期待と重責
ケインが急いで手紙を書いていると、ルームメイトが声をかけてきた。
「何も届いていないのに手紙を書いてるのは珍しいな。家族に何かあったのか?」
呼び出しのこともあり緊急の連絡でもあるのかと思ったのだろう、顔をあげて遠回しに聞いてきたルームメイトにケインは答えた。
「いや、特にないが」
手を止めたケインをルームメイトはじっと見ながら言う。
「皆心配してたぞ。教官に呼ばれて学長室って、ケインの身の回りで何かあったんじゃないかってさ」
「説教されるようなことをしたとか思わなかったのか?」
思わず軽口を叩いてしまったが、どうやらクラスメイトには心配されていたらしい。
それだけ信頼を寄せてくれていることを嬉しく思いながらも、少し申し訳なくなっていると、彼は続けた。
「ずっと一緒にいて、そんなそぶりをしてないやつにそんなことは思わないだろ。お前は俺が呼ばれたら悪いことしたんだって考えるのか?」
「いや、それはないな」
「だろう?」
「まぁ、あんまり言いたくないことだったら言わなくてもいいんだけどさ、いい話じゃないんだろうし……、慌てて手紙書いてるしさ……」
文字までは見えないだろうが、ケインの机の上に広げられているのは、戻ってから急いで筆を取って途中になっている手紙と、それを入れるための封筒である。
確かにものすごい勢いで戻るなり便箋を取りだした気がする。
話を聞いた自分も少し冷静さを欠いていたのだと、話をしながら気がついた。
「いや、悪い話ではないから安心してほしい」
「そうなのか?」
「大事で驚いているが、むしろいい話だな……」
内容を知らないルームメイトは、自分たちを心配させまいとそう話しているのではと疑っていたが、本当に良い話なら突っ込んでいいと判断したのだろう。
「じゃあ、聞いてもいいか?」
「……まだ、詳細は分からないんだ。さっきその話を受けると返事を返してもらうことになっただけで、受けることが決まったら、先方が詳細を伝えてくるのではないかという話だった」
「詳細が分からないって、細かくなくていいよ。分かってることは何だ?そんなコソコソするような内容なのか?」
「ああ、おそらく俺が受けないと言ったら立ち消える話だったはずだから、皆がいるところで確認できない内容ではあったと思う」
ケインの答えは非常に中途半端だ。
分かっていることもあるが、それは公表できるような内容ではない。
学校や騎士団にどのように伝わってるか確認してからでなければ話せない。
ケインはそう考えてどう話すか悩んでいるが、言えない良いこととは何だとルームメイトはじれったそうにしている。
「なんだよ、もどかしいな」
珍しく歯切れの悪い言い方をするケインに、彼はやはり話せないような悪いことではないかと思っているようだ。
あまり心配させてはいけないとケインは大きく息を吐いて、とりあえず学長から言われたことを伝えることにした。
「実は学校宛……、いや、学長宛かもしれないが、王宮騎士団に研修を受けに来ないかという話が出ていて、もし今回俺がうまくやれば、他の学生も研修生として見てもらえるかもしれないという話だったんだ。研修の日程も詳細も何も聞いていないし、学校側も知らないというんだが、そういうものがあるけど受けないかという確認の段階らしい……」
学長室で話した内容だけをとりあえず伝えると、彼の目が点になった。
これは良いのか悪いのか分からない。
確かに内容にもよる。
体を壊すような厳しい訓練を受けることになったら大変だ。
内容が分からないというが、もしかしたら研修という名のただ働きかもしれない。
でも呼ばれることは名誉なことだから、良いことなのかもしれない。
だから一応良いことという判断なのかと、ケインの考えを彼は深読みした。
「……なるほどな。それさ、もし明日、誰かに聞かれたら言っていいことか?」
「たぶん……。ただ研修がどうなるか分からないから、研修の内容は終わってからも話せないかもしれないけど、受けるならば学校を休むことになるだろうから、いずれ周囲にも知れるだろうし、それが早いか遅いかだ」
一度口に出したことで少し頭の中が整理できたため、ケインは再び筆を取った。
ルームメイトはケインが手紙を書き始めたのを見てベッドに仰向けに転がる。
「ま、明日は囲まれるだろうな」
彼はそうつぶやくとそのまま目を閉じた。
ケインは手紙を書き終えると、眠っている彼の邪魔にならないように灯りを消すのだった。
翌朝、授業のため教室に入ると、ケインはクラスメイトに囲まれた。
「ケイン!昨日のは何だったんだ?」
ルームメイトには話したが、それ以外の人にはその後のことを伝えていない。
予想外の出来事に苦笑いを浮かべていると、一緒にいたルームメイトが言った。
「何かさ、すごい話だった」
その一言で一斉にクラスの視線は彼に集まる。
「お前、聞いたのか?」
「同じ部屋だもんな、何がすごかったんだ?」
「詳しく聞かせろ」
彼はケインの方を見て自分が話をしていいのかと確認した。
ケインは彼に任せることに決めてうなずいた。
昨日もその確認はされている。
いざ囲まれて聞かれるとどう答えていいのか悩ましい。
言い方を間違えればただの自慢話になる。
彼はこうなることを想定してあらかじめ聞いておいてくれたのだろう。
本当に気づかいのできるルームメイトで救われるとケインはこっそり感謝した。
彼の周りには人が集まって、離れているものも含め、皆が聞き耳を立てている。
「何でも、学校を代表して王宮騎士団の研修に参加するらしい。昨日はその研修に参加するかどうか確認のために呼ばれたんだってさ。ちなみにケインが認められれば今後、学校が推薦したり、騎士団から指名が来たりして、学生が研修を受ける機会を増やしてもらえるかもしれないそうだ。まあ、王宮騎士団の試験は公開だから、この研修を受けたからって、当日有利に働くことはないけど、現役の騎士と一緒に訓練とか、もし入団できなくても冥土の土産になるよな」
王宮騎士団は国の最高峰の騎士団だ。
そんなところから声がかかるかもしれないと聞いてクラスメイトは興奮した。
ルームメイトは何となくで騎士を目指して学校に入ったが、ほとんどの者が騎士になりたくて過酷だと知りながら学校に入っている。
あまりの厳しさに挫折する者も多い中、残っているものは当然騎士を目指し続けているのだ。
そこに頂点の騎士団から研修とはいえ声がかかるなど名誉以外の何物でもない。
自分が声を掛けられたら間違いなく参加するという者ばかりが残っているのだ。
彼らは次々に、期待しているとか、頑張れという声をケインにかけていく。
あまりプレッシャーをかけないでくれと苦笑いしながら答えることしかできないが、これで堂々と休む口実ができたとケインは少し安堵するのだった。




