第1話 始まり
6年前の春、大学3年の僕は立派なダメ大学生になっていた。学生の本分は学業である、という言葉を聞いたことはあるけれど、実際その言葉を信じている大学生なんてほんの一握りにも満たないと思っていた。当然僕も学業には一切専念せずに遊びに集中力を費やしていた。深夜徘徊、酒、タバコ、金髪にピアス。ピアスにいたっては耳だけでは物足りず、へそにまでつけてネタにしていた。そしてなんといっても東京に来てから一番力を注いだのは、女。女。女。合コン。合コン。合コン。
東京に来てすぐに彼女が出来た。同じ学部の同級生で、活発でそこそこ可愛いく、愛想もいい。仲良くなったばかりの友人から彼女が僕に気がある様なことを言っていた、というのを聞いて、なんとなくノリで告白、付き合うことになった。が、これがまたなんとも面倒くさい、というかヒステリック、という女の子で、束縛も激しい。まだまだ子供だった僕は次第に彼女の監視が疎ましく思うようになり、わずか2ヶ月の付き合いで別れる事になってしまった。
そのことが原因、という訳ではないと思うけれど、それからの僕は特定の彼女を作ることはなく、合コンやクラブで知り合った女性と、なんというか、その日限り?ワンナイト?と言った感じで、青春を謳歌していた。もちろん相手の女性全員が全員、その日限りで済まそうと思っている人ばかりではなく、時には付き合ってほしいだとか、彼女にして、なんて事を言われたりもしたけれど、そこは僕の巧みな話術(本当は見苦しい言い逃れ)でヒラヒラとかわしていったのである。
そんな男として最低極まりない僕に、入学以来常に行動を共にしてきた、これまた最低を極めた親友の智明がいつもの調子で挨拶してきた。
「わーたるー、おーはよー。」大きな声で手を振りながら近寄ってくる。大学の構内なので、数人が僕の方をチラチラと見ている。
「智明おーっす。随分珍しい時間に学校にいるじゃん。何?ついに退学でもするの?」
「違うって。来週すぐにテストあるだろ?だから、朝の早い時間に学校にきて、真面目で優しい同級生に手当たり次第いろいろお願いすんの!ワタルも同じでしょ?」
「同じ。やっぱ考える事は一緒だな、馬鹿同士。」
「だな!そんなことよりさ、この前の合コンの子、どうした?『愛した』?」
「この前の子・・・、あぁ、あの子ね。何言ってんだお前、たまには俺だって純粋に女の子と遊んだりす・・・『愛した』。」
「出た!またかよ!この!馬鹿!ろくでなし!ワタル!」
「人のこと言えないだろ!お前もあの時かわいい子持ち帰ってたじゃねーかよ!」
「ハイ!私、しっかりと『愛させて』いただきました!」
ちなみにここでの『愛した』の意味は、まぁ、そういうことである。
「でね、今週の土曜なんだけど、またまた合コンを開きたいと思います!拍手!」
「まじで?さすが!智明隊長!人脈が我々二等兵とはちがうよな!で、どんな子達?」
「優子覚えてるだろ?半年くらい前に合コンした。あいつがまた合コンしようって昨日連絡してきてさ。多分同じ大学の子達だろ。あいつ女子大だから期待大だな。前回もみんな可愛かったし。」
「あぁあの子か。覚えてる。確かに可愛かったな!決まり!俺参加で!人数は?」
ちなみにこのとき僕は自分のことを『俺』と呼んでいた。若者なら当然と言えば当然だと思う。
「4人で行くからイケメン4人集めてくれってさ!」
「そっか、じゃあ人選は隊長にお任せいたします!決まったらよろしく!」
「んー任せて下さい!」
これでまた、その日限りで女の子と・・・なんて考えて週末を待った。