2、別れを告げようと思います。
私は体調不良ということで、学園を早退することになった。
心配する両親に見守られて、ベッドに入り、医者を呼ばれる。
エトゥーナの屋敷は、公爵の名に恥じない広く立派な作りをしていて、エトゥーナの自室のベッドもふわふわだった。
私の頭の中には、煎餅布団で寝て、仕事の合間に乙女ゲームをしていた前世と、このゲームの中でのエトゥーナとして過ごしてきた今とが交錯して、ずっと混乱していた。
知恵熱を出した私は、医者の処方してくれた薬を飲みながら、結局丸一日寝込むこととなった。
翌朝目覚めた私は、妙にスッキリとしていた。
そして、自分の置かれた立場をしっかりと把握することができた。
私はキュリア学園に通う三年生、17歳。
このトールポア王国の公爵令嬢であり、アメルハルト王太子殿下の婚約者でもある。
しかし、アメルハルト王太子は、半年前に編入してきた、ユナ・ブライトニング男爵令嬢と最近良い感じになってきている。
私、ことエトゥーナ・オプティナイトは、婚約者であるアメルハルト王太子殿下に色目を使って近付くユナ令嬢のことが許せない。
日々嫌味を言ったり、様々な嫌がらせをしていた。←イマココ
この後、いくら王太子に窘められても、嫉妬に狂ったエトゥーナは聞く耳持たない。
次第に王太子はエトゥーナに愛想を尽かし、優しいユナに心惹かれていく。
そして半年後に控えている、卒業パーティーにおいて、
私、エトゥーナは、婚約者である王太子にエスコートすらして貰えず、
ユナをエスコートしていた王太子は、パーティーの始まりにおいて、エトゥーナに婚約破棄を言い渡すのだ。
更に後は卒業だけであったのに、エトゥーナは学園の卒業資格さえ取り消され、中退扱いで学園を追い出されるという憂き目に合う。
公爵令嬢でありながら、一方的に婚約を破棄され、学園を退学させられるという汚点を残した娘を、オプティナイト公爵は許せずに勘当する。
後は修道院で一生を終えて終わりである。
「これが私の人生か…、」
キュリア学園の卒業パーティーとは、完全に王国主宰の正式な舞踏会のようなものだ。
そんな大切な場所で罪を糾弾され、婚約破棄され、学園からも社交界からも追放される。
ゲームで見た時も、なかなか酷いシーンだと思ったけれど、悪役令嬢にはふさわしい末路にも見えた。
自業自得そのものだったからだ。
けれど、いざ、自分がその立場になると、とてもメンタルが持たなかった。
いっそ死んでしまいたいと思うほどに辛い。
けれど確かに、私が嫉妬心から、ユナ令嬢に嫌がらせをしたのは事実なのだ。
その事実から目を背けて、まるで被害者のような顔をして悲しんでいてはいけないだろう。
私が今しなくてはいけないことは、まず謝ることだった。
嫌がらせをしてしまっていたユナ令嬢に。
そして、アメルハルト王太子殿下には、こちらから婚約破棄を申し出よう、
この後心置きなくユナ令嬢と婚約できるように。
そう、心に決めた時、侍女のミリナが部屋に入ってきた。
「エトゥーナお嬢様、申し訳ありません、アメルハルト王太子殿下が、お見舞いにいらっしゃいましたが、いかがいたしましょうか?」
ミリナはどこかビクビクとした様子で聞いてきた。
この侍女の態度にも、自分がいかに今まで横暴で嫌な主人であったか思い知らされる。
「大丈夫よ、教えてくれてありがとう、お通しして差し上げて。」
申し訳なさが募り、できるだけ優しく答えると、ミリナはビックリした顔でこちらを見た。
たったこれだけの応対で驚かれるなんて、今までの自分がいかに酷い人間であったかと考えさせられて辛かった。
それはそうと、ほんの少し寝込んだだけで、もうお見舞いに来てくれるなんて、なんて優しい婚約者なのだろうかと思う。
私は本当に、アメルハルト王太子殿下のことが好きだと思った。
でもだからこそ、私は別れを告げなくてはならない。
アメルハルト王太子殿下のためにも。
私は断頭台に近付いて行く時のような面持ちで、アメルハルト王太子殿下が私の部屋に来てくださるのを待つことになった。