表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
庇護欲をそそる王子様と庇護欲をそそらないお姫様  作者: まくのゆうき


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

13/974

クリスの提案

エレナが気力を失って部屋から出てこなくなってから数日。

事態を重く見たクリスが両親に提案した。


「あの、通うことが難しいのなら、せめて見学をさせてあげたいのですがいかがでしょう?見学ならば私もついていられますし、護衛も一緒にいられると思いますから、比較的安全かと思うのです。ずっと楽しみにしていたものを奪うのですから、そのくらいはしてあげられませんか?」


通うことが無理ならせめて一目見るだけでもと考えたのだ。

もしかしたら学校に行ってみるという理由で部屋から出てきてくれるかもしれない。

そんな思いもあってのことである。

両親がしぶることも考えていたが、見学のために一日学校を見て回るくらいならいいだろうと、あっさりと了承された。

こうしてクリスの一言で、エレナは学校見学に行くことができるようになったのである。



新たな話が決まったことをエレナに伝えるため、クリスは両親との話を終えると早速エレナの部屋に向かった。


「エレナ、ちょっと話がしたいから、中に入れてもらえないかな?中に入るのは僕だけでいいから」


クリスがそう声をかけると、中でごそごそと音がして、少しドアが開いた。


「お兄様?」


エレナがドアを開けると、そこにはクリスが一人で立っていた。

少し離れたところには護衛がついているが、本当に入るつもりがないらしく、廊下の反対の壁側にいるのが見える。


「お兄様だけなら……」

「うん。ありがとう」


エレナがドアから少し離れると、クリスがドアを押した。

すると人が一人分通れるくらいドアが開く。

大人であれば通れない幅のドアをくぐり、クリスはエレナの部屋の中に足を踏み入れた。

そして忘れずに鍵をかける。



「少しは何か食べた方がいいよ。体を壊してしまうから」

「食欲がありません」

「そっか……。そうだ、まずはこれね。料理長がお菓子を包んでくれたんだ。気が向いたら食べて」


そう言って机の上にお菓子の入った袋を置くと、クリスは近くの椅子に腰を下ろした。

エレナも少し離れたところにある椅子に腰を下ろす。

クリスはエレナが座ったことを確認すると早速本題に入った。


「ねぇ、エレナ。通うのは無理だけど、見学とかしてみない?せめてどんなところか一度でも見ておいたら、話を聞いてわかることも増えるんじゃないかな?実はさっきね、許可をもらってきたんだ。それをエレナに伝えたくて来たんだよ」

できるだけ明るく穏やかな口調を心がけて言った。

しかしエレナはそれを聞いても下を向いて首を横に振るだけである。


「私は……私は、学校生活というものに憧れていたのよ。また三人で話す時間も増えるかもしれないし、同じところで同じことを学べるのを楽しみにしていたの。だって二年も待ったのよ。そのために頑張ってきたの。それなのに……」


だんだんと声がかすれていくが、エレナは涙を流さなかった。

泣きすぎて涙が出ないのだろう。


「うん。私もエレナと学校に行けなくて残念だよ。だからせめてと思ったんだけど……」


エレナはクリスの話を聞いてもうつむいたままで何も言わない。

クリスの気遣いは解るが、やはり通えないということが変わらない以上、エレナにはその行動が無意味に思えたのだ。



顔を上げないエレナの様子からクリスもそれを察したのか、今日は引き下がることにした。


「急な話だから驚いたよね。少し考えてみて。それから、ご飯は食べてほしいな」


最後にそう言って部屋を出ようとクリスがドアを開けて外に出た直後だった。

急に廊下騒がしくなり、部屋の前にいた数人が部屋の中に押し入ってきたのだ。

その数人は家具でふさがれてぎりぎりにしか開かない家具の隙間を通り抜けられた、クリスより少し体の大きいくらいの大人である。

驚いたエレナは、彼らと距離を取るために、部屋の奥にある窓のところまで走って壁を背にするとドアの方を見た。


「エレナ様、ようやく中に入ることができました。さあ、皆様心配なさっていますから、出ていらしてくださいませ」

「お兄様、これはどういうことですか?」


窓にかかっているカーテンを盾にするかのように裏側に隠れると、その端を強く握りしめてドアの方を睨みつけながらエレナが言った。


「僕は何もしてない」

「クリス様はお下がりください。お怪我をされては困ります」

「それはできないな。エレナに怪我をされても困るんだけど?」


数人の大人が中に入ったのと同時に、他の大人が入らないよう、クリスはドアの前に立ちはだかっていた。

その様子は家具の影になって見えていない。


「お二人に怪我をさせるつもりはありません。一度エレナ様を心配する国王様と王妃様のところにお連れしてお姿を見せていただくだけでございます」


クリスを説得して何とか残りの人間も中に入ろうとするが、クリスはそこを動かない。


「嫌よ!話すことなんて何もないわ」


中ではエレナが抵抗して声を上げた。


「手荒な真似はしたくないのです。どうか、我々と一緒に来てください」


中に入り込んだ一人がエレナを捕まえようと距離を詰めていく。

その間、別の人がドアをあけるのに妨げとなっている家具を静かに移動させてドアを大きく開けた。

家具がなくなったことによってドアの前に立ちはだかっているクリスの背中が見えたが、エレナはそれを見ながら悲しそうに言った。


「お兄様がここに来たのは、私にドアを開けさせるためだったのですね」

「違うよ、違うから!」


廊下の方を向いていたクリスが振り返って否定したが、エレナは首を横に振って静かな声で言った。


「もういいわ。皆、私が心配なのではなくて、王族の姫という売り物が心配なのでしょう?」

「エレナ!」


エレナは窓を大きく開け放つと、窓枠に足をかけて外に飛び出した。

そして目の前にある木に移るとスルスルと器用に降り始めた。

幸か不幸か、窓の外には誰も配置されていない。

誰もエレナが窓から飛び出していくとは考えなかったのである。



離れていたところにいた彼らからはエレナが悲観して飛び降りたように見えていた。

風がカーテンでなびいて、外に飛び出したエレナの姿を確認できなかったのである。

中にいた大人たちだけではなく、クリスも驚いて窓に駆け寄った。

そしてカーテンを全開にして窓から外を見ると、エレナは木の上にいた。

まず無事であることに安堵したが、ここから声をかけてエレナが足を滑らせては一大事である。

部屋が二階であるため、そこまで高さがあるわけではないが、怪我をさせるわけにはいかないのだ。

エレナはそんな彼らを振り返ることなく木の枝に足をかけて下に降りていくところだった。

降りて行こうとする様子に、我に返った一人が廊下に向かって叫んだ。


「エレナ様は木の上だ。急いで下に向かえ!」


その声を聞いた廊下の大人たちは急いで外に向かって走り出した。

窓の側にいる大人とクリスはエレナの様子をじっと見ている。



地面に着いた時、エレナは一瞬だけ自室の窓を見上げた。

窓から身を乗り出している大人とクリスの姿が目に入ったが、自分に追手がかかっていることが分かっているエレナは、何も言うことなくすぐに目を逸らすと建物から離れるようにそこから走り出した。

こうしてエレナは自分の部屋から逃走したのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ