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庇護欲をそそる王子様と庇護欲をそそらないお姫様  作者: まくのゆうき


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想定外の援護

ケインが騎士学校に戻り、今までの生活に戻ったエレナは、ケインに言われた通り、騎士団長を訪ねていた。

クリスからすれば訓練から卒業をしてほしかったのだが、エレナの熱が冷めていないので黙認である。

エレナが頑張れば頑張るほど、絵本の可愛らしいお姫様は遠のいていき、ケインのお姫様でありたいという本来の目的を見失っているが、本人はそんなことに気が付く余裕もなく、ただ一心不乱に努力をしていた。

ケインがエレナの側にいるために騎士団入団を目指すように、エレナはケインの側にいるために強く自立した女性にならなければという考えにとらわれていた。

ここまでくると、もはやそんな昔話など覚えていないのではないかと思わせるほどである。


「騎士団長、相談があるの」

「来年の体力測定のことでございますか?」


騎士団長もエレナが何を聞きたいのか察して、あえて話を逸らそうと言ったが、エレナは首を横に振った。


「それもあったわね。でもそうではなくて、もっと実践的なことは学べないのかしらって思ったの」


ジッセンという言葉を聞いて、最近みられる新人騎士たちのエレナ信仰の影響かと眉間にしわを寄せた。

エレナを担ぎあげて戦の旗印にしようとしているのなら、彼らをつぶさなければと密かに心に決める。


「実戦ですか?エレナ様、お言葉ですが、エレナ様が戦いに出るようなことはさせられません」


まずは頭を押さえるしかない。

エレナを戦場に出すことはないときちんと説明しようと騎士団長がそう切り出すと、エレナはきょとんとして小首を傾げた。


「戦い?そうね……そうと言えばそうかもしれないけれど、せっかく弓やナイフの使い方を教えてもらっても、本当にそういう場面に出くわした時、今のままでは何もできないと思うの。剣も素振りはできるけれど、それは本来の使い方ではないでしょう?お料理は道具の使い方だけじゃなくて、ちゃんと材料も下ごしらえとかしているし、難しくない料理なら作ることができるまでになったわ。剣も素振りのためにあるものではないでしょう?」

「ああ、そういうことですか」


エレナの言い分を聞いて安堵した。

要は武器本来の使い方ができるようになりたいという話だ。



弓は戦ならば人に向けて放つこともあるかもしれないが、狩猟などでも使われる。

戦のない平和なこの国で人に向けることはあまりない。

ちなみにこの国の狩猟方法は鳥や獣は弓で傷を負わせて、動けなくなったところで刃物を使ってとどめをさす。

そして血を抜いてから加工業者に運ぶのだ。

なお消費量の多いところには、血抜きした状態の獣がそのまま納品され、調理場で肉として加工される。

王宮もその一つだ。

エレナも一度出くわしたことがある。



エレナは動くものに矢を当てたこともなければ、対人含めて剣を誰かに打ち込んだこともない。

別に動物を殺したいわけでも人に怪我を負わせたいわけでもないが、本当に自分の身を守ることになった時、形だけ知っていても何もできないのは確かだ。


「そろそろそういうことも覚えていきたいと思ったのだけれど……だめかしら」

「わかりました。少し考えてみましょう」

「ありがとう。お願いね」


エレナが嬉しそうに言うので、何も言えないまま騎士団長はこめかみに手を添えた。


「とりあえず、今日はいつもの訓練をしましょう。今日明日で次をどうするかは決められません」

「ええ。今日は希望を伝えたかっただけだから問題ないわ。訓練にも協力してくれるって言ってくれている騎士たちもいるの。言葉通りにお願いするわけにはいかないけれど、そう言ってくれる味方がいるっていいわね。私は皆で頑張るってことをしたことがないから、そう声をかけてもらえるだけでやる気が出るのよ」


楽しそうなエレナの言葉に騎士団長の眉間に一度消えたはずのしわが復活した。

しかしこの言葉を否定することはできない。

不敬だからというよりも、エレナが学校に行くことに賛成できず、団体行動という経験を乏しいものにした罪悪感の方が大きい。

騎士団の新人たちはそんなエレナの心の隙間を埋めるのに大きく貢献しているようだ。

そう考えると問題のない今は現状維持を考えた方がいいのだろうが、先日国王からも呼び出しを受けてしまっている。

彼らがエレナに気安く声をかけているのは本当なのかという内容だ。

声はかけているが、挨拶をしているだけで、触れ合うこともないし、きちんと護衛騎士がついていると説明して何とか収めたが、騎士団長はその現場を見たことがなかったのだ。

今エレナの話を聞いて、思っているよりも交流を深めてしまっていると驚いたと言うのが本当のところである。


「エレナ様、新人の騎士たちにあなたの指導は無理です。彼らの技術は未熟ですから」


それとなく騎士団長が否定すると、エレナがくすくすと笑いだした。


「ケインみたいな答えを騎士団長から聞くとは思っていなかったわ」

「ケイン様ですか?」


騎士団長はエレナが倉庫に引きこもった騒動の時、彼に初めて会った。

学校でもクリスの護衛に近い立場でクラスメイトとして過ごし、今通っている騎士学校ではかなり優秀らしい。

そしてクリスから、彼は王宮の騎士団を目指しているとも聞いている。


「先日ケインが来てくれた時に、剣の使い方とか私に色々教えてって頼んだの。そしたらケインはこの国で一番能力の高い騎士団長という人に直接指導してもらえるのだし、自分では間違ったことを教えるかもしれないから、そういうことは騎士団長に相談するようにって断られてしまったの」


礼節をわきまえた青年なのだろう。

話をしたことはないが、エレナが説得されて騎士団長に相談に来たということが分かる。

もし彼の説得がなかったら、新人騎士に追加の訓練を頼んでしまっていたかもしれないと思うと、少し怖いものを感じた。

エレナもそのようなことをする人ではないのだが、口頭で質問くらいはしていたかもしれない。

騎士団長は少しケインという人物を気に留めておくことにした。

だが、そこで安心してはいられない。

同時に引き延ばしておきたかった訓練に舵を切らなければならないと胃がきりきり痛む。

騎士団長はその旨を提案者であるクリスに伝えなければと頭を抱えることになるのだった。

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