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悪役令嬢は反省しました。  作者: 空木ちとせ
10/15

10、何かを告白されました。

「ところで、アメルハルト王太子殿下、例のお話は、国王陛下の承認は得られましたでしょうか?」

私がそう切り出すと、王太子殿下は苦虫を噛み潰したような顔をした。

「……例の話、とは?」

「私と王太子殿下の婚約破棄のお話です。」

更に殿下はとぼけようとしたので、私ははっきりと婚約破棄を口に出した。

「さて……、」

王太子殿下は目を反らしたまま、言葉を濁した。

「まさか、まだお話になっていらっしゃらないのですか?」

その王太子殿下の態度に、私は驚いて問い詰める。

 王太子殿下の気持ちが分からなかった。

「何故でしょうか?一日でも早くに婚約破棄が成立すれば、殿下はそれだけ早く、心置きなくユナ令嬢とご一緒になれるのですよ!?」

「違うんだ!!」

私の言葉に、アメルハルト王太子殿下は、殿下らしからぬ大声で反論をした。

 普段あまり大きな声を出さない殿下のその言葉に、私はびっくりして口を閉じた。

「違うんだ、彼女とは、ユナ令嬢とは、本当にそうのではないのだ。誤解させたことは謝る。けれどどうか、そうは思い込まないで欲しい。」

「そう、とは…?」

「詳しいことはまだ言えない、それとも…、」

アメルハルト王太子殿下は、私を真っ直ぐに見つめてきた。

「エトゥーナは、もうどうあっても婚約破棄したいほど、私のことが嫌いになったか…?」

アメルハルト王太子の、緑と蒼の瞳の中に、私の顔が映っている。

 至近距離に近付いた、そのあまりに美しい顔の破壊力に、私はただ顔を赤くすることしかできなかった。

「そんな…、」

嫌いになるはずなんてない。後顔が近い。

 心臓がどうしようもなくバクバク言っている。

「それとも、もしかして、他に好きな者ができたのか?…例えば、図書室にでも。」

「え…?」

そこまで言われて、私はようやく、ベルシュタイン教諭との仲を疑われているのだ、ということに気が付いた。

「違います。」

否定しながら、私の心は複雑だった。

「私は、他に好きな方などおりません…、」

もしもやきもちを妬かれたのだとしたら、もしかしたら嬉しいことなのだろうか?とも思う。

 でも、

「私、は……、」

『私』は、『あなた』と違って、他に好きな人などいません。

 そう思った時に、悲しみが胸から沸き上がってきた。

「……おりません。」

あなた以外に、好きな方など、おりません。

 ポロポロと、涙が溢れ出してきた。

 あなたは、他の少女を好きだけど、

 私は、あなたのことだけを愛していました。

 その事実に、「エトゥーナ」は、「私」は、ずっと傷付き続けていた。


 なのにどうして、ようやく諦められそうになったのに、どうして、今さらそんなことを言うのか。

「エトゥーナ…、」

突然泣き出してしまった私に、アメルハルト王太子殿下は慌てていた。

「すまない、私がそなたを傷付けていたのだな…、」

「いいえ、王太子殿下は何も悪くはありません。」

元々無理に取り付けた婚約であったのだし、本当に好きな人を見つけてしまったのなら、そちらに心惹かれてしまうのは仕方のないことだった。

 人の心は理屈ではない、好きになったらおしまいなのだ。

「先にも申し上げましたが、私は次期王太子妃としてふさわしからざる人間です。どうか一日も早く、婚約の破棄をお願い申し上げます。」

「だから…、」

「例え殿下とユナ令嬢がわりない仲ではなかったとしても、私に生涯殿下以外に心惹かれる方が現れなかったとしても、それでも、私が王太子妃にふさわしくない事実は消えないのです。」

殿下の声を遮るのは不敬に当たった。それでも私は話すのをやめられなかった。

「私は、ユナ令嬢をあそこまで追い詰めた悪女です。このような者は、決して人の上に立ってはなりません。アメルハルト様をお慕いしていることと、王太子妃になることは別なのです!」

「どうしてもエトゥーナが王太子妃になりたくないと言うのなら、私は王家から籍を抜いても構わない!!」

私の言葉に、叫ぶように、アメルハルト王太子殿下が返した。

「え…?」

何を言っているのか、分からなかった。

 私には、アメルハルト王太子殿下の、言葉の意味がまったく分からなかった。

「そういう、ことだ。」

いったいどういうことだとおっしゃっているのか。

「私には……」

わかりません。

 そう伝えようとした時、午後の授業開始の予鈴が鳴った。

「詳しい話は、また後ほど改めてしよう。」

アメルハルト王太子殿下は、私の肩を抱くと、そのまま一緒に教室への道を進むことになった。


何もかもがよく分からなかった。

 私は、教室に座りながらも、教師の言葉も耳に入らず、ただ呆然としてしまっていた。

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