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第42話 広げよう、友達の輪

「ゼアル様が外へとお出になる事がかなう様、早急に手配いたしましょう。とはいえ十数分程度が限界でしょうが」


 ガンダルフ王がそう確約してくれる。


 ゼアルはまだ何も望みを口にしてはいないが、あの表情を見てなお動かないほど王は愚か者では無かった。


「あ、いや……でも、だな」


 未だに戸惑い、自分の感情を理解していないゼアルの前で、ガンダルフ王は膝を折り、首こうべを垂れる。


「ゼアル様も、心を持つただ一己(いっこ)の存在であると、理解しようともしなかったこの愚か者をお許しください」


 何故謝罪されているのか分からないといった様子だった。でも、それを否定しないという事は、ゼアルだって外に出たいのだろう。自分が守っている存在を、その目で見たいに違いない。


「王であるこの身では、時に非情な判断も下さねばならぬため、友となる事は申し訳ないが出来ませぬ。ですが、ご友人となる人物が自由に出入りできる様取り計らいましょう。よろしいですか?」


「いつでも会っていいって。やったね、ゼアル」


 もっと率直に言ってもいいのではないかと思っていた矢先、アウロラがストレートに翻訳しながら彼女に抱き着いた。


 同性同士だからか、アウロラのボディタッチが少し激しい気がする。


 ……ちょっと羨ましいとか思ってないからな。


「あ~、その……なんだ。俺と友達になってくれないかな。今更感がめっちゃあるんだけどさ」


 そういいながら、俺は握手を求めてゼアルに手を差し出した。


「友達……」


「え~っ。もう友達でしょ? ねえ、ゼアル」


「そ、そうなのか?」


 まったく、最初に会った時とは違い過ぎだって。


 というか俺に聞かないでくれ。友達になろうって言ってるのは俺なのに、俺に友達なのかって聞かれたら、なんか……困る。


「仲良くしたいってゼアルが思ってくれるなら、俺は友達を名乗ってもいいかなって思ってる。というかゼアル次第なんだよ、友達って」


 ああもう。こういう時に色んな人の懐にグイグイ突っ込んで行けるアウロラの性格は羨ましいな、ホント。


 アウロラほど強引に行けない性格の俺としては、ゼアルの了解が降りるまでは友達を名乗れないのだ。俺はゼアルの前で手をひらひらさせて、握手を、手を握り返してくれるのをずっと待つ。


 ゼアルはアウロラを首に引っ付けたまま、俺の手をじっと見つめ……。次に俺の顔を見て、最後にガンダルフ王の顔を覗く。


 誰かに答えを出して欲しいのだろうが、誰も答えを出してくれる人なんていない。これは自分で決めなければならないのだ。


 俺としてはそんなに悩まれると、俺と友達になりたくないのかな~って地味に精神的なダメージ受けちゃうので、出来れば早く決めて欲しいのだけれど。


「あ、あの、な? 一つだけ、聞いていいか?」


「質問があるならお姉ちゃんに任せて!」


 アウロラは天使のお姉ちゃんにもなるつもりかな。7柱の守護天使らしいから本当のお姉ちゃんに怒られちゃうぞ。


「あ、いや、これは……ナオヤじゃないと答えられないから……」


 ゼアルはそんな事気にしている余裕がないのか、もじもじしながら上目づかいで俺の事を見上げて来る。


 なんというか、最初の男っぽい態度と今の態度。ギャップが凄すぎてその……ちょっと胸がときめいてるとか言ったら、空気読めって怒られそうだな。


「な、なんだ?」


「ああ、えっとな。その、なんでこんなにしてくれるんだ? お前、俺の事見て発情してるのか?」


「は?」


 発情って何だよいきなり。確かにさっき、可愛いなって思ったけどな。


 でもそれと発情とは別だろ。


「その、だな。こういうのって、男が女を抱きたいって思うから迫ってくるってやつなんだろ?」


「ちげえよ!」


 相手は天使様である事を忘れ、俺は思わずそう突っ込んでしまっていた。


「恋人になりたいって感情は恋愛感情。ゼアルが言ってるのは性欲。俺とアウロラが言ってるのは友愛。全然ちげえよ」


 分かってないってそこまで分かって無かったのかよ。


 子どもレベルって言うと失礼かもしれないけど、ホントにそのレベルで理解してないんだな。


「で、でもな。報酬とか捨ててまで会う時間を買うって、貢ぐとか言うんだろ?」


「誰だそんな事教えたヤツ! ってかそれだとアウロラもゼアルに発情してるって事になるだろ!」


 なんでそうなるんだよ。もしかして今まで大人しかったのはそういう勘違いしてたからか?


「な、なるほど。じゃあそういうのとは別なんだな?」


「別だ!」


 ちょっと失礼過ぎたかもしれないけど、思わず突っ込まずにはいられなかったのだ。


 俺の突っ込みでようやく色んな疑惑が晴れたのか、ゼアルは安心したように「そっか、そっか」と頷いた後で……ようやく最初に会った時の様な、気配が戻って来る。


 にぃっと口を左右に広げ、歯が見えるほどの笑顔を浮かべながら、


「んじゃまあ、友達ってヤツか。とりあえずなってやろうじゃねえか」


 バシンッと音を立てて俺の手を打ち払う。


 俺の手を握らなかったのは、もしかしたら照れ隠しだったのかもしれない。……まったく、感情とかそういうのに慣れてないのにもほどがあるだろ。


「ああ、よろしく」


 俺はとりあえず、ゼアルにはたかれジンジンと痛む手を振りつつ笑い返した。


「……それではよいかな、ナオヤよ」


 初めてガンダルフ王が俺の名前を呼ぶ。


 これはもしかしたらそれだけ俺を認めてくれた証なのかもしれなかった。


「指摘感謝しよう。とんでもない過ちを犯していた様だ」


「いえ、常識って一度信じてしまうと崩すのはなかなか難しいものですから」


「あの涙を見るまで気付けないほど、自分が耄碌(もうろく)しているとは思わなかった」


 ガンダルフ王は、自分が間違っていたことを正しく認められる王で在るようだった。間違いなく為政者として素晴らしい人なのだろう。


 現在進行形で様々な危機に会い続けているのだから、そのぐらい合理的でなければ生き残れないのかもしれないけれど。


「ただ、ゼアル様がこの塔より外に出てしまえば、各街や村は魔族に対する守護を失ってしまう。その事だけは重々承知しておいてくれ」


 魔族が街に侵入できないのはゼアルによって防護壁が張られているからだ。


 街のど真ん中に魔獣の巣が出来ないのもゼアルのお陰である。


 外へ遊びに行こうぜ~と気軽に誘うようなことは絶対にしてはいけないということなのだろう。


 俺も死人を出してまで遊ぼうとは考えて居なかった。


「はい、もちろんです。そのために色々と準備もして来ていますから」


「理解してもらえたのならありがたい」


 ガンダルフ王はそうやって釘を刺した後、やる事があると言って去っていった。


 俺たちをここに残して帰ってくれたという事は、多少は自由にしてもいいという事なのだろう。


「さて、じゃあとりあえず……」


「あっ」


 俺はリュックを漁り、準備していた物――芋を薄くスライスして油で揚げた物、つまりポテチや、ドライフルーツなどの甘いお菓子や、果実水を入れた革袋――を幾つも取り出す。


 アウロラはそれを察して笑いながらゼアルを地面に座らせ、その眼前に、ポーチから取り出したハンカチを敷く。


 これで約束をしていたお話の準備は整った。


 じゃあ――。


「お話しましょ、ゼアル」


 友達の事をよく知る事から始めよう。



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