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キミイロ  作者: 武地
7/18

第6話 原宿

 土曜日、午後1時50分。


約束の時間よりも早く待ち合わせ場所に着いたのなんてどれくらいぶりだろう。


珍しく朝から目が覚めた。多分気持ちがソワソワしていたせいだと思う。


正直なところ、この前智明に言われたように千夏は僕のタイプではない。


それなのに、何故彼女に会うのにこんなにもドキドキが抑えられないのか、この時はまだ自分でも理解できないでいた。


早めに準備を済ませ、部屋を出てバイクにまたがった。


僕は普段はバイクでの移動が多い。


学校に行くのもそうだし、ちょっと遊びに行くのにもバイクで出かける。


東京では、車よりバイクの方が何かと都合がいいし、大学生に車を買う金なんてない。

どこか別の場所へ移動する時のために、もう一つヘルメットを用意して家を出た。


家から原宿まで、環状7号線から山手通りを通るルートで向かい、家から40分程で到着した。


バイクを駅から少し離れたところに置いて、急いで駅に向かって千夏を待った。


そして1時55分。時計をチラッと確認して、タバコを吸おうと口にくわえた時、「ワタル君。」と僕を呼ぶ声に、後ろを振り返った。


そこには、ワンピースに薄めのカーディガンを羽織った千夏が立っていた。初めて太陽の下で見た千夏は、透き通るような白い肌がキラキラと光っているようで、僕は千夏の輝きに見とれてしまい、一瞬身動きが取れなくなった。


「こんにちは。」と言う千夏に、あっけに取られた表情のまま僕も「こんにちは。」と返したけれど、その声がちゃんと口から出ていたのかは僕にもわからない。


それでもまだ千夏の輝きに見とれていると、「どうしたの?」と千夏が優しい笑顔で話し掛けてきたので、僕は慌てて「いや、なんかほら、キラキラとこう・・・」と、つい思っていた事が口から出てしまい、余計に慌てて「いや、なんでもないなんでもない。いやー、いい!天気が!すごくいい!」とごまかした。そんな僕を千夏は相変わらずの優しい笑顔のまま見ていた。


 僕達は取り合えず軽くお茶でもしてから買い物をする事に決めた。表参道沿いにあるカフェに立ち寄り、僕がコーヒーを頼み、千夏はカプチーノを頼んだ。席について、コーヒーを飲みながら、ようやく落ち着いて僕は話し始めた。


「なんかさ、この前は勢いで原宿で!とか言っちゃったけど、原宿でよかった?他の場所がいいなら今からそっちにいってもいいけど、どうする?俺バイクで来たし、メットも2つあるから。」彼女の趣味もろくに知らないのに、いきなり僕がよく行く場所に誘ったことを少し後悔していたので、最初に千夏に聞いてみた。


「原宿で平気。私、原宿に来るのすごい久しぶりだから、色々見て回りたいかな。」そう言いながらカプチーノを飲む笑顔の千夏を見て、僕は少し安堵した。


 カフェをでて、僕達は表参道を下り、明治通りを越えて原宿の裏道、通称裏原に入っていった。取り合えず、僕が知っている服屋とか雑貨屋を手当たり次第に回った。


今にして思えば、僕の入った服屋は、あたり一面ボロボロの古着に囲まれているような店が多く、千夏にはとても不釣合いの店ばかりだった。それでも千夏は笑顔のまま店内を歩いたり、雑貨屋に入っては、これかわいい、と言ってどこかのスポーツチームのマスコットのような小さい人形を手にしては、楽しそうに笑顔で僕に見せてきたりしていた。こういうときの千夏は本当に子供のように無邪気に見えて、そんな姿がより一層僕の心を惹きつけて行った。


 ゆっくりと、千夏の歩幅に合わせながら色々な店を回り、気がつくと空はすっかり暗くなっていた。時間は午後7時。


「千夏ちゃん千夏ちゃん。もう7時になるけどどうする?どっかで飯でも食べる?」

「ホントだ。もうこんな時間なんだ。なんかあっという間だったね。私、夕飯食べてくるって言って来なかったから、今日は帰るね。ホント、どうもありがとうございました。」そう言って手を前に組み、僕に向かって軽くお辞儀をした。

「いやいや、こちらこそ付き合ってもらってありがとうございました!なんか申し訳なかったけどね。俺の行きたいところばっかりで。」

「ううん、楽しかった。私が来た頃とはだいぶ変わっていたし、すごく楽しかった。ガイドの人も面白いお兄さんだったし。」

「それはそれは楽しんでいただけて感激でございます。次回もワタル観光をご利用願います、お姉さん。」


 そんなことを話しながら僕達は原宿の駅に向かった。駅に着いて、改札の前まで彼女を送ると、僕は千夏に「あのさ」と切り出した。


「よかったらでいいんだけど、迷惑じゃなかったら、また来週遊ばない?」そう言って千夏を見ると、優しい笑顔で彼女は、是非、と応えた。


僕も笑顔で「ありがとう。」といい、彼女に大きく手を振った。


彼女も手を振り、くるりと振り返って人ごみに紛れながら駅へ消えていった。その消えていく背中を、僕は最後まで追い続けていた。


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