14、ユナ令嬢は白状しました。
翌日、なんとか体調を整えた私の元に、ユナ令嬢とアメルハルト王太子が改めてわざわざ出向いてくれた。
名目上は私のお見舞いということだったけれど、余計に具合が悪くならなければ良いな、と、私は内心ひやひやしていた。
けれど、このまま爆弾発言だけ連発されて、全貌は把握できないまま放置、は我慢ができなかった。
毒を食らわば皿まで、こうなったなら、全てを聞かせて貰わなくては気が収まらない。
私は体調不良をなんとか気力で乗り切ると、背筋を伸ばして、二人を待ったのだった。
まず部屋に入ってきたのは、ユナ令嬢だった。
アメルハルト王太子には、別室で待って貰っているようである。
「申し訳ありません、エトゥーナ様、最初のお話は、アメルハルト王太子殿下にもお聞かせできない内容になりますので。」
ユナ令嬢はそう切り出した。
「分かりましたわ。」
私は、ユナ令嬢と自分に、心を落ち着かせるカモミールティーを出して、覚悟を決めてユナ令嬢の話を聞いた。
「『ときめきらぶキュン学園』この名前、エトゥーナ様もお分かりになられてますよね?」
「はい、この世界であるゲームの名前ですわよね。」
ユナ令嬢が腹を割って話してくれている以上、私としても、もう何も隠すつもりはなかった。
「やはりエトゥーナ様も、プレイヤーでしたのね…、現プレイヤーですか?それとも以前に?」
私の態度から、ユナ令嬢はそう判断していた。確かにゲームの名前しか知らない程度ではないと分からせる行動は、多々取っていたと思う。
「以前です。私はいわゆる、前世でこのゲームをプレイした記憶を持っています。」
「異世界転生型ですね。」
ユナ令嬢は、私の状態をそう判断した。
「私は異世界転移型です。たぶん。気がついたら、完全にユナ令嬢になる形で、この世界に飛んでました。」
「そうなんですね…、」
異世界転生とか、異世界転移とか、どうやらこの業界ではこういう現状がカテゴリ分けされるほど、頻繁に起きているようだった。
「私は、今まで普通にただゲームを楽しんでいました。こんな風にこの世界に乗り移るように入ったのは、今回が初めてです。」
それから、ユナ令嬢の長い語りを、私はじっと聞いていた。
ユナ令嬢は、本当は青井優奈という名前のOLであったこと、
ゲーム発売当初から、悪役令嬢のエトゥーナが推しだったこと。
全エンドをコンプリートすると、隠し攻略キャラであったエトゥーナルートが追加されて、隠しコマンド入力で、そのルートが解放されること。
そして、必死でゲームをプレイし、ついにゲットした隠しコマンドを入力した瞬間に、この世界に飛んできてしまったらしい。
「あの時…?」
話から察するに、『私』が突然前世の記憶を思い出した瞬間と、『優奈』が隠しコマンドを入力して、この世界に飛ばされた瞬間は同じだった。
「私、さっき自分は『異世界転移』だって言いましたけど、本当は『異世界転生』かもしれないですね、だって、帰り方わからないですし、『優奈』はもしかしたらもう、ディスプレイの前で死んでいて、魂は完全こちらに移ってるかもしれないですし…、」
「そんなっ…!!」
一人暮らしのOL、テレビの前で変死、乙女ゲームのやりすぎか!?などというテロップが頭に浮かび、そのあまりの悲惨さに、私は涙が出そうだった。
「でも私、後悔なんてしていません!大好きで最推しだったエトゥーナ様を落とすことができれば、あちらの世界の命なんて惜しくないんです!」
「え、ええー…?」
ユナ令嬢の力説に、私は若干引きながらも、でも少なからずトキメキも感じていた。
今まで、前世でもこの世界でも、他人から命をかけてまで愛されたことなんてあっただろうかと思う。いや、ない。
命がけの愛なんて与えてくれるのは、物語の中か、もしくは母親くらいだろう。
「ユナ令嬢…、」
家族以外で、初めてそんな命がけの愛情を見せてくれたのが、まさか女の子からだなんて思わなかったけれど、不思議と嫌悪感はなかった。
「私と同じ重さの愛を返してくれなんて言いません。ただ、側にいることを、どうか許して欲しいんです。エトゥーナ様に嫌われたら、私、この世界ですら生きる意味を失ってしまうんです…、」
「ユナ令嬢っ…!」
ユナ令嬢の涙ながらの訴えに、私の心はぐらついた。
(そして、隙あらばラブラブチュッチュッして貰えたら、なお嬉しいですっ…!)
「ユナ令嬢…?」
一瞬聞こえた気がした不穏な声に、聞き返すと、ユナ令嬢はやはり口を抑えて首を横に振っていた。
なんだか聞き逃してはいけない本音が聞こえてしまった気もするけれど、とりあえずスルーすることにした。怖いけど。
「じゃあ、ユナ令嬢としては、私と二人で幸せに暮らしたい、と、そう望んでいらっしゃるの?」
女二人でシェアハウスして、街で暮らす、それも生き方の一つとして、そこまで悪くはないかとも思う。
「それは、確かにそうできれば一番ですけれども…、」
そこまで言ったところで、ノックの音が聞こえた。
「お話中申し訳ありません、王太子殿下が、そろそろお伺いできないかと仰せでいらっしゃいます。」
侍女のミリナにそう取り次がれ、私はハッとした。
そうだ、アメルハルト王太子殿下がいるのだ。
彼がいったいどう思っているのかが、今後を大きく左右するのは間違いない。
「わかったわ、お通しして。」
私はドキドキしながら、アメルハルト王太子殿下が部屋に入ってくるのを待ったのだった。




