帝都
次で兄妹が出てきます。
数日前ーーーーー
「うーん、どうやって帝国を滅ぼそっか」
「殺っちゃえばいいのよ、全員!」
「けどやっぱり一番最初はあいつ、じゃないか?」
「そうね、お母さんを殺したあいつ...」
「あいつらだけは只殺すんじゃつまらない。もっと絶望をみせてやらないと。でも僕たちが帝国を滅ぼしたらきっと関係ない人がたくさん死ぬんじゃないかな。」
「いいじゃない、別に。あんな奴ら、どうせみんな悪魔に決まってるんだから。悪魔は殺さないと。ね?お兄ちゃん」
「そうだな。みんな殺っちゃえばいいか」
【帝都近郊メルトリア区内、国際ギルド・帝都メルトリア支部】
「おい聞いたか?近々軍は本格的にアークロンド王国に攻め入るんだってよ。また税も上がるらしい。しかもよ、軍警察の奴ら、穏健派の金持ちやら権力者やらを次々に無茶苦茶な言いがかりをつけてしょっ引いてるらしいぜ?」
ギルド支部にある酒場で飲んでいる二人の男は声を潜めて話していた。
「マジか。いよいよきな臭くなってきたな。皇帝様は、世界征服でも考えてるのかねぇ?」
「さぁな。だが度重なる増税と強権発動で帝都の雰囲気はますます暗くなってくばかりだ。今じゃ政府の悪口なんて大っぴらにしゃべったら何されるかわかったもんじゃねぇぞ。俺は近々この国を出ようと思っている。」
「どこへ行くんだ?」
「さあな、どこか遠くさ。近くじゃ将来帝国が攻めてくるかもしれないからな。お前も出てくんなら国境が封鎖される前のほうがいいぜ。面倒なことに巻き込まれたくなかったらな。なんならお前らも一緒に行くか?」
「そうだな、考えとくよ。いつ出発するんだ?」
「建国祭の前には出ていくつもりだ。」
「そうか、もう一か月しかないな。」
「急なことだしな。無理にとは言わねぇ、一週間後どうするか聞きに来るってのはどうだ?」
「分かった。その時までには考えておくよ。」
「ここから動けねぇ帝国臣民の連中はかわいそうだけどな。俺達には関係ないことだ。」
【帝都中心部、帝国軍情報部諜報機関II3本部】
「所長。各方面への工作、大方は順調に進んでおります。しかし...」
「なんだね。はっきり言いたまえ。」
「はい、二つほど問題がありまして。一つ目は例の第一研究所から脱出したと推測される二人がもう一週間もたつというのにどの町にも姿を現していないようでして。やはり囲っている何者かがいるのかもしれません。」
「二人の顔は割れているのか?」
「はい、三か月前の報告書には似顔絵含めて人相まで。」
「そうか。一応引き続き調査を続行せよ。だが正直今はそっちはそこまで重要ではない。して、もう一つの問題とは?」
「はい。実はメルトリア区に潜入中の諜報員がたまたま『ホワイト』と名乗る怪しい女が情報を集めていたのを耳にしたようでして。」
「ホワイトだと!?まさか奴か!?」
「いえそこまでは。しかし仮に奴だとしたら少々迂闊すぎる気もします。そもそも『ホワイト』を名乗って活動しているのも不自然です。まるで我々に存在をアピールしているかのようです。」
「偽者、もしくは罠、ということか。奴の目的がわからないな。情報だけは集めさせろ。ただ深追いはするなよ。こちらが指示するまでは絶対に手を出すんじゃないぞ。それからヘルマンから何か報告があったらその都度俺に言え。」
「了解しました」
ふぅ。
II3の所長、ライはため息をついた。
『ホワイト』。神出鬼没で誰もその正体を知らない。年齢不詳。ただし若い女であるとのうわさが多い。他にも獣人族であるとかエルフであるとか、片目が傷で開かないなど。どれも根拠のない話ばかりだったが、それでも『ホワイト』という人物について存在を知っている者すらほとんどいない。
そもそも何故『ホワイト』と呼ばれているのか。本人が名乗ったのか、それとも誰かがつけた名前なのか。いつから活動しているのか。公式記録にも残っていない、ほとんど伝説か亡霊のような存在だ。
それなのに各国の諜報機関や軍上層部、地下組織など裏の世界ではそこそこ有名である。
ホワイトが何を目的として動いているのかを知る者はいない。
だが少なくとも、ライの知っている世界の中では。その上で業界共通の認識として、ホワイトが姿を現した時は大抵ろくなことが起こらない、という物があった。
アークロンド王国への侵攻が始まるこの局面で、さらにごく一部の者しか知らないあの計画の第二段階に移行している現時点でのホワイトの出現。ライはいやな予感がするのであった。
このまま陛下には帝国すべてを支配するだけの力を得てもらわなければなりません。さしあたって陛下の威信を示すため帝国軍の総力をもってアークロンドを、そして一気に...
【帝都中枢ノブル特区、高級住宅街】
帝都最中心部にあるノブル特区、その中でも皇城に近い半分の土地には、広い庭付きの高級住宅街が広がっている。そこには各界の権力者や政府幹部、軍関係者の重鎮など、とにかく権力者の家が並ぶ。今、その中のとある一軒の庭で、下卑た笑みを浮かべるものがいた。
「どうでしょう、今回もなかなかの品ぞろえですぞ!」
「ああ。早速見せろ。」
「御意に」
そこにいたのはある有力商人と、ソフィアを殺したあの男である。商人が部下に目配せを送ると、数人の部下が動いて馬車から全裸状態の女を連れて来る。
ロープで縛られた彼女らは、全員死んだ魚のような目をしていた。
「うーん、なーんかどれもパッとしねぇなぁ。もっと生きのいいのは居ねぇのか?」
「これは申し訳ありません。ギルバート様のお好みに合わせて用意したつもりでしたが...そうだ、それなら...おい、九番を連れて来い。」
「なにすんのよ!離しなさい!」
連れてこられた女をギルバートと呼ばれた男はジロジロと見る。
「ふーん、面白れぇ。こいつを買おう。いくらだ?」
「毎度ありがとうございます。金貨にて三十枚となっております。」
「この!離しなさい!」
「ひゃっはは!強がってんのか?いいなぁ!!嫌いじゃないぜそういうの!俺はなぁ、お前みたいな女の心を折るのが大好きなんだ!頼むから俺を楽しませろよ!」
この男、ソフィアを殺したギルバートはこれまでに何人も奴隷を買ってはすぐに壊し、そのたびに新しい奴隷を買っていた。
だが狂っているのはこの男だけではない。帝都では度が過ぎた軍拡によって軍関係者がどんどん権力を持つようになり、さらに重税に苦しむ帝国民と対照的に「搾取する側」である権力者の性格はゆがんでいく一方である。
新たな奴隷が買われ三日もたつ頃にはすでに壊れ、死人同様と化していた。
そんな様子をギルバート邸で仕事をする執事、ジェームスは複雑な気持ちで見ている。若い娘が犯されているのに自分はただ見ているだけ。本当にこれでよいのだろうか。
コンコン
ある日、夜も更けたころ、ギルバート邸の玄関にノックの音が響く。
「はい。こんな遅くにどちら様でしょうか?」
ジェームスが扉を開ける。
「「こんばんわ!」」
そこに立っていたのは二人の大人の男女、なのにどこか幼さを彷彿とさせる。
「何か、ご用ですかな?」
ジェームスは尋ねる。だが二人は不気味な笑みを浮かべて言った。
「「さようなら」」
なかなか視点が安定しない、、、