてケインを解放したのかは分からない。

ケインはただ、エレナの緊急時の訓練に同行したことを知られないようにするのが精一杯だった。

そしてそれは何とか達成された。

ひとまず大仕事を終えたケインは、解放感に浸りながら寮に戻るのだった。

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