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庇護欲をそそる王子様と庇護欲をそそらないお姫様  作者: まくのゆうき


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緊急時の訓練に向けて

そうして始まった騎士団の研修。

最初こそやりにくさがあったものの、ケインはそのまじめさですぐに新人の訓練に混ざっても遜色ない状態になっていた。

彼を知らない人間相手なら、騎士団員だと紹介してもばれないレベルである。

ただ、ケインが混ざるのは訓練場で行われる実技の訓練のみだ。

新人であっても騎士団にいる以上、訓練だけではなく、警備などの仕事をする必要がある。

そのため、新人に先輩がついて仕事を教えている時間を利用して、ケインは彼らに知られないよう、緊急時の訓練についての説明を受けることになった。

共通の認識としては、研修生に実際の警備、護衛の内容まで教えることはできないので、訓練場での訓練のない時間は座学をしているということになっている。

そんなわけで、実技系の訓練が終わると、すぐに護衛騎士が迎えに来て別の部屋へとケインを案内する。

一方の新人騎士たちは、すでに組まれているスケジュールをこなすために各々移動していく。

新人たちにはケインが誤って新人についていってしまって、仕事内容の説明に混ざらないようにするため護衛騎士がその案内役をしていると伝えてあったため、訓練が終わると、皆がまた明日と声をかけるだけで、一緒に移動しようとは言わなかった。



「ケイン様、移動いたします。こちらへ」


彼らが訓練場を出ていくのを見送っているケインの近くに、いつの間にか護衛騎士が来ていた。


「はい」


声をかけられたケインは、おとなしく護衛騎士の後ろをついていくことになった。

しばらく無言で付いていくとたくさん並んだドアのひとつを開けた護衛騎士が中に入るよう促す。


「こちらでお待ちください」

「わかりました」


ケインが中に足を踏み入れて見渡すと机が並んでいた。

どうやら会議室のようだ。

好きな席に座るよう促されたケインは、入口近くの椅子に腰を下ろした。


「それから、こちらをどうぞ」


そう言って彼は水差しとコップを二つ、ケインの前に差し出した。

そして一つのコップに水差しから水を入れて、もう一つのコップに移すと、毒味として水を飲み干した。

飲んだ方のコップはそのまま片付けられ、ケインの元には口をつけていないコップと水差しが残された。


「ありがとうございます」


ケインが畏まっていると、護衛騎士はコップに水を入れて言った。


「訓練で汗を流した後ですから水分はしっかり取ってください。水分補給の前にこちらに案内してしまいましたので、むしろ飲んでいただかないと後で体に出ますから」


気を聞かせてわざわざそこまで言われたら、飲まないわけにはいかない。


「すみません、いただきます」


一応比例になるかもしれないからと詫びの言葉を入れてケインはコップの水を飲み干した。

すると、思った以上に喉が渇いていたのか、体が水分を欲していることがわかる。

その飲みっぷりを見た護衛騎士は笑顔でコップに水を注ぐ。


「おそらく緊張していて喉の渇きを感じていなかったのでしょう。他のメンバーが来るまでは休憩時間になるので、安心して休んでください。水もここに置いておきますのでご自由に飲んでいただいて構いません。では、私は少し部屋を離れて彼らを呼んできます。休憩が短くて申し訳ありませんが……」

「いいえ。お気づかいありがとうございます」


新人騎士たちも訓練の後すぐに警備の仕事に行った。

騎士団に入ればそれが日常になるに違いない。

彼もケインがまだ学生だからという理由で休憩時間を作ってくれているが、入団して働くようになればそうはいかないだろう。

だから彼の厚意に甘えすぎないように気をつけなければと、会議室を出ていく護衛騎士の背中を見送りながらそう考えるのだった。



ケインが水を飲みながら小休止をしていると、先ほどの護衛騎士だけではなく、騎士団長を始めとした多くの騎士たちが会議室にやってきた。

ケインは慌てて立ち上がり、彼らの入室を見守る。

護衛騎士たちは入室すると入った順番に座る場所を決めてその席で立っている。

非常に無駄のない動きである。

そして騎士団長が前に立ち、合図があると、彼らは黙って腰を下ろした。

ケインも空気を読んでそれに合わせて座る。

ケインもこの辺りのルールは良く分かっていないのだ。


「すでに個別には説明しているが、ここにいるのが今回行われるエレナ様の緊急の訓練に参加する主要メンバーである。他にも現在クリス様とエレナ様の護衛任務に当たっている数人がこちらに加わる予定だ」


そう切り出すと、騎士団長は説明を始めた。

エレナが今回訓練を行うのは王宮近くの森。

夜に馬車で森の入口まで連れて行き、そこから森に入ってからの行動はエレナ一人で行うという。

上り坂などはあるが比較的安全な場所で、奥まで行かなければ獣の遭遇率も低い。

今回エレナは自分で身を隠す場所を探し、そこで野営するという訓練を行うということだが、エレナの体力や運動能力を考えると、一日中歩き続けない限り森の奥まで足を延ばすのは不可能だろうと判断された。

ただ、全く危険がないわけではない。

森の中を川が流れているし、上り坂になっているので一部が崖のようになっているところもある。

そこで護衛たちは、川の周辺、崖の周辺などエレナが危険を伴う可能性があり、近づいたら止めなければならない場所に配置されるほか、エレナに気付かれないようついていき、見守る担当もいる。

見守りは、見失ったときのことも考えて複数のグループで構成される。

ケインは騎士団長と共にエレナの見守りを担当することになった。

騎士団長と一緒ならばケインのフォローができるし、何よりケインの希望はエレナの訓練に立ち会いたいというものだったからだ。

ちなみに川周辺や崖周辺の担当はその場で野営することになるらしい。

森にはそういう人間がいてもおかしくないので、彼らは夕方には森に入って配置についてしっかりとテントを立てたり、火を起こしたりして過ごすらしい。

あくまで緊急事態が起きた時の要員である。

こうして配置も発表され、顔合わせも終わったところで、その日の会議は終わった。

会議が終わるとケインは訓練場から自宅に戻る。

ちなみに会議のない日は護衛騎士が新人たちに知られないよう馬車を手配し、早い時間に自宅に帰されていた。

そうして緊急時の訓練までの数日はあっという間に過ぎていくのだった。



一方のエレナはクリスたちに仕組まれた通り、温室に出入りするようになっていた。

エレナが温室に行くようになったのは、ケインが研修に来る少し前からである。

さすがに研修生が来るのと同時にエレナが訓練場に来なくなるというのはあまりにも不自然なので、自然に慣れる訓練のためにエレナはしばらく来ないという情報を、護衛騎士が噂としてうまく流して騎士団に広めており、事実を知らないエレナを崇拝する騎士たちも、それならばと納得したようだった。


「この感じ、なんだか久しぶりだわ」


そんなことを知らないエレナは、鍬を振り上げながら楽しそうにしていた。

やっぱり掘り返されたところから色々な虫が出てきて、その度に驚いて飛びのいてしまったりするが、出てくることは分かっているので悲鳴を上げたりはしない。

虫は虫で、いきなり表に出されたと思ったら土をかけられたり、そのままにされたりしていて迷惑そうにしていて、土の表に出されたままになった虫たちは、自力で土の中に潜り込もうと土の上をうねうねと動き回っていた。

花壇を全て耕し終えてからは、掘り返したところに残っている雑草を除去する作業、その次は、除去した雑草を乾燥させてものができたということで火をつける練習、気がつけばエレナはこの間、訓練場には出入りしていなかった。

そしてこの訓練、エレナが想像していた以上に体に負担があったらしく、エレナはこの訓練の翌日、必ずと言っていいほど体中の筋肉痛に悩まされていた。

動かせなくはないが、歩くだけで体に痛みがある。

そのため、温室に行くのも連日というわけにはいかず、訓練場で剣を振ったり、弓を使ったりという訓練ができる状態ではなかった。

前みたいにふらふらになって運ばれるようなことはなかっただけ体力もついていることは分かるが、エレナは少し自分の不甲斐なさを感じていた。

そして緊急時の訓練の数日前、さすがに筋肉痛のまま当日を迎えるわけにはいかないと判断したエレナは、温室にも行かず、訓練もせず、部屋でのんびりと過ごして、体を労わって過ごした。

こうしていよいよ緊急時の訓練の日を迎えるのだった。

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