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庇護欲をそそる王子様と庇護欲をそそらないお姫様  作者: まくのゆうき


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クリスとケインの密談

そしてクリスとの約束の日がやってきた。

ケインは久々に王宮へと足を踏み入れる。

一時期はクリスを迎えに来るという口実で毎日やってきていたためあまり意識することはなかったが、久々に来ると緊張する場所だ。

入口に着くとすでに話が通っているのかスムーズに中へと案内された。

程なくしてクリスが案内された部屋にやってくる。


「ケイン、久しぶりだね。今日はありがとう」


座って先に出されたお茶を飲んでいたケインはお茶を置いて立ち上がって頭を下げた。


「こちらこそ、お忙しい中、お時間いただきありがとうございます」

「ケイン、頭をあげて。もともとここに来るよう寮に手紙を送ったのは私だから」


穏やかな笑みを浮かべてそう言うと座るように促した。

そしてクリスはすぐに人払いをする。



二人になったところでクリスは言った。


「なんかごめんね。うちの両親が迷惑をかけてるみたいで」

「いいえ、そんなことは……」


陛下たちがどのくらい斡旋しているのかは分からない。

おそらく直接家に来たものをすべて断り、陛下たちを経由してきた縁談が残されているのだろう。

迷惑といえば迷惑だが、これでエレナの隠れ蓑になれるならと甘んじて受けているのは自分だ。

本当に断ってよいのなら、ボイコットすればいい。


「知らないご令嬢と代わる代わる食事させられるなんて苦痛でしょう?相手の売り込みを聞きながら食事をする毎日なんて、ご飯がのどを通らなくなってしまうんじゃないかって心配になったよ」

「まぁ、申し訳ないですが、同席しているだけであまり彼らと話をしないので……」

「うん、そうなっちゃうよね……」


今回も両親はあくまで同席すればいいと言ってくれている。

皆、初めての人ばかりなこともあって、だいたい質問は似たような内容で、騎士学校での生活や、その後の就職先についてどのように考えているのかということから始まる。

さすがに何度も同じことを答えているのを聞いている両親が、自分の答えを覚えてしまうので、その話が出たらうまく両親が話をしてくれている。

だから自分はその後、黙々と食事を食べているだけなのだ。

傍から見たら話下手の寡黙な男に見えていることだろう。



「そうだ、ケイン、学校はどう?」

「はい。ようやく基礎訓練だけではなく、応用に入ったところです」


応用ということは実際に人を相手に剣を使ったり、人ではなく動物などに矢を射たり、野外での活動に備えて外で生活をしたりという実践的なことを学び始めたということだ。

クリス相手なら応用の一言で済むが、令嬢たちを相手にするとこの説明を全てしなければならず面倒だが、それで時間を使うことができるので少しありがたくもある。

ケインがそんなことを考えていると、クリスが苦笑いをしながら言った。


「そうなんだね。僕も先日体験したよ……。帰った僕の姿を見てエレナが驚いてしまってね」

「そうでしたか」


野外で泊まりがけの訓練を行ったとクリスが話すと、ケインは黙ってうなずいた。

丸一日山を駆け回っていれば泥だらけ、ボロボロになるのは当然だ。

普段のクリスから想像できない姿なので、何も知らずに見せられたエレナはさぞ驚いただろうと容易に推測できた。


「それでね、事情を説明して、次はエレナの番だよって話をしたら、訓練をますます頑張るようになってしまって……」

「なんと言えばいいのでしょう、エレナ様らしいと言いますか……」

「そうなんだよね。正直に言うとまだ数年先の話なんだけど……」

「女性は成人されて落ち着いてからが一般的ですからね」


貴族女性に付き人のいない生活を耐えられる者は少ない。

だから有事の時のために、一人、外で夜中に助けを借りずに過ごすという訓練をすることがあるのだが、それに耐えられるのは、その必要性を理解でき、ある程度の対処ができる成人になってからというのが一般的だ。

しかも今、この国は非常に平和であり、その必要を感じない人も増えていることから、訓練を行わない令嬢も増えていると言われている。


「でもね、このままだとエレナが催促してきそうなんだ。しかも僕と同じ訓練内容を要求する気がする」

「そんなに気合いが入っているのですか?」

「うん。かなり……。エレナはどうも向上心が強すぎて、難しい課題を欲しがるみたいなんだ」


訓練場に頻繁に通っているという話は手紙に書いてあったので知っていたが、話を聞くとそこまでエレナが要求しているのかと驚かされる。


「だから近いうちに、緊急時の訓練に入ることになりそうなんだ」

「それは通常ならば女性は成人してから行うものでは……」

「そうなんだけどね。エレナがあまりにも戦闘訓練で上を目指そうとするものだから、そこから目を逸らさせるのに手を焼いているんだ。ならいっそ、一度緊急時の訓練をしてみてもいいんじゃないかって話になってるんだよ。もし今回リタイアしたとしても、エレナには通常の成人女性より重たいサバイバルの訓練が待っているからいいかなって」

「どういうことですか?」


獲物を確保したり、森で雨風をしのげる場所を自分で探したりして、とにかく敵から逃げながら生き延びるための訓練をするのがサバイバルの訓練である。

言葉の定義が間違っているのではないかとケインは思わずクリスを凝視した。

そんなケインにクリスはクスッと笑ってから言った。


「内容は軍の訓練で行うものの簡易版。騎士たちも野営するでしょう?エレナもそれはもともとやることにはなっているんだ。有事訓練としてね」

「あの……護衛などは……」

「どちらの場合も訓練だからもちろん付くよ。遠くから見守る形でね。実践前に騎士達が下見してくれているから、今回は一人で、外で一夜を過ごせるのかを確認する通過儀礼みたいなものにするつもりだけど、エレナは最初からサバイバルの方に挑むつもりらしくてね。男性と同じで、獲物を取ったり、夜営場所を探したりするところから始めようと真面目に考えているようなんだ」

「エレナ様は狩りもなさるのですか?」


そんな話は聞いたことがない。

そもそも狩りをする女性など、本当に限られている。


「騎士団の訓練場に通って、ナイフと弓が使えるからね。槍や盾はさすがに無理だけど、かなりの腕前らしい。狩りはさせたことないけど、前に調理場で肉をさばいているのを見ていたというし、あれから時間が経っているから、もしかしたらできるようになっているかもしれない……」

「そうですか……」


エレナは時々とんでもない行動を起こす。

行動力のありすぎるエレナのことだから、できるようになっていると言われても納得できてしまう。


「エレナのことが心配?」

「はい……もちろん心配です」

「もしかして、訓練の付き添いがしたいとか思ってる?」

「……」


黙りこんだケインにクリスは笑みを浮かべて言った。


「どうしてもっていうなら、勝手に忍び込まれても困るから、口を利いてもかまわないけど、そうなるとケインも夜営になるよ?まだ学生なんだし、訓練で体験しただけでしょう?大丈夫?」

「問題ありません」

「わかった。でも、周りにもエレナには内緒ね。まだ日程とか決まってないんだ。できるだけ先延ばしにしたいから、騎士団長と何とか頑張って気をそらせているところだしね。それに調整も必要だから、決まったら連絡するよ」


今回はこの話をするために人払いをしたようだ。

騎士にもなっていないケインを、近衛騎士と騎士の精鋭だけに与えられる任務に同行させようと言う話だ。

コネを使ってそのような場に立ち会ったとなれば反感を買うのは必至である。

ケインは黙ってうなずいた。


「あの……そこまでして、エレナ様は何を目指しておいでなのでしょう?」

「そうだね、理想の女性になりたいそうだよ」

「理想ですか……」


エレナの理想、ケインには想像がつかないらしい。

考え込んでいるケインにクリスは尋ねた。


「ケインから見て、どう思う?」


ケインは少し考えて答えた。


「このままですと、私のライバルになってしまいそうですね……」

「ライバルか。それならケインに付き添いは頼めないな。訓練でライバルに見張られるなんて、命がいくつあっても足りないからね」


クリスが小首を傾げて言うと、ケインは慌てて言った。


「そんな、不意打ちのようなことはいたしません。決して……」

「もちろん、そんな姑息な真似はしないと信じているよ」

「はい」


ケインの返事を聞いてクリスは大きく息をついた。


「誰かさんの言っちゃったことがきっかけなんだけどな……」


クリスはぽつりとつぶやいたがその声はケインの耳に届くことはないのだった。

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