13、ネタバレが始まりました。
気を失った私は、ユナ令嬢に呼ばれたアメルハルト王太子殿下の力で保健室へと運んで貰えたようだった。
意識を無くしていた時間は、ほんの少しだったようで、私はほどなくして目を覚ました。
そして、枕元にいたユナ令嬢と、アメルハルト王太子の姿を見て、再び意識を失いたくなった。
「ああ……、」
何が起こっているのか、私の頭では、もはや完全に理解できなくなっていた。
「申し訳ありません、エトゥーナ様、でも本当に、私がエトゥーナ様をお慕いしているのは本当なんです。」
ユナ令嬢は泣きながら、私の手を握って力説していた。
「ユナ令嬢がエトゥーナを好きなのは本当だ。私達は日々、いかにエトゥーナが可愛いかという話をしているうちに、意気投合していたのだ。」
「待って待って、待ってください。情報量に脳が付いていけません。」
畳み掛けてきたアメルハルト王太子に、私は待ったをかけた。本当に理解できなかった。勘弁して欲しかった。
「エトゥーナ様が私が心を病んでると勘違いされたことには気付いていましたが、優しくしていただける時間が幸せで、ずっと黙っておりました。申し訳ありません。」
「え、ええー?」
まさかの、ユナ令嬢、健康だった説。
たしかにさっき、ユナ令嬢の秘密を知ってしまった時、もしかしたらそうかもしれないとは感じたけれど、実際に言葉で聞いてしまうとショックが大きかった。
「そうですの…、勘違い…、でしたの…、」
確かに幻聴が聞こえるというユナ令嬢の言葉で、勝手に勘違いをしたのはこちらの方だし、今考えると、頑なに病院の受診を拒んだのは、医者による健康だという診断を避けて、精神を病んでる振りを続けるためだったのだろう。
本当は健康だったのであれば、王太子殿下も、仲良しの貴族令息達も心配などしないで当然だ。
それにしても…、
「私の罪悪感って……」
今までユナ令嬢を傷付けてしまった、と思い悩んでいた時間は何だったのか、という気がしてしまう。
(悩んでるエトゥーナ様を見ると、とても申し訳ないと思う反面、エトゥーナ様のそんな優しさに、大変萌えておりました。)
なんだか声にはなっていない不穏な感情を感じて、私はユナ令嬢の方を見た。
ユナ令嬢は口を抑えて首を横に振っている。
ではきっと、萌えが何とか聞こえた気がするけれど、空耳だったのだろう。空耳だと思いたい。
「ユナ令嬢が、健康でらしたと言うのなら、それは別に良いのです。」
(いや本当は良くはないけど。)
「ヒーリング魔法は、健康な方にかけても、何ら害のある魔法ではありませんし、むしろ肩こり腰痛、美肌にも効果はあると思いますし。」
「ありがとうございます。エトゥーナ様のヒーリング魔法のおかげで、私毎日とても快調でした。」
「それは、何よりです…。が、」
私は痛む頭を抑えて言った。
「どうか、私に分かるように、一から順を追って教えてください。できれば、日を改めて、私もう頭が破裂しそうなのです。」
一刻も早く真実が知りたいという気持ちと、今全部話されても、脳が処理できないという、頭の限界が交錯する。
「エトゥーナ、すまない、ただ、私もユナ令嬢も、エトゥーナのことを本当に、心から愛しく思っている。どうかその点だけは疑わないで欲しい。」
「そうなんですの…?」
むしろその点が一番信用できない部分ではあるのだけど、他でもないアメルハルト王太子殿下のお言葉なので、私はひとまず頷くことにした。
「アメルハルト王太子殿下、本当に申し訳ありません、私ずっと、殿下はユナ令嬢をお好きで、ユナ令嬢も殿下をお慕いしていると思い込んでいたのです。その前提が崩れては、再び現状を理解するまでに少し時間が必要なのです…、」
「突然このような形になれば、混乱するのは当然だ。こちらこそ、エトゥーナには本当に申し訳ないと思う。また改めて、エトゥーナが元気になってから、全てを話したいと思う。」
「ありがとうございます…、」
アメルハルト王太子殿下の言葉に、私は安心して、再びベッドに横になった。脳が休息を欲しがっていた。
そして私は、半分眠ったまま、自宅へと返されたのであった。
ユナ令嬢はプレイヤーで、
私は攻略対象で、
ユナ令嬢は健康で、
アメルハルト王太子殿下も、ユナ令嬢も私のことを好きでいてくれて、
それから……、
今日一日でわかったこと、まだ理解できていないこと、全てを聞いて理解するまでには、まだ時間が必要だった。
私は何日か学園を休んで、自宅のベッドでしばらく寝込んでいた。
休んでいれば、頭も自然にきちんと回転するようになっていった。
こうして、数日間ゆっくり頭と身体を休めた私は、今度こそ万全の体調で、再びお見舞いに来てくれる、ユナ令嬢とアメルハルト王太子殿下の訪問に備えたのだった。




