1、私は悪役令嬢でした。
他の話を書いてましたが、やはりこちらの話が急に書きたくなり、書きはじめました。
よくあるタイプの悪役令嬢話になるかと思いますが、また見ていただけたら、とても嬉しいです。
気がついたら、私は悪役令嬢だった。
「はっ!?」
気がついた時、私はちょうど主人公をいじめているところだった。
「ご、ごめんなさいぃ~、」
目の前では、ふわふわのプラチナブロンドの可愛い少女が、子犬みたいに怯えて震えている。
平民あがりの主人公、ユナ・ブライトニングだ。
「え?あ、ごめんなさい!こちらこそ!」
その様子に、ユナも、そしてクラス中の生徒がざわついてこちらを注目した。
私の名前はエトゥーナ・オプティナイト、由緒あるオプティナイト公爵令嬢だ。
私はとにかく性格が悪く高飛車で、今まで誰にも謝ったことなどなかった。
当然目の前の、平民あがりのブライトニング男爵令嬢に謝るなどもっての他だったのである。
「え…?いま…?」
私からの謝罪に、ユナ・ブライトニング令嬢は、まるでお化けでも見たかのような顔で、ポカンとしていた。
「ちょっと、あの、本当にごめんなさい、私、ちょっとおかしいみたいですわ。」
しかし私はそれどころではなかった。何か知らない記憶が頭の中に流れ込んできていたのだ。
私は謝りながら教室を飛び出すと、学園の裏庭で少し頭を整理することにした。
「ええっと、何でしたっけ…?」
私は木で体を支えながら、急に頭に流れ込んできた記憶を必死にまとめた。
「そう、ここは…、」
ここは、私が前世でプレイした乙女ゲーム、『ときめきラブきゅん学園』の世界。
そこは貴族ばかりが通う学園で、主人公のユナ・ブライトニングは、平民あがりの身分の低い男爵令嬢として入学する。
様々な苦難を乗り込え、イケメンのクラスメイト達を次々と攻略し、最終的に王太子と恋仲になり、王太子妃となってゲームクリアとなるのである。
この王太子には元々婚約者がいて、性格の悪い婚約者、エトゥーナ・オプティナイトは、主人公ユナに数々の嫌がらせをする。
やがて、それが元で王太子から愛想を尽かされ、公衆の面前で婚約破棄され、学園を追い出されるのだ。
「なんてかわいそう…、って、それが私じゃないの!」
その婚約破棄され、追放される悪役令嬢が自分だと気付き、私は顔面蒼白になった。
「ああ、どうしましょうっ…!」
つまり私はこのまま行くと、公衆の面前で断罪され、婚約破棄され、勘当され、修道院に拾ってもらい、そこで負け犬として一生を終えることになるのだ。
主人公と王太子の結婚式の鐘の音を、修道院の暗い部屋に閉じこもって聞いている場面は、悪役ながらかわいそうだった。
「エトゥーナ、どうかしたのか?様子がおかしいと聞いたが。」
私を心配してわざわざ来てくれたのは、婚約者のアメルハルト・ウィルフリード王太子だった。
「アメルハルト王太子殿下…、」
優しい。
もう愛想が尽きかけている相手のはずなのに、わざわざ迎えに来てくれるなんて、まさに紳士だった。
「格好良い……、」
そして、とてつもなく顔が良かった。
美しい金に輝く髪は、まるで大天使の輪とも王冠のようにも見え、白い透き通るような肌と、桜色の唇は、そこらの女の子より断然美しいのに、しっかりついた筋肉は、精悍さを醸し出している。
長い睫毛に彩られた瞳は、深い蒼に緑も加わり、光により金にも輝き、まるで魔法石のようで、見ているだけで吸い込まれそうだった。
直視もできないほどの美男子、まるで神に愛されたイケメン。
こんな奇跡のようなイケメンがこの世にいるなんて、しかもそれが自分の婚約者だなんて、もはや人生の運は全て使い果たしたと思って差し支えないだろう。
しかし私は、この顔も良くて性格も良くて地位も最高に高いイケメンに、しばらくしたら婚約破棄されるのだ。
公衆の面前で婚約破棄してしまえ!と思わせるほどの悪行を重ね、王太子からの愛想を完全に無くすほど、嫌な思いをさせるのだ。
この、神のように素晴らしいイケメンを、私は悲しませてしまうのだ。
「ご、ごめんなさいっ…!!」
そこまで思い至った時、私は全力でアメルハルト王太子に謝っていた。
「エ、エトゥーナ?いったいどうしたんだ!?頭を上げたまえ!」
私の奇行に、アメルハルト王太子は、心底驚いて駆け寄ってくれた。
私はただただ申し訳なくて、ひたすら王太子殿下に謝り続けた。
公爵令嬢、エトゥーナ・オプティナイトがおかしくなったと、学園中に噂が広まるまで、さほどの時間はかからなかったのだった。




