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第44話 残酷な天使

「なるほど、それほどまでにゼアル様は御喜びであらせられたか」


「はい、それはもう」


 ガンダルフ王は、しみじみと頷いた後、手で弄んでいたワイングラスの中身を空ける。


「考えてみれば当然の事よの。余が酒を嗜むことで心を保っているというのに、ゼアル様はそのような事一切無くとも保てるなどと、何故思ってしまったのか……」


「そうですね。先ほどゼアル様は、一分一秒たりとも離れたくないという事を仰ってました。恐らく、寂しいという感情を表す方法を知らなかっただけなのではないかと思います」


 そうか、とガンダルフ王が呟く。


 その瞳は後悔によってか、ろうそくの炎のごとく揺れている。筋肉の塊の様な体に似合わず繊細な心の持ち主であるのかもしれなかった。


「ガンダルフ王。後悔なさるよりも先にするべきことがあるかと」


 後悔しても過去は取り戻せない。


 だが未来は違う。これからの関係は改善していくことが出来る。ゼアルがより生きやすい様に環境を整える事は出来るのだ。


「そうだな、そなたの言う通りだ」


 ガンダルフ王は、空っぽのワイングラスを手近な台に置いてから体を起こす。


「必要なものがあれば何でも用意しよう。何が必要だ?」


「それは俺に聞かれましても……」


 そんな質問はお門違いだ。


 何が欲しいかなんてゼアル自身に聞かなければ分からない。もっとも、先ほどようやく自分の願いを自覚してよちよち歩きを始めた様なゼアルが、何が欲しいかなんてはっきりと自覚できているはずもないけれど。


「……そうだ、その通りだ」


 初めての子育てに悩むお父さんなどと形容すると、俺は赤ん坊じゃねえ! とゼアルが怒るかもしれないが、まさにそんな感じの表情をガンダルフ王は浮かべていた。


「……ですが一つだけ。恋愛小説は意外と好きだと思います」


 友達と恋人と勘違いして戸惑ってたし、口調や態度は男勝りでガサツでも、隠れて恋愛小説を読みながら恋に恋するタイプと見た。


 なんてアドバイスをすると、ガンダルフ王が思わずといった感じに失笑する。


 肩を震わせてひとしきり笑った王は、


「いや、すまぬ。今のは自分を笑ったのだ。未だに理解していなかった愚かな余をな」


 そう自嘲気味に呟いた。


「……ナオヤよ。そこの机の上に袋が置いてある。見えるか?」


 やや億劫そうに差した方向には、確かに言われた通りの代物――王族が使うものらしく、黒い高級そうな革袋――が鎮座している。


 中身が何かは分からないが、何かが詰まってパンパンになっていた。


「良い事を教えてもらった故な。心ばかりの礼だ」


 報酬と比べると微々たるものだがな、と付け加えられてその中身を理解する。


 金銀銅のどれかは分からないが、硬貨である事は確かなようだ。


「ありがとうございます」


 俺の手持ちはだいぶ少なくなっているため、素直に甘える事にする。


 俺は頭を下げて机まで行くと、ずっしりと重いそれを手に持って元の位置まで下がった。


「以上でよろしいでしょうか?」


「うむ」


 俺はその言葉に一度頭を下げてから静かに部屋を後にしたのだった。








 それから俺はセレナに報告をしてお金を預け、厨房で食料をせしめ、毛布を3枚確保して、オセロを作るための工具と材料を手に入れてから守護の塔へと戻った。


 石造りの階段を上り、最上階へと……。


「うにゃぁぁぁぁぁぁっ!! ナオヤ来ないでぇぇぇっ!!」


 足を踏み入れた瞬間、アウロラの手から投じられた空っぽのコップが顔面を直撃してしまう。


 パニクっているアウロラの後ろからは、ゼアルのキシシシ、なんていう意地の悪そうな忍び笑いが聞こえてくる。


 どうやらアウロラは、ゼアルにさんざっぱらからかい倒されていたようであった。


「ごめんね!? ナオヤごめんね!? でも今はちょっとだけ待って欲しいの!」


「ナオヤ~、アウロラがなー」


「言わないで、言わないでぇ~~!!」


 女が三人揃うと姦しいという漢字になる。


 だが二人でも十分騒々しい様だ。


 とりあえず俺はいくつかの荷物を床に下ろすと、そのまま無言で階段を下りていく。


 ここまでテンションが上がった人に巻き込まれるとろくな事はないと理解していたからなのだが……。


 大はしゃぎしているゼアルが、場を離れた程度で絡むのを止めるはずが無かった。


 ゼアルはふよふよ飛んでくると、俺の頭をやや乱暴にペシペシと叩く。


「なあなあなあ。ナオヤ、お前イリアスってヤツの……」


「ダメェーー!! ダメダメ、ダメなのぉーー!!」


 だぁー、もう。耳元で叫ぶなって。


「結構夜中なんだから近所……迷惑にはならないけど控えろって」


「分かってるよ。分かってるんだけどね?」


 アウロラは必死に視線でゼアルが悪いのと訴えて来る。


 ……慌て過ぎて言語器官がどっか行ったのかな、まったく。


「ゼアル」


「なんだ?」


 相変わらず意地の悪い笑みを浮かべているゼアルに、俺は切り札を切る事にした。


「今パクって来た菓子やらないぞ」


 ゼアルは天使なので別に物を食べる必要はない。


 今までも、食べ物を口にすることはあったが、特段食べたいとは思わなかったようだが、一緒に遊びつつ一緒の物を食べる美味しさを知ってしまった今となっては話が違う。


 俺とアウロラだけが食べて、ゼアルだけ食べないなんて味気ない事、絶対に嫌なはずだ。


「……しゃあねえなぁ」


 予想通りゼアルはニヤニヤしながら俺の提案を受け入れると、ようやくからかうのを止める。とりあえずのイタズラ心を満足させたといったところか。


 守護天使様が人間をいじめるなんてしていいのかと思わないでもないが……。


「あうぅぅっ」


 アウロラは感情の高ぶりからか、若干涙目になりつつも俺の腕にしがみついている。


 そんな小動物めいたアウロラを見ていたら、心の奥底から変な感情が沸き上がって来るような気がしてしまった。


 ……いじめたくなるの分かる……じゃない。いじめ、ダメ、絶対。


「アウロラ、簡単な料理するから手伝ってくれるか?」


 コクコクと無言で頷くが、一切離れようとしないのは、未だゼアルが変な事を言わないか警戒しているからだろう。


「オレも手伝うぜ。料理とかやったことなかったんだよなぁ」


 一方そのゼアルといえば、何故か上機嫌で俺の頭を台代わりにして、両手を枕に頭を乗せて来る。ゼアルは空中に浮いているため、まったく重さを感じないのだが……ささやかながらアウロラよりは「ある」二つの起伏が後頭部に触れてしまっていた。


 何より問題なのは、ゼアルの上半身は、一枚の帯で胸を隠しているだけという非常に露出度の高いものだ。だから、お腹が布一枚を通して俺の背中に当たって高い体温を伝えて来ているというか、ちょっとドキドキするというか……。嬉しいけど非常に困るという状況であった。


 多分自覚してないんだろうけど。


 一応、ゼアルもアウロラもかなりの美少女なんだけど、分かってんのかなぁ。


 俺はため息を吐きつつ、頭と腕に美少女をくっつけたまま階段を上ったのだった。

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