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第36話 王都セブンスウォール

 王都セブンスウォールの中心にある王城、その裏門へと馬車を乗り入れた所で、ひとまず旅は終わりを告げた。


 魔族との戦闘の報告や、魔石の報酬などやるべきことが山積みである。正確な事は分かっていないが一週間以上は王城で泊まる事になるらしい。


 とはいえ西洋風のお城に泊まれるとあって、俺は内心踊り出したいくらいの気持ちだった。


「いやぁ、ようやく着きましたね」


「そうかしら。これ以上ないくらいに安全な旅路だったわよ」


 セレナは旅が始まって三日目にあった襲撃の事が未だに尾を引いているのか、反応が少しばかり刺々しい。彼女はそう根に持つようなタイプではないのだが、さすがにあれは衝撃的過ぎたのだろう。


 こちらも少し……だいぶデリカシーに欠けていたので何度か謝罪をしたのだが……。


 もう一度すべきだろうかと悩んでいたら、セレナの表情が一気に明るくなった。


「今度からは変な物見せたりしないでね」


「あ、は、はい」


 なんか微妙な会話に聞こえちゃうな。


 そんな意味じゃないのは分かってるけど。


「アウロラ、荷物持とっか?」


 間を外したくて馬車から袋を下ろしているアウロラに声を掛ける。


 リュック一つに荷物をまとめられた俺とは違い、彼女は三つもの袋を抱えていた。


 ……そのうちの一つには、枕と毛布が変わると寝られないとか言って寝具が詰まっているのだが。


「いいの、ナオヤはお姉ちゃんの事気にしなくて。こんなのへっちゃらなんだから」


 お姉ちゃんは旅に枕を持参したりしないと思います。


 なんて言ったらプンプン怒り出すから言わないけれど。


「お姉ちゃんなんだから弟をうまく使うものだろ。いいから」


「む、そうなのかしら。じゃあお願いするわ」


 さすがに半月も一緒に居れば、扱い方も分かって来る。


 俺はアウロラから袋を一つ受け取り肩に担いだ。


「セレナさんのぶんも持ちましょうか?」


「私のは大丈夫よ、軽いし。それよりも残った水と食料をお願い」


「はい」


 言われてそれらを持ち上げたのだが、中身はあまり残っておらず、非常に軽い。多分、きっちり計算して持って来たのだろう。


 以前早馬として王都に連絡を取ったのは彼女だったので、こういう事には相当慣れているのかもしれなかった。


 門から少し行ったところにある宮殿入り口近くにまで来ると、セレナが降りる様に促してくる。俺が荷物を持って馬車から飛び降りると、それを追うようにしてアウロラも降りた。


「あなた達はそこの門から入って路側にある詰め所で名前を言えば魔石以外の荷物を預かってもらえるから。そうしたらすぐに謁見よ」


「はい?」


 思わずアウロラと顔を見合わせてしまった。


 耳慣れない言葉で一瞬反応が遅れてしまったが、それって結構凄い事だと記憶しているんだけど……。


「軍隊規模の戦闘もなく銀級以上の魔石が一度にいくつも手に入るなんて異常事態なの! もうちょっと自覚しなさい!」


 言われた所で俺としては結構ゴロゴロと手に入っているため、それほどありがたみが無かったりするのだが……。


 俺の中ではむしろ赤い魔石をあまり見たことが無いので、そちらの方が珍しかったりする。


「そうなの?」


「私は回収する時以外魔石に触らせてもらえなかったからよく分かんない」


 ……って、セレナさんどうしてそんなに頭抱えてるんですか。


 なんて俺たちのせいか、すみません。


「とにかくなるべく早く行って」


「はい、わかりました」


 そうやって急かされた俺とアウロラは、言われるがままに詰め所に向かい、指示された通りに武器や荷物――スマホはポケットに入れておいたが――を預け、ついて30分も経たない間にこの国の王様との謁見することになってしまった。


 俺たちは周りを兵士や大臣に囲まれながら空っぽの玉座の前に跪き、頭を垂れる事三分間。


 つまりほんの少しだけ待っただけで、


「面をあげい」


 なんて野太い声が降って来る。


 この国がこういう事に特別迅速なのか、それともセレナの言う通り俺がやったことがそれだけ大それたことだったのかは判別がつかなかった。


「はいっ」


「は、はいっ」


 やんごとなきお方の御尊顔を拝する名誉にあずかれるのは人生で初の事である。


 アウロラも当然初なため、俺たちは揃って緊張しながら顔を上げて……。


「余がガンダルフ三世である。よくぞ来たな、楽にするといい」


 にこやかに笑う……何というべきか、筋肉ダルマを見た。


 短く刈り上げた金髪と小さく整えられた口ひげ。王杖がどう見ても箸にしか見えないほどの巨躯。逆三角形に見えるほど鍛え上げられた大胸筋。好きな物は何ですかと聞いたら迷いなく筋肉という答えが返って来そうなほどのマッチョマンが窮屈そうに縮こまりながら玉座に腰を下ろしていた。


 ……とりあえず玉座改修しろよ。


 思わず胸の内でそう突っ込んでしまう。無礼だから絶対口にしないが。


 視線をアウロラに向ければ、アウロラも顔を引きつらせていたため、俺と同じような感想を抱いているに違いない。


「それで、その方らが魔族を倒したとな?」


「……は、はい!」


 俺の返事を肯定するように、アウロラもコクコクと首を縦に振る。


「普通ならば酔っ払いのたわ言だと取り合わぬのだが、報告してきたのがシュナイドほどの男ともなれば、信じぬわけにもいかん。それで倒した当人たちに話を聞こうと思ったのだ」


 シュナイドさんやっぱり上の人からの信頼も厚いのか。


 真面目で実直、賄賂とかもまず受け取らない人だからかな。


「はい……っとその前に……」


 俺はリュックの中に入れていた、魔石の入った皮袋を取り出して……迷った末にその場で金級の魔石を二つ取り出して手の上に乗せる。


 魔石が放つ黄金の輝きは、日の光を受けて更に輝きを増し、見る人すべてにその存在感を刻み込んでいく。何かを語るまでもなく、この魔石が本物であることが理解できただろう。


 先にこれらを見せたのは、こうした方が説得力が出ると思ったからだ。


「この場に置いてもよろしいでしょうか? 金級の魔石だけであと5つございます」


「銀は15個あります……確か。だよね、ナオヤ」


 うん、記憶にあまり自信がないなら別に言わなくてもいいんだぞ。正解は16個だ。


 というかめっちゃ緊張してるな、アウロラ。


「……そ、そうか。念のために本物であるか調べさせよ。これほどの輝きを持つ魔石が偽物とは到底思えぬがな」


 金級の魔石を体内に宿す魔獣は、単体で国を滅ぼしうるほどの力を持つ、だったか。その魔石がこの場に7つもあるのだから、単純に考えてもそれ以上の存在を討伐出来たと考えるのが普通であった。


 ガンダルフ王の命令を受けて兵士の一人が受け取るために近づいてくる。


 その兵士はガタガタと震えながら皮袋を受け取り……震える手では満足につかみ続ける事が出来ず、取り落としてしまった。途端――。


「も、申し訳ありませんっ!」


 その兵士が必死になって頭を下げる。俺に向かって。


「いえ、なにも問題ありませんよ。落ち着いてください」


「は、はいっ!! すみませんでした、ご容赦願いますでしょうか!!」


 多分、この兵士は俺の事を恐れているのだろう。


 軍隊が束になってかかってようやく倒せる存在を、目の前に居る人間がいくらでも倒している。


 そんな事実を前にしてしまえばそういう反応になってしまうのも仕方のないことかもしれなかった。


 俺はその事を少しだけ寂しく感じて……。


「それでは、魔族を倒した状況についてお話しいたします」


 そんな寂寥感を振り払うべく、ガンダルフ王の瞳をまっすぐと見据えてから報告を始めたのだった。

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