第11話 部屋
部屋に着いて僕は飲み物がない事を思い出し、近くのコンビニに買いに行くから少し部屋で待つように言った。
走ってコンビニに行き、取り合えずウーロン茶を2本買い、急いで部屋に戻った。部屋に入ると、千夏は僕の部屋を見渡していた。
「イヤー、実は昨日大掃除して、やっとここまで片付けたんだよね。ほんと疲れた、ゴミが多くて多くて。」と言って彼女にウーロン茶を渡そうとするとベットの上を見ながら「そんなに散らかってたの?じゃあ、もしかしてこれも捨てようとしてたのかな?」と言って振り返った千夏は、イタズラをする時の笑顔で何かを僕に差し出した。
『巨乳大作戦』と書かれたパッケージには、裸の女性が何人も写っているエロDVDだった。
しまった!と思った。
昨日掃除をしていた時、たまたま智明から借りていたDVDが出てきて、そのまま捨ててもよかったのだけれどなぜか仏心で返さなきゃと思い、置いておいて後でどこかに隠そうと思って忘れていた。
僕は慌てて千夏からDVDを奪い取り、裸足のまま部屋を出てゴミ捨て場にそのDVDを全力投球した。恐る恐る部屋に戻り、千夏の顔を見ると、まだイタズラな笑顔をしていた。
「いや、ほら、やっぱ男ってさ、誰でもね、こうね、見るもんだよ。そう!見ない方がおかしいと私は思います!」
「ふーん、そっかー、ワタルは巨乳が好きなんだ?」
「いやいやいやいや、全然、全然!そもそもあれは智明の物だし!俺は全然、巨乳なんて全然!どっちかって言うと俺は千夏みたいな小ぶりな方が大好きかなっていう・・・。」
「小ぶり?」
「いや、違います違います、その、んー、本当に申し訳ございませんでした。」
そう言いながら、心の中で「智明、殺す。」とか考えていた気がする。千夏はフフフ、と笑いながら「怒ってないよ。」と言った。
それから僕達はいつもの様に話しをしたり、千夏が僕の部屋を見渡して、CDやジュースのおまけに付いてくるフィギュアを手に取ったり、そして、また話しをした。僕の部屋にはソファがなかったから、ずっと床に2人で座りながら話していたけれど、時折崩した足の向きを変えたりする千夏の仕草を見て、次に千夏が来る時までにはソファでも買っておかなきゃなと思った。
「そろそろ帰らないとじゃない?いつのまにかいい時間になってた。」そう言って時計を見せた。8時50分だった。
「ほんとだ、じゃあ、そろそろ帰ろうかな。」そう言って立ち上がり「今日はお邪魔しました。」と言って頭を下げた。
駅まで千夏を送る途中、歩きながら僕は千夏に話をした。
「あのさ、今まではほら、俺が行きたいところとか、俺のよく行く場所に行ってたじゃん?今度はさ、千夏の行きたい所に行こうよ。」
「え?うん。別にいいけど、どうして?」
「うん、実は今日さ、千夏が遅れた時、寄り道でもしてるのかなって思って千夏が立ち寄りそうな場所を考えたんだけど、出てこなくてさ。それで、俺ってまだ千夏のこと色々と知らないことが多いなって思って。だから、千夏のことをもっと知りたいって思ったから。」
「そっか、うん。わかった。じゃあ明日は・・・」
「あっと、ストップ!ごめん、明日はちょっと行きたい所があるから、あさってからで!」
「え?うん。じゃああさってからね。考えておかなきゃ。」
「考えておいてね。」
「うん。」
「じゃあ明日は一応、新宿で。よろしくお願いします、お姉さん。」
「了解しました、お兄さん。」
そう言って駅まで送り、電車に乗って千夏は帰っていった。少しバタバタはしたけれど、これが始めて千夏が僕の部屋に来た時の事だ。