第4話 帰路
世田谷には、京王井の頭線に乗って下北沢まで行き、そこから今度は小田急線に乗り換えて行く。
僕達は渋谷駅から井の頭線の電車に乗り込んだ。時間も時間なので、車内はすごく混み合っていた。僕達は電車の入り口付近に立ち、まずは下北沢まで向かった。
「あ、そうだ!あのさ、よかったら連絡先教えてよ。」そう言ってズボンのポケットから携帯を取り出した。
「連絡先?」千夏は僕に聞き返してきた。
「そう、連絡先。こんなアホな奴が嫌じゃなかったら、今度遊ぼうよ。だからその時の為に、携帯番号教えて欲しいんだけど。」
すると千夏は、予想しなかった言葉を返してきた。
「携帯・・・。実は、私、携帯電話持ってないの・・・」
「え!マジで?」少し大きな声で言ってしまったので、周りの乗客たちが数人僕の方を見た。僕はすいません、というように軽くクビを上下に動かした。
「またまたぁ、今時の子で持ってない人いないでしょ!それともあれ?もしかして俺って面倒くさいとか?だから番号教えたくないとか?」
「そうじゃなくて、私、本当に持ってないの。友達も少ないし、遊びに出歩くこともないから、持っていてもかかってこないだろうし。だから携帯持たないの。」
「まじでか!じゃあ今日優子達と待ち合わせは?平気だったの?」
「今日は優子が最寄駅まで来てくれたから、一緒に行ったの。だから平気だったけど・・・。」
「そっかぁ・・・。」と言って僕は黙った。
電車はすぐに下北沢についた。乗り換えの為の通路を通り、小田急線のホームまで行くと、ちょうど電車がホームに入ってきたところで、僕達はその電車に乗り込んだ。
その電車でも、僕は黙っていた。というより、考えていた。考えて考えて考え続けているうちに、電車はいつのまにか千夏の家の最寄り駅についていた。
「あ、ここ。着いたよ。」そう千夏が言って僕らは慌てて車外に出て改札へ向かった。多分電車の中で、僕が無言だったことに、千夏は嫌な思いをしたかもしれない、そんなことを思いながら改札を出て、千夏と並んで歩きながら、僕はこう言った。
「解った!じゃあ、連絡取れないから、今のうちに決めちゃおう!そうだよ!そうすればよかったんだって!いやー、こんな簡単なことがすぐ出てこないのに、最後には出ちゃうあたりやっぱ俺天才!ね?」
そう言うと千夏は「え?」と言い、「今決めるって?」と続けた。
「だから、今度遊ぶ日を今決めちゃおう!よし!今度の土曜日、千夏ちゃん忙しい?」
「今度の土曜日・・・。何も予定はないけど・・・」
「決定!じゃあ今度の土曜日に原宿駅の青山通り口前に午後2時で!」
「え?2時に原宿?」
戸惑ってる千夏に僕は言った。
「合コンはその場の付き合いだけじゃなくて、次もあるから楽しいんですよ、お姉さん。」
そういうと千夏は、ようやく今までの笑顔に戻り、クスクスと笑いながら「わかった、じゃあ土曜日に。原宿で。」そう言って千夏は帰路に着いた。
去って行く千夏の背中に大きな声で「バイバーイ。」と叫んだ。
ビックリして振り返った千夏に、大きく手を振ると、すぐに千夏も手を振って「バイバイ。」と笑顔で応えてくれた。
そしてまた振り返り去って行った。僕も振り返り、改札を抜けホームに向かった。
途中で「よしっ。」と言う声と共にガッツポーズが出ていた。