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悪役令嬢は反省しました。  作者: 空木ちとせ
5/15

5、ランチタイムです。

 さて、これからどうしようか?

 私は中庭でお弁当を食べながら考えていた。

 今まで利用していた学食は、ユナ令嬢達と一緒になってしまう可能性が高いので、今日からお弁当を包んで貰うことにした。

 公爵家お抱えの料理人が作ったお弁当なので、学食にも引けを取らない美味しいものである。


 それはそうと、エトゥーナが今考えなくてはいけないのは、今後の自分の身の振り方だった。

 まだ正式な決定はされていないにしても、王太子妃になる未来はなくなっていると考えて良いと思う。

 であれば、行き着く先は修道院が、原作のゲーム通りの流れのはずだった。

 けれど、前世の私には叶わなかった夢があった。

 それは、図書館の司書になるというものだった。

 前世で本が大好きだった私は、図書館の司書になりたいと思っていたのに、

 公務員の求人倍率の高さに早々に諦めてしまい、結局無難な一般職に就いたのだった。

 前世では、何かの折に図書館に行くたびに、大学時代にもう少し頑張って、司書の資格を取っておけば良かったと後悔したものである。

 卒業まであと半年、今から資格を取るのは難しいが、本気で頑張りつつ、公爵家のコネも使えば、司書になるのも夢ではないと思う。

 修道院で神に祈り続ける生活も悪くはないのだけど、

 ここは1つ、夢の本に囲まれた生活のために、今から努力するのも良いのではないかと思っていた。


「あ、エトゥーナ様、こんな所にいらしたのですね!」

そんなことを1人静かに考えていた私に、向こうからユナ令嬢が近付いてきた。

「ユ、ユナ・ブライトニング男爵令嬢!?」

突然のことに、私は噛んでいた鴨のテリーヌで噎せそうになりながら、なんとかユナ令嬢の方を見た。

 ユナ令嬢は、今回は1人で取り巻きも連れず、手元にはサンドウィッチの袋を持っていた。

「良かった、学食にいらっしゃらなかったので、お探ししたんです。」

ユナ令嬢は相変わらず微妙な敬語で話しかけてくる。

 以前の私だったなら、ユナ令嬢のその半端な敬語が気になって注意していたところだったけれど、前世の記憶を思い出した私には、何も気になるところはなかった。

「私をわざわざお探しになられていらっしゃいましたの?」

私は鴨のテリーヌをなんとか飲み込むと、ひきつった笑顔で聞いた。

 何故苛められていた側が、苛めていた人間を探すのかなど、嫌な予感しかしなかったからだ。

「お隣、よろしいですか?」

「え?」

そう言うと、ユナ令嬢は私からの承諾の返事を聞く前に、私の隣にストンと腰を降ろした。

 いやいやユナ令嬢、貴女そういうところですわよ、目上の身分の令嬢の返事を待たずに行動するのは、失礼に当たりますわよ、と、以前の私なら窘めたところだったけれど、私はひとまず言葉を飲んだ。

 ユナ令嬢は、いそいそと、持っていたサンドウィッチの包みを開いている。

 どうやら私の隣で一緒に昼食をとりたいようだ。

 いやいや、どんだけ鋼の心臓なんですか、あなたの隣にいるのは、謝ったとはいえ、ずっと貴女を苛めていた天敵ですのよ?

 と思ったけれど、私はとにかく驚き過ぎて、口をポカンと開けたまま固まってしまっていた。

「エトゥーナ様、私、ご存じの通り、少し頭がよろしくありませんので、朝にエトゥーナ様がおっしゃられた意味が今一つ理解できなくて、今まで考えていましたの。」

ユナ令嬢は、たまごサンドをかじりながら、ポツポツ話し始めた。

 ていうか嘘!私の言葉の意味が分からなかったって言ってるの?今この娘!?

 しかし私からしたら、ユナ令嬢の爆弾のような告白にビックリである。

 私の一世一代の謝罪に対し、

 ちょっと何言ってるかわからないですね?

 と返してきているということなのだ。

 ごめんなさい、って!言ったんですよ!!

 と叫びだしたいのを堪えて、私はユナ令嬢の続く話を聞いた。

「それで考えて、恐ろしいことに気付いてしまったのですが…!」

「え…?」

私からしたらユナ令嬢の予想外の言動の方が、よほど恐ろしかったけれど、ひとまず口は挟まないでおいた。

「朝のお言葉の意味、あれってもしかして、エトゥーナ様は、もう私に話し掛けてきてくださらないって意味になるのでしょうか!?」

たまごサンドを強く握りしめながら、ユナ令嬢は深刻な顔で、そう聞いてきた。

「え?あ、まあ、そう言う意味にもなりますかしら…?」

ユナ令嬢の手の中でひしゃげていく、哀れなたまごサンドから視線を反らせないまま、私は確かにそんな一面もあるな、と返事をした。

「ああーー!!やっぱりそうなんですね!!」

大声を出したユナ令嬢の手の中で、たまごサンドが完全に握り潰された。

 たまごサンド可哀想!!

 私は自慢ではないが、食べ物が無駄になるのを見るのが何より苦手という性格をしているのだ。

 ユナ令嬢の指と同化してしまっているたまごサンドに、泣きながら線香をあげたいぐらい、私はショックを受けていた。

「ついに、ついにエトゥーナ様も、私を嫌いになってしまわれましたのね…、」

ユナ令嬢は泣いていた。

 ついにも何も、たぶん最初から『エトゥーナ』は『ユナ』を嫌っていたかと思うんですが…?


私は未知の生命体である『ユナ令嬢』の気持ちをまったく理解できず、ただひたすら潰されたたまごサンドについて、気にしてばかりいた。

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